疲れたときについスイーツや甘いものに手が伸びるという人は多いのでは? 医学博士、また日本リカバリー協会代表理事でもある片野秀樹氏は「正確には、疲れを一時的に覆い隠しているだけ」と言います。片野氏の著書『休養学: あなたを疲れから救う』から一部抜粋して紹介します。
スイーツでは疲れはとれない?
「腹八分目が健康にいい」とわかっていても、ストレスがかかるとやけ食いをしたり、甘いものを食べたくなったりしませんか?
これはストレスを何とか抑えようとする体の防御反応、自己防衛行動です。
食事をとると、副腎皮質からコルチゾール(ストレスがかかると分泌されるホルモン)が分泌されます。コルチゾールには、すでにお話ししたように抗炎症作用と免疫抑制作用がありますが、そのほかに、血糖値を上げる作用もあります。
まず、食事をとると当然、血糖値が上がります。血糖値が上がるとインシュリンが膵臓から出てきて血糖値を下げようとし、そのあとに血糖値が一気に下がります。今度はこの下がった血糖値を上げないともとの状態に戻りません。このときにコルチゾールが出ます。コルチゾールはストレスに対抗しようと交感神経を上げるので戦闘態勢に入ることができます。ですから、むしゃくしゃすると何か食べたくなったり、甘いお菓子を欲したりするのです。
「疲れているけれど、どうしてもあと一仕事しなければいけない」
というようなとき、自分を奮い立たせるために、無意識にやけ食いをしたり甘いものを口にしたりしているのかもしれません。逆にいうと、副交感神経を高めてリラックスすべきタイミングで食べすぎてしまったり、甘いものを口に入れたりしてしまうと、緊張・興奮状態になり、リラックスどころか逆効果になります。
家に帰ってきて「ああ疲れた、今日はイヤなことがあったな。忘れるためにスイーツでも食べちゃおう」というのはわかりますが、かえって興奮して、寝つきが悪くなってしまいます。よく「甘いものを食べると疲れがとれる」といいますが、正確には、疲れを一時的に覆い隠しているだけです。楽しみとしてケーキやチョコレートなどを食べるのはかまいませんが、お菓子を食べたからといって疲れがとれるわけではありません。
「糖質は脳の餌だから、頭を使うときは甘いものを食べるといい」というのもよく聞く話ですが、食べたものが消化・吸収されるには時間がかかります。テストの直前に甘いものを食べたからといって、脳がよくはたらくとは限りません。
お酒は逆に「疲労のもと」になりかねない
お酒が好きな方は、お酒と疲労回復の関係に興味があるのではないでしょうか。昔から「酒は百薬の長」といわれますし、飲むと血のめぐりもよくなります。
しかしお酒は精神的なリラックス効果が期待できるものの、肉体的には負担のほうが大きいようです。私もお酒が嫌いではないので、非常に残念なのですが……。
なぜお酒は体によくないのでしょうか。
これは、飲酒すると、アルコールを分解するために肝臓が大忙しで働かなければいけないためです。ですから「疲れをとるために」といって飲んでも、さらに疲れてしまうだけです。肝臓がアルコールを分解する過程で、アセトアルデヒドという活性酸素のような毒性物質が出ることによって、肝臓を傷つけるという説もあります。
さらにいうと、アルコールを飲むと寝つきはよくなりますが、夜中に目が覚めやすくなるので、睡眠によるリカバリーが十分にできなくなります。
「お酒を飲むと深く眠れる」という人もいますが、アルコールを飲んで寝ている状態は、麻酔で気を失った状態と似ています。
通常の睡眠であれば、ステップを踏んで浅い睡眠から深い睡眠へと移行します。しかしお酒を飲んで寝ると、そのステップが踏めないので、本来寝ている間にしなければいけない回復過程が省略されてしまいます。こうしたことからも、お酒を飲んで寝るのはおすすめできません。
片野秀樹
日本リカバリー協会代表理事
博士(医学)