【第3回WUBS】2大会連続出場で初の4強入りを目指すペルバナス・インスティテュート(インドネシア)

過去2回のWUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=世界大学バスケットボール選手権)で、インドネシア勢は着実な進歩を見せている。第1回大会のペリタハラパン大は勝ち星をつかめないままに終わったが、昨年の第2回大会では、ペルバナス・インスティテュートが5-8位決定戦でシドニー大(オーストラリア)を相手に60-56の勝利をつかんだ。そのペルバナス・インスティテュートが2年連続で出場する第3回WUBSでは、さらなる前進を期待されるべき舞台だ。

昨年の3試合では、上記のシドニー大との一戦以外は点差をつけられて敗れている。白鷗大との初戦が49-97。最終日の5位決定戦では東海大に48-100と圧倒され、厳しい現実を突きつけられた。しかし東海大に敗れた後、取材に応じたズルファリザルAコーチは終始笑顔で、貴重な経験が彼らの成長に必要な栄養素だったことを語っていた。

その捉え方が間違っていなかったことを、ペルバナス・インスティテュートはインドネシア国内大会で証明してみせた。大学バスケットボールにおける王座決定戦にあたるLIMA(Liga Mahasiswa)ナショナルズ2023で連覇を達成したのだ。チームに在籍する20人のプレーヤーには、昨年WUBSでプレーしたメンバーが8人含まれており、昨年のWUBSから得た教訓が生きた形だが、次なる飛躍のチャンスたる第3回WUBSではどんな成果をつかむことができるだろうか。

飛躍のカギを握るLIMA2023ファイナルMVP、グレーンズ・タンクラン
1勝2敗で終えた昨年のWUBSをもうすこし振り返ると、ペルバナス・インスティテュートは平均得点52.3が大会最少、平均失点84.3が大会最多だった。どんな要素がこの数値につながっているかと言えばターンオーバーで、敗れた2試合では合計53に上った。個々の能力も高く、かつ細部に神経を行き届かせながら40分間徹底してプレッシャーをかけ続けてくる白鷗大と東海大のディフェンスを前にして、ペルバナス・インスティテュートはボールを運ぶこと自体が非常に難しい状況だったのだ。勝利したシドニー大戦のボックススコアを見ると、この数値は12にとどめられていた。この事実からも、ターンオーバーが最大の敗因だったことは否定のしようがない。

しかし、だからと言って下を向く必要はまったくない。実は第2回WUBSで、白鷗大と東海大は平均失点最小の2チーム(白鷗大が65.7で2位、東海大が59.0で1位)。チームディフェンスにプライドを持つ2チームを相手にとにかく全力でぶつかった経験は、結果の如何によらず何物にも代えがたい価値があったはずだ。

逆にスタッツ項目の中で、ディフェンス・リバウンドには能力の高さが感じられる。敗れた2試合でも合計で48-56と8本の差しかなく、シドニー大戦では38-36と上回っていた。シドニー大は身体能力の高い200cm越えのビッグマンもいたチーム。対してペルバナス・インスティテュートは、最長身でも192cmと小柄だった。それでも、ほかの2試合で封じられた機動力を生かせたこの試合では、サイズの不利を跳ね返す強さを十分に発揮した。そんなチームがトランジションを堅実に遂行し、隙を突いてそのまま得点を狙ったり、フィジカル面の強さを生かせるハーフコートゲームに安定して持ち持ち込むことができれば勝機を見出せる。問題はそれを強度の高いWUBSの舞台で遂行できるかどうかだ。

【関連記事】
WUBS公式Instagramをフォローして最新情報をチェック

それを可能にするためには、昨年の経験を持つ8人の活躍が欠かせない。特に、インドネシアのプロリーグIBL(Indonesian Basketball League)でもプレー(次ページ参照)して学生界とは異なるフィジカリティーやインテンシティーの高さを経験しているグレーンズ・タンクラン(PG/178cm)、フェルナンド・マナンサン(SF/190cm)、ダニエル・サラメナ(SG/188cm)、ジョーダン・オエイ(SG/183cm)らの奮起に期待がかかる。

第2回WUBSの5位決定戦でのグレーンズ・タンクラン。今夏は特に飛躍が期待されるプレーヤーだ(写真/©月刊バスケットボール)

この中でタンクランはLIMAナショナルズのファイナルで14得点、10リバウンド、6アシストを記録してMVPに輝いたプレーヤーだ。タンクランは2023シーズンに平均11.9得点、7.4アシストを記録してアシスト王の称号も獲得。平均14.9得点に10.1リバウンドという成績でリバウンド王となったアント・ボイラタンというビッグマンとともに、LIMAのオール・インドネシアン・ファーストチーム(いわゆるベスト5)にも選出された。ペルバナス・インスティテュートからは、平均15.0得点、4.2アシストのサラメナもセカンドチーム入りしている。

ちなみに昨年の第2回WUBSでは、3試合平均13.7得点、3P成功率39.8%(18本中7本成功)を記録したサラメナが、オフェンス面では最もインパクトのあるパフォーマンスを披露していたと言えそうだ。また、来日初戦で厳しい思いをさせられた白鷗大戦で、物おじせずに攻め気を見せてチームハイの13得点を記録したマナンサンの存在も大きかった。マナンサンは3試合でサラメナと並ぶ平均13.7得点を記録しており、シドニー大戦では10得点、16リバウンド、9アシストとトリプルダブル“未遂”の大活躍だった。

第2回WUBSでは、ダニエル・サラメナの高確率な3Pシューティングも、ペルバナス・インスティテュートにとって大きな収穫だったに違いない(写真/©月刊バスケットボール)

一方で、ガードのタンクランは平均5.3得点、1.7アシストと持ち味を出し切れずに大会を終えていた。さて、LIMAのMVPとして臨む第3回WUBSではどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。ペルバナス・インスティテュートにとってバックコートの安定感は生命線。その意味では、タンクランが飛躍した姿を見せられるかどうかが、チームをネクストレベル——2勝して4強入り——に導くカギと言えるかもしれない。

☆インドネシアのバスケットボール

FIBAアジアカップ2022でホストを務め、FIBAワールドカップ2023の共催国の一つとして国際大会の最高峰に深くかかわったインドネシアのバスケットボールは、現在間違いなく上昇機運にある。現時点ではFIBA世界ランキング75位だが、IBLもすでに創設20年の節目を越えており、今後の強化・発展が楽しみな状況だ。

カナダ対フランスという好カードが組まれたFIBAワールドカップ2023初日、インドネシア・アリーナは大観衆で埋め尽くされた(写真/©FIBA.WC2023)

世界4位の約2.7億人が暮らすインドネシアは若年世代が多く、あらゆる分野で今後成長を期待できる国でもある。首都をジャカルタからカリマンタン島に移転する大胆な計画も進行中。そのような国を挙げての成長機運の一部としてバスケットボール市場の拡大をとらえ、今後を展望すると面白い見方ができそうだ。

大学バスケットボールは、LIMA(Liga Mahasiswa)と呼ばれる大学スポーツ全体の統括団体が主催する競技会を活動の土台としている。シーズンは秋口から年末までと長くはないが、その期間にリージョナル(Regional)と呼ばれる予選ラウンドが2回あり、さらに決勝ラウンドに当たるナショナルズ(Nationals)を経て王座を決める。

☆ペルバナス・インスティテュートとは

ジャカルタにキャンパスを構えるペルバナス・インスティテュートは、インドネシアの銀行・金融関連産業の人材育成機関的な役割を担う高等教育機関として知られている。「ライノス(Rhinos=サイ)」のニックネームで親しまれるバスケットボールチームは、2021年から3年連続でLIMAナショナルズのファイナル進出を果たし、2022年と2023年に連覇を達成したことが示す通り、近年のインドネシアにおける大学バスケットボール界のフロントランナーだ。ただし新興チームという捉え方は適切ではない。チームのOBには、2010年代にインドネシア代表として活躍したクリスチャン・ロナウド・シテプというレジェンドや、2017年と2020年にIBLオールスターに選出されたダニエル・ウィナスのような人気プロが存在する。

前述のとおり、LIMAのシーズンが長くない中で、各大学に所属するプレーヤーたちの中にはBリーグの特別指定選手のように学生の立場のままIBLでのプレー機会を得る者も多い。ペルバナス・インスティテュートでも、トッププレーヤーたちは次世代の育成の糧となるIBLでの貴重な経験を学業と両立させながら大学生活を送るのが、一つのパターンとなっているようだ。

第2回WUBSの5位決定戦を終えた後、来場者に挨拶するペルバナス・インスティテュートの面々(写真/©月刊バスケットボール)


WUBS公式Instagramをフォローして最新情報をチェック

© 日本文化出版株式会社