「ジオ展2024」が大盛況だった! 地図・位置情報の関係者らが集結するイベント、来場者数が過去最高を記録【地図と位置情報】

by 片岡 義明

大盛況となった「ジオ展2024」の会場

地図・位置情報に関する企業・団体が出展するイベント「ジオ展2024」が(共同運営:マップボックス・ジャパン合同会社、株式会社MIERUNE)4月19日、浅草橋ヒューリックホール(東京都台東区)で開催された。その模様を前・後編の2回にわたってレポートする。

「ジオ展」とは

ジオ展は、地理空間情報に関連したビジネスを手掛ける企業をはじめ、大学の研究室やNPO、趣味のサークルなど幅広い団体が集うイベントで、製品やサービスの紹介のほか、人材採用の場としても利用されており、求人情報も掲示される。

昨年の「ジオ展2023」は、コロナ禍明けで4年ぶりのリアル開催ということで、過去最高となる42の企業・団体が出展し、852人の来場者を集めたが、今年の「ジオ展2024」はそれを上回る50の企業・団体が出展し、来場者も1072人と過去最高となった。さらに出展者180人も加わり、会場の規模は大きくなったものの昨年以上の混雑となった。会場の一角では出展各社が10分間の持ち時間でプレゼンテーションが行われたが、椅子は常に満席で立ち見客も大勢いた。

一口に“ジオ”と言っても、地図データやプローブデータ、地図開発プラットフォーム、航空測量、GIS(地理情報システム)、AR/VR、ビッグデータ分析、アプリ、紙媒体の地図など、製品やサービスは多岐にわたる。ジオ展ではこのようなさまざまな立場の企業・団体が一堂に会するため、現在のトレンドを肌で感じることができた。また、出展者と来場者の交流だけでなく、出展者同士による活発なコミュニケーションも見られた。

出展企業によるプレゼンテーション
出展各社による求人情報も掲示

AI関連の展示が増加

展示会場を歩いて感じたのは、AI関連のサービスやソリューションがあちこちで見られたことだ。

株式会社オービタルネット

株式会社オービタルネットのブースでは、画像生成AI技術を活用して航空写真画像や衛星画像の超解像化を行う技術を紹介していた。一般的な超解像モデルでは道路や屋根の質感を保ったまま超解像化するのは難しく、ベタっとした質感になってしまうが、独自モデルを構築することで自然な感じの超解像化を実現した。同社はほかにも、生成AIを画像認識に活用して航空写真画像や衛星画像から地物の識別やセグメンテーションに活用する技術も紹介していた。この技術は、ソーラーパネルなど一般的な地図には掲載されていない情報を識別するのにも有効だという。

オービタルネットのブース

パイオニア株式会社

パイオニア株式会社の展示ブースでは、同社が提供するプラットフォーム「Piomatix LBS」を紹介していた。Piomatix LBSは、カーナビゲーションの車載器から収集した80億kmの走行履歴データや全国70万kmにおよぶ交通情報、ルート探索に関する80件以上の特許など、パイオニアがこれまで培ってきたカーナビゲーションの経験と技術をオープンプラットフォーム化したサービスだ。ルート検索APIやクラウドナビゲーションやプローブデータ収集のSDKなどを提供する。

同プラットフォームでは、これまで蓄積した過去の膨大な交通量データと現在の交通量を組み合わせて道路の混雑状況を予測し、到着予測時間の精度を向上させることなどにAIを活用している。なお、同プラットフォームではカーナビアプリ「COCCHi」のホワイトレーベル提供も行っている。COCCHiは2023年9月に提供開始したスマートフォン用カーナビアプリで、2024年4月18日には累計30万ダウンロードを突破した。道路幅や車線数、信号の数や交差点の曲がりやすさまで考慮した質の高いルート探索・案内が評価され、タクシー配車などにも活用されている。

パイオニアのカーナビアプリ「COCCHi」

LocationMind株式会社

位置情報AI・宇宙ベンチャーのLocationMind株式会社も出展した。同社は東京大学柴崎亮介研究室発のスタートアップで、自動車や船舶の位置情報ビッグデータやスマートフォンの人流データなど種類の異なるデータを掛け合わせて課題の分析を行うサービスを提供している。対話型生成AIを活用して自然言語を使って人流分析を行えるサービスも開発中で、不動産や飲食店の出店担当などへの提供を検討している。これを利用することで人口予測や開発候補地の選定、交通状況、周辺店舗の調査、住宅マンションの検索などをチャットで完結できるようになる。

LocationMindでは、生成AIを活用した位置情報分析の技術を開発中

マップボックス・ジャパン合同会社

このほかAI関連では、マップボックス・ジャパン合同会社(Mapbox)が2023年10月に発表した車載向け生成AI音声アシスタント「MapGPT」を紹介していた。MapGPTは音声アシスタントを作成できる会話AIソリューションで、従来の音声アシスタントよりも優れた理解力とレコメンド機能を実現する。自動車メーカーは、音声アシスタントに使用する大規模言語モデル(LLM)や参照する情報ソース、実行させるアクション、音声、アバター、性格、ウェイクワードなさまざまな要素をカスタマイズできる。

マップボックス・ジャパンのブース

3D都市モデルや3D点群データを活用したプラットフォーム展示

AIと並んでもう1つ目立ったのが、都市のデジタルツインのベースとなる3D都市モデルや3D点群データを取り扱うための技術だ。

ソニーグループ株式会社

ソニーグループ株式会社の展示ブースでは、デジタルツイン開発者向けのプラットフォーム「Mapray」を紹介。Maprayは3D都市モデルや3D点群データとさまざまな情報を集約して高度なデータ活用を可能にするプラットフォームで、広範囲に広がる都市や地形データを遠方までリアルに表示・管理できるのが特徴。デジタルツインを活用したサービス開発環境を、グラフィックスエンジン「maprayJS」と、3次元データや地理空間データを生成・管理・配信する「Mapray Cloud」を通じて提供する。

3D点群データの表示品質にもこだわっており、ユーザーの視点に最適化された表現をリアルタイムに計算し、点群を緻密に再現できる。また、太陽高度データを利用した太陽の動きや大気表現、星や月の位置データベースを用いたシミュレーションも可能で、人工衛星「EYE」の軌道をシミュレートして宇宙の景色を体験できるウェブアプリケーション「EYEコネクト」にも採用されている。

3D都市モデルや3D点群データをスムーズに可視化できる、ソニーグループの「Mapray」

株式会社ホロラボ

株式会社ホロラボのブースでは、XR技術を用いたデジタルツインマルチプラットフォーム「torinome(トライノーム)」を紹介。torinomeはPLATEAUの3D都市モデルとXR技術を組み合わせることで複雑な都市開発を直感的に理解できるようにしたプラットフォームで、データの可視化・編集が可能な3D GIS「torinome Web」、ARアプリ「torinome AR」、カード型ARツール「torinome Planner」の3つのシステムで構成される。torinome Plannerは3Dモデルを利用したプランニングが可能なツールで、テーブル上にあるカードをiPadで覗くと3Dモデルが表示され、模型を使わずにカードを動かしながら最適な配置を複数人で検討できる。torinomeは観光な防災、建設、残したい景観のデジタルアーカイブなどさまざまな用途で利用可能だ。

ホロラボの「torinome Planner」

日本スーパーマップ株式会社

日本スーパーマップ株式会社の展示ブースでは、1月に発表した3Dビューア「CIM View 2024」を紹介。同ビューアは3D都市モデルや3D点群データを高速・高精度に表示することが可能で、連続していないデータをワークスペースにアップロードすることでシームレスな全国地図や航空写真上にレンダリングできる。2D地図と連動しながら3Dデータを見ることが可能で、距離や面積などの計算も簡単に行える。断面図作成や任意地点からの見通し、見通せる領域などの解析機能も搭載している。

日本スーパーマップの「CIM View 2024」

INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

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