初任給30万円超えの企業も。「賃上げ」実現のために中小企業が知っておくべき3つの支援制度

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採用競争の激化や物価高などを背景に、新入社員の初任給を引き上げる大手企業が相次いでいる。

第一生命ホールディングスは、今年4月入社の大卒のうち、転勤を伴う社員の初任給を約16%引き上げ32万1000円にすると発表。アシックスは大卒の初任給を24%引き上げ27万5000円に、東京エレクトロンは一律で約4割引き上げて大卒で30万4800円にするという。

また、ファーストリテイリングでは初任給に限らず、2023年3月から国内従業員の給与の最大4割引き上げを実施している。

2024年の春闘では、労働組合の賃上げ要求金額に対し大手企業の満額回答が相次ぎ、労働組合の中央組織の連合では33年ぶりの高水準となった。

こうした大手企業の状況が中小企業に波及することで、国内の本格的な賃上げにつながるが、中小企業にメリット・デメリットはあるのだろうか。松本佳之税理士に聞いた。

●賃上げにより経費は増えるものの、人材確保には必須

初任給ほか賃金を引き上げることで、会社にとっては経費が増えることになりますが、その一方で、人材の定着率が向上したり、新規採用で応募が集まりやすくなるといったメリットを享受することができるでしょう。

大企業が賃上げを積極的に進めている昨今、中小企業においても、賃上げを進めていかないと、人材の確保にますます苦労することになってしまいます。

国としても中小企業の賃上げを様々な形で支援していますので、それらを活用することで円滑な人材確保につながることが期待できます。

●中小企業が活用できる国の賃上げ支援を活用

国による中小企業の賃上げ支援制度をいくつかご紹介します。まずひとつが「賃上げ促進税制」です。

賃上げ促進税制とは、その名のとおり、税制面で賃上げを促進するための制度です。中小企業向けの賃上げ促進税制では、全雇用者の給与等支給額が前年度比で一定割合以上増加した場合に、増加した給与等支給額に応じて法人税等の軽減を受けることができます。

令和6年度税制改正において、賃上げを実施した年度に、赤字などで法人税等の軽減を受けることができなかった金額を5年間繰越しが可能になるなど、活用しやすくなりました。

その他にも、賃上げを後押しする支援として「業務改善助成金」があります。

業務改善助成金では、生産性向上に資する設備投資等を行った上で、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部の助成を受けることができます。助成金上限額は最大 600万円となっています。

また、「小規模事業者持続化補助金」でも、賃金引上げ枠が設けられており、要件を満たす形で賃上げを行った場合には、補助上限が上乗せされることとなります。

なお、2024年度は第15回までの募集は終了しています。今後の公募については中小企業庁の発表をお待ちください。

ここで紹介した各制度はほんの一例に過ぎず、様々な賃上げを促進するための施策が設けられています。

中小企業庁や会社所在の地方自治体のホームページなどを確認して情報を収集し、積極的に活用していくとよいでしょう。ご自身で調べるのが難しいときは、税理士や社会保険労務士、中小企業診断士などの専門家に相談するのもひとつです。

※参考
・中小企業庁/中小企業向け「賃上げ促進税制」
(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html)
・厚生労働省/業務改善助成金
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html)
・中小企業庁/「小規模事業者持続化補助金<一般型>」
(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shokibo/2024/240116jizoku.html)

【取材協力税理士】
松本佳之税理士・公認会計士。みんなの会計事務所代表。
「税理士のノウハウを会社成長の力に」をモットーに、起業支援、中小・ベンチャー企業の支援や税務業務を手掛ける。
グループ会社「みんなの会計ビジネスサポート株式会社」では、経理業務のアウトソーシングサービス「みんなの経理部(https://keiribu.co.jp/)」を運営。企業の税務・経理の課題を様々な形で解決する。
事務所名 :みんなの会計事務所
事務所URL:https://www.office-kitahama.jp/

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