「私なんか生まれてこんかったらよかった」難病の妹と生きる姉 寂しさを埋める母からの手書きのFAX… “きょうだい児”が自分らしく輝ける場所に「自分たちは1人じゃない」

みなさんは、“きょうだい児”という言葉をご存じでしょうか。病気や障がいのある兄弟・姉妹がいる子どもたちのことで、周囲には打ち明けづらい悩みを抱えている子どもも少なくありません。

愛媛県松山市で暮らす、中山穂乃果さん(16)。妹の結衣花さん(13)は、国内で12万人に1人と報告されている難病・メチルマロン酸血症と闘っています。

(母・理江さん)
「赤ちゃんの時に食欲がなくなってしまって、鼻にチューブを付けて、まだちょっと食べるのに時間がかかりそうって先生に言われて、それから胃ろうを作って」

結衣花さんは生まれつき代謝に異常があり、口からの食事が難しいため、3歳の頃から、お腹に空けた穴にチューブを通す胃ろうで栄養をとっています。

チューブから栄養をとっている約1時間、ひらがなカードを使ってクイズをしたり、絵本を読み聞かせたり、率先して妹の面倒を見る穂乃果さん。リハビリに同行するうちに、妹との遊び方を自然に身に付けたといいます。

(母・理江さん)
「意思疎通が取りづらかった時によく噛んだり叩いたりってことがあったんですけど、何をされてもお姉ちゃんはやり返すこともなく我慢して『結衣ちゃん駄目よ』って優しく言ってました。そういう場面で私が『結衣ちゃんそれは駄目よ』って怒ったりしたら、逆に穂乃果に『お母さん、結衣ちゃん分からんけん、そんなに怒ったら駄目』って、私が怒られるんですよ」

(穂乃果さん)
「かわいくて、怒りたくなかった」

幼い頃から妹の病を理解し寄り添ってきた穂乃果さんですが、きょうだい児ならではの問題に直面することもありました。

どうしたら寂しさを埋められるのか… 母親の葛藤

(母・理江さん)
「この病気は、3歳くらいまでに風邪が悪化して亡くなるケースもあるような病気です、と説明を受けていたから、お姉ちゃんの風邪ひとつ熱ひとつでも、すごくびくびくしてしまって」

父親は仕事の都合で家を空けることが多く、妹の結衣花さんには母親の医療的ケアが欠かせないため、体調を崩した穂乃果さんを市外に住む祖父母の家に預けることも多々ありました。

穂乃果さんは母親と離れるのが嫌で、熱があっても我慢することさえあったといいます。

(母・理江さん)
「しんどいと思っても、私には言わずに隠して我慢してる。熱測ってみようかと言ったら『いやだ~いやだ~』って」

祖父母宅で過ごす穂乃果さんに、母・理江さんが欠かさず送っていたのが、手書きのイラストを添えたメッセージ。どうすれば寂しさを埋められるのか、悩みながら娘と向き合ってきました。

(穂乃果さん)
「FAXが届いたとき、ワクワクしていたのは覚えてます」

(母・理江さん)
「今もそうなんですけど、小さい時からものすごくしっかりしてました。子どもっぽくないというか、芯がしっかりしてるというか。今思えば、お人形遊びとか相手してほしい遊びも、私は結衣花の方にかかりっきりになって、かまってあげられなかったから。『ちょっと待ってね』と言うことが本当に多かったです」

甘えたい時に、甘えさせてあげられなかったと振り返る母・理江さん。ある日、穂乃果さんから言われた言葉が、今も忘れられないといいます。

「私なんか、生まれてこんかったらよかったんだろ」って半泣きで私に言ってきたことがあって…

(母・中山理江さん)
「『もう私なんか、生まれてこんかったらよかったんだろ』って半泣きで私に言ってきたことがあって。まさかそんなこと言ってくるとは思わなかったので私もつらかったですけど、それ以上に多分、穂乃果の方が色々我慢したりすることが多かったから、つらかったのかなって」

――その時は寂しかった?
(穂乃果さん)「寂しかったのかな…」

(母・理江さん)
「『障がいがある子を育てるのは大変でしょ』って結構周りから言われるんですけど、きょうだいの方を支えていく方がわりとつらいというか」

そんな時出会ったのが、難病の患者と家族を支える認定NPO「ラ・ファミリエ」でした。

自分を吐き出す場であってほしい

団体では、子どもの長期入院の際に家族が滞在する施設を運営しているほか、入院中の子どもたちへの学習支援ボランティア、闘病中の子どもと家族を招いたキャンプなど、様々な支援を続けています。

(ラ・ファミリエ理事・西朋子さん)
「きょうだいさんは、どうしても良い子でいたり取り残されたりすることがたくさんあるんですけど、ここにいると普通の子どもであって、我慢する自分を吐き出す場であってほしいなと思います」

団体では毎年、きょうだい児が主役のイベントを開いています。この日は4人の子どもたちを、15人ものスタッフがサポート。コロナ禍でイベントはオンライン開催が続いていたため、友人とも久しぶりの再会です。

ここが“きょうだい児”にとって、自分らしくいられる大切な居場所であって…

(ラ・ファミリエ理事・西朋子さん)
「ここに来て会える友達がいたり、仲間がいるって素敵なことだなって思う」

企画したのは道後の町歩き。商店街の人気スポットを巡りながら交わされるのは、何気ない会話ばかりです。“きょうだい児”だからといって特別なことは、一つもありません。

(ラ・ファミリエ理事・西朋子さん)
「大人が楽しいと子どもも一緒にはしゃいで良いんだとか、こんな風に喜んでいいんだなって表現の力もあると思うので、そういうのは大事にしています」

ラ・ファミリエのメンバーは、ここがきょうだい児にとって自分らしくいられる大切な居場所であってほしいと願っています。

(ラ・ファミリエ理事長・檜垣高史さん)
「たぶん、病気のこととかきょうだいのこととか日々考えることはいっぱいあるんでしょうけど、こういう機会で仲間がいっぱいいるんだって分かち合って、一緒に進めたらいいなといつも思ってます」

(ラ・ファミリエ理事・西朋子さん)
「穂乃果さんは本当に妹思いです。ただそれが逆にしんどくなる時もあるんじゃないかなと思う時もある。一番は愚痴を吐ける場があったらいいなと思います。しんどいことを乗り越えなさい、とも思わないし」

“親戚のおばちゃん”のような立ち位置で。それが、西さんのモットーです。

(ラ・ファミリエ理事・西朋子さん)
「一人で抱えないでねって思います。それはお母さんに対してもきょうだいさんに対しても、みんなに思うことなので。ラ・ファミリエにきたら何とかなるよ、と。一緒に考えるけん、話聞くけん、一緒に頑張っていこうっていう姿勢なので」

2024年3月、難病や障がいと向き合う家族を支援する団体が横浜に集まり、イベントが開かれました。大好きな歌やダンスを通して誰かの背中を押したいと、愛媛から参加した穂乃果さんの挑戦です。

家族4人で初めての長旅…難病児、障がい児、きょうだい、家族、支援団体が一堂に

父、母、穂乃果さん、結衣花さん、家族4人での長旅は、初めてです。

2024年3月23日、難病や障がいと向き合う子どもとその家族を支援する、全国10以上の団体が横浜の大さん橋ホールに集まりました。ピエロの姿で病床の子どもを楽しませたり、入院に付き添う両親をサポートしたりする団体もいます。

イベントを主催したのは、劇団四季や宝塚歌劇団出身の俳優が中心となって立ち上げた「NPO法人心魂(こころだま)プロジェクト」。病院や特別支援学校など、国内外のあらゆる場所で年間100日以上、公演を続けている団体です。

心魂プロジェクトにはプロのほかにも、社会人やキッズ団などたくさんのパフォーマーが所属。穂乃果さんも、その1人です。

「我慢せずにやりたい」抱えてきた葛藤を歌やダンスに

そんな穂乃果さんが心魂プロジェクトに出会ったのは、2022年12月。もともとミュージカルが大好きだった穂乃果さんは、初めて観たオンライン公演でプロのパフォーマンスに心を奪われ、すぐにキッズ団の一員になりました。

仙台に住むきょうだい児・恵花(けいか)さん(17)と共に歌とダンスを学びながら、これまで抱えてきた葛藤と向き合います。

(穂乃果さん)
「今まで我慢してた分、自分の想いを伝えて、我慢せずにやりたい」
(心魂プロジェクト 共同代表 有永美奈子さん)
「それを誰に伝えたい?」
(穂乃果さん)
「きょうだい児」

そこで芽生えたのは、今も苦しんでいる仲間の背中を押したいという想いでした。

本格的に始まった「きょうだい児」としての活動。新たなメンバーを募り、レッスンを重ねてきました。

同じ境遇の人との繋がり-きょうだい児だからこそ伝えられるメッセージ

イベントには一般の人も訪れ、同じ境遇の人たちとの繋がりも生まれます。

(穂乃果さん)
「私たちのシブリング(きょうだい)パフォーマーが、きょうだい児だからこそ伝えられるメッセージがあると信じて…」

(難病の子どもを持つ母親)
「自分で切り開いてやっていく力があるのかな。どうしてもお出かけとか時間的なところで制約はかけていると思うので。『もっと抱っこして』と言う時もあるし、言われて初めて『あ、そうだ』って気付いちゃうので、もっと自然ときょうだいさんにも時間をとっていけたらいいなと思います」

自分が輝ける場所で、想いを伝える―

きょうだい児チームとして初めての大舞台。客席には、穂乃果さんの妹・結衣花さんと、恵花さんの姉・紗希さんの姿もありました。

穂乃果さんたちきょうだい児パフォーマーが披露したのは、ミュージカル「マチルダ」の一曲です。

♪二度と我慢はしない 二度と諦めない 子どもたちが反乱起こす
渦巻く歌と 熱いリズム みんな戦え 勝利つかめ
自由のために やるぞ やるぞ

学校や家庭で我慢を強いられてきた少女が自ら未来を切り開いていく物語に、自分たちの境遇を重ねます…。

さまざまな想いが込み上げ…こぼれ落ちた涙

イベントの最後を締めくくったのは、心魂プロジェクトの共同代表・寺田真実さんたちプロのメンバーです。

♪よくきたね いろいろあったんだろう
悲しいこと 嫌なこと つらいこと
だけどこうしてまた会えたんだよ 笑顔をいっぱいつくろう

(心魂プロジェクト 共同代表 寺田真実さん)
「生きにくいよっていう子どもたちに選択肢があったらいいなと。そこを心魂はこれからも追求したいと思います」

「自分たちは1人じゃない」自分らしく輝ける場所で…

(シブリングパフォーマー 髙野恵花さん(17))
「1人じゃ乗り越えられないことも仲間がいれば乗り越えることもできるから、今は1人ぼっちだなと感じている人も私たちと仲間になって、一緒に進んでいけたらなと思っています」

(シブリングパフォーマー 布川瑠花さん(14))
「心魂と出会う前は、自分の我慢している思いとかもぶつけられる人がいなかったけど、自分の心をぱっと明るくさせてくれるようなみんながいて、今はすごく元気になりました」

(シブリングパフォーマー 中山穂乃果さん(16))
「自分たちのきょうだい児としての想いを全部パフォーマンスに込められることが、すごく幸せなことだなと。自分たちは団体とつながれて1人じゃないなと感じれているけど、そうじゃない子ももちろんいるだろうし、出会うべき子に出会ったらいいな」

きょうだい児の中には、病気で大変な思いをしているきょうだいや両親の姿を見て、自分だけ楽しんでいいのか、幸せになっていいのか悩み、葛藤し、諦めてしまう子どもも少なくないといいます。

もちろん、家族だからできること、支え合える場面はたくさんありますが、家族だけで全てを抱えるのは、とても難しいことです。

たまには、感情が溢れてしまってもいい。誰かが、その思いを受け止めてくれる。子どもたち一人一人が、安心して自分の未来を見つめられる社会であってほしいと願っています。

© 株式会社あいテレビ