櫻井和寿・スガ シカオら出演、スペシャルライブ『super folklore』に通底した未来への願い

櫻井和寿とスガ シカオがメインアクトを務めたスペシャルライブ『super folklore』が、4月20日、21日に千葉県木更津市KURKKU FIELDSで開催された。筆者は20日に現地に足を運んだが、彼らのライブパフォーマンスはもちろんのこと、そのメッセージ性とアートが融合した先鋭的な演出に心を鷲掴みにされた。それは、例えばMr.Childrenのワンマンライブや『ap bank fes』とは似て非なるものでありながらも、やがては周り回ってそこに繋がっていく未来を予感させるライブでもあった。

『super folklore』は、千葉県誕生150周年記念事業として市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市で開催されている『百年後芸術祭~環境と欲望~内房総アートフェス』の一環として、小林武史がプロデュースしたスペシャルライブ。『百年後芸術祭』がアート作品展示の「LIFE ART」と音楽ライブのパフォーマンス「LIVE ART」の両軸として展開されており、小林武史が実行委員長・制作委員長を務める『Reborn-Art Festival』でもお目見えしていた草間彌生による「新たなる空間への道標」や今回新設された「明日咲く花」といったアート作品がライブエリアに向かう来場者を魅了していた。

小林がプロデュースするライブは今回の『super folklore』のほかにも3つの会場で開催されており、共通しているライブタイトルが「通底縁劇・通底音劇」。つまりは、繋がっているということである。メインアクトの櫻井とスガは盟友として知られており、櫻井がBank Bandとしてホストを務める『ap bank fes』でスガを迎えたり、『スガフェス!~20年に一度のミラクルフェス~』にMr.Childrenが出演している間柄。Mr.Childrenの「ファスナー」は、櫻井がスガを意識して作った曲としても広く知られており、スガのアルバム『SugarlessII』では同曲のカバーにてコラボレーションを果たした。

だが、今回の『super folklore』で2人が同じステージに立つことは意外にもなかった。おそらく多くのファンが予想していたであろう「ファスナー」の披露もなかったが、逆にそのことが“通底”というコンセプトを際立たせているように筆者は思えた。今回のスガと櫻井のライブアクトにおいて、共通していたのが今年年始に起きた能登半島地震だ。小林が率いるButterfly Studioをバックバンドにしトップバッターを飾ったスガは、全7曲の中で新曲「あなたへの手紙」を歌唱している。スガは震災が起こった後、奥能登の手前の七尾市に行き、避難所を回った。1日4公演。通常では喉がもたないが、自分のためではなく誰かのためにと思えば、1日4公演も楽にできたとスガは語る。ほんの少しの勇気を誰かのために使ってあげられれば逆に自分が救われる、誰かのために何かをやることは結局は自分のためなんだという体験に基づいた思いが、「あなたへの手紙」には綴られている。それは『Reborn-Art Festival』にて、小林がメッセージの中で掲げていた「利他」という考え方にも繋がるだろう。そして、スガが言っていた「ほんの少しの勇気」は、ライブで歌われた「アストライド」や「Progress」のような〈一歩〉を押し出すメッセージソングとして力強く存在している。

一方の櫻井は、2011年に東日本大震災が起こった時、「僕は行けませんでした」と13年前の自身の行動を悔やむ。情けなさと弱さとカッコ悪さ、何か自分を許す手立てはないかと、ホテルの一室で必死に被災者に思いが届くようにと書いたのが、2011年4月にMr.Childrenとして配信リリースされた「かぞえうた」だった。Bank Bandの「はるまついぶき」は2007年に起こった新潟県中越沖地震を受けて書いた楽曲。「苦しみや悲しみに寄り添う、そんな音楽であれたら」と願いながら、櫻井は2曲を続けて柔らかく、たくましく、そして祈るように熱唱する。

曲に忍ばされたメッセージを無理やり見出そうとするのであれば、「はるまついぶき」の〈あきれるくらい未来の話をしよう〉は『百年後芸術祭』というイベントタイトルを、「優しい歌」の〈小さな火をくべるよな〉にはスガにも通ずる利他の思いを感じさせる。ただ、はっきりと今回のイベントコンセプトとマッチした選曲だったのが、櫻井のステージとして1曲目に歌われたBank Bandの「限りない欲望」、さらにMr.Childrenの「LOVEはじめました」(恒例の歌詞変えは〈中田〉→〈大谷〉)。イベントの副題にある「環境と欲望」を示しており、スガがラストに披露したkokuaとしての「私たちの望むものは」もここにカテゴライズされるだろう。

スガがイベント開催後に「全てのアート、音楽、ダンス、言葉などがコンセプトで結ばれてる」とSNSで解説していたように、むしろそこに意味やメッセージ性をそれぞれが見出すことがこのイベントの楽しみ方とも言える。スガと櫻井のライブアクトの間に行われた、ダンサーの高村月、KUMIを迎えてのButterfly Studioによる「en Live Art Performance」。「過去と未来」「遠心力と求心力」といったコンセプチュアルなメッセージ性を放ちながら、その後にHana Hopeをゲストボーカルに櫻井と歌われた「to U」もまた、〈想いは繋がっていく〉と綴られている。Mr.Children「Worlds end」もタイトルの“en”と歌詞には〈僕ら繋がっている〉と歌われている、見事な選曲だ。

だが、それらのコンセプトに縛られない、櫻井和寿のソロとして自由な1曲があった。Mr.Childrenの「365日」。そのイントロと間奏部分で、櫻井がサックスを披露したのだ。これまでMr.Childrenでも、Bank Bandでも披露したことは一度もなく、人前で演奏するのはこの『super folklore』のリハーサルが初めてだったと明かし、会場はどよめく。演奏時間こそ短かったものの、綺麗なサックスの音色が「365日」のロマンチックな世界観を一層際立たせており、今後もしかしたらMr.ChildrenやBank Bandでのライブやレコーディングに繋がっていくことを予感させる一幕でもあった。

今回の『super folklore』において象徴的だったのが、1000台のドローンを用いたライブ演出だった。「en Live Art Performance」として、2023年時点ですでに存在していた演出ではあるが、櫻井の歌声、Mr.ChildrenとBank Bandの楽曲と融合することにより、これまでにないライブ空間、体験を作り出していく。主にBank Band「歓喜の歌」(小林のヴォコーダーでの歌唱にも度肝を抜いた)を皮切りにして、Mr.Children「風と星とメビウスの輪」、「HANABI」、Bank Band「こだま、ことだま。」でドローン演出が使われたが、特筆すべきは「風と星とメビウスの輪」と「HANABI」。表と裏が繋がったメビウスの輪、さらに「HANABI」のDメロの歌詞を表した水面が、光の瞬きによって表現される。どちらもMr.Childrenのライブチューンとして幾度も披露されてきた楽曲だが、スクリーンに映し出される映像とはまた異なる、独自のライブ演出であると感じた。だが同時に、大規模フェスとはまた異なる絶妙な規模感のKURKKU FIELDSのライブエリアだからこそできた演出でもあるのではないかと思いながらも、今後に繋がっていけばと願わずにはいられない。

小林がMCで触れていたように、ウクライナのような戦地ではドローンは兵器として使用されてもいる。1000台ものドローンが飛ぶ光景、羽音はある人にとっては恐怖でしかないのかもしれない。ただ、あの時4000人がまるで花火を見上げるかのようにして会場に起こった歓喜の声。そこにあったのは未来へと繋がる、灯火に似た消えない希望だったように思う。

(文=渡辺彰浩)

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