トランプ前大統領に不利な記事を握りつぶした 雑誌発行人が「口止め料」裁判で証言

ドナルド・トランプ前米大統領が不倫相手への「口止め料」の支払いをめぐって業務記録に虚偽記載をした罪に問われれている裁判で、ニューヨークのタブロイドメディア業界の有力者が23日、証人として出廷し、前大統領側と秘密の計画があったと証言した。

証人となったのは、米誌ナショナル・エンクワイアラーの元発行人デイヴィッド・ペッカー氏。この裁判における最初の証人で、22日に続いてニューヨーク・マンハッタンのニューヨーク州地裁に出廷した。検察の3時間近くにわたる尋問に答えた。

ペッカー氏は、2016年大統領選挙の時期にトランプ前大統領や当時の顧問弁護士マイケル・コーエン氏と協力し、前大統領の評判を落とす記事を抑え込んだと証言。そうした行為を、「友人間の取り決め」だったと説明した。

ペッカー氏はまた、特定の記事について前大統領に、「非常に大きな記事になりうるので、市場から消し去るべきだと思う」と助言したと述べた。

トランプ前大統領は、2016年大統領選を前に、かつて不倫関係にあったとされる元ポルノ映画スターのストーミー・ダニエルズ(本名ステファニー・クリフォード)氏に13万ドル(約2千万円)の「口止め料」を支払うようコーエン氏に指示し、これを隠すために業務記録に虚偽の記載をした罪に問われている。大統領経験者が刑事裁判の被告になるのは米史上初めて。

前大統領は、34件にわたる虚偽記載の罪状について無罪を主張し、ダニエルズ氏との性的関係も否定している。

検察は、前大統領が不倫疑惑の記事をもみ消すことで大統領選に影響を与えようとしたと証明しようとしている。その検察にとって、この日のペッカー氏の証言は極めて重要なものとなりうる。

互いに「有益な」関係

ペッカー氏は法廷で、トランプ前大統領とは1980年代後半に知り合い、やがて親しい友人同士になったと述べた。

前大統領がリアリティー番組「アプレンティス」の司会だった時期には、出演者の情報を前大統領から独占的に受け取り、ナショナル・エンクワイアラーに記事を載せることで、番組も雑誌も人気が上がったと説明。互いに「有益な」関係だったとした。

コーエン氏については、前大統領が選挙運動を始めた直後の2015年8月に最初に会ったと説明。その際、前大統領の評価を下げる記事は抑え込み、上げる記事を押し出すことで同意したと述べた。そうした計画は「可能な限り知られないように」しておくことになったとした。

また、前大統領は「非常に美しい女性とデートする」「魅力的な男性」だったため、情事に関する話が持ち上がった際には前大統領に知らせることにも同意したと述べた。

2件の「記事つぶし」を証言

ペッカー氏は具体的に二つの記事について、3人で握りつぶした状況を詳述した。

それによると、トランプタワーのドアマンだったディノ・サジュディン氏が2015年に、トランプ前大統領がかつて婚外子をもうけたという根拠のないうわさに関する記事を売り込んできた。

ペッカー氏は調査の結果、その内容が「1000%間違い」だと突き止めた。しかし、記事が出れば「選挙運動にとって非常に恥ずかしい」ことになるため、記事の永久的な権利をサジュディン氏から3万ドルで買い取ることでコーエン氏と合意したと証言した。

もう一つは、米誌プレイボーイのモデルで、トランプ前大統領と長期間、関係をもっていたと主張するカレン・マクドゥーガル氏に関するものだった。前大統領は同氏との関係を否定している。

ペッカー氏は、マクドゥーガル氏に関する記事を買うよう前大統領に進言したが、前大統領は決心がつかず、「こうしたことをしても必ず表沙汰になる」とペッカー氏に話したと証言した。

そして、最終的には前大統領の会社がこの記事を15万ドルで購入したと述べた。

これらの支払いについて、検察は訴追していない。しかし、「キャッチ・アンド・キル」と呼ばれる「記事つぶし」に関する具体的な証言は、前大統領によるダニエルズ氏への支払いに至る背景を描くうえで、検察の役に立つとみられる。

(英語記事 Trump trial: Publisher says he suppressed negative news

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社