UNRWAのハマス関与めぐる報告書 信頼回復には不十分

フランスのカトリーヌ・コロナ元外相は22日、ニューヨークでUNRWAの中立性に関する報告書を発表した (KEYSTONE)

22日に発表された国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の中立性に関する独立調査報告書では、組織内に大きな機能不全はないとの結論に達した。だがこの結論が米国とイスラエルを安心させられるかどうかは定かではない。 UNRWAは「かけがえのないもので不可欠な存在」だが、「中立性の問題」は残る――これが調査委員長を務めたフランスのカトリーナ・コロナ元外相による「コロナ報告書」の主な結論だ。スイス人事務局長フィリップ・ラザリーニ氏率いるUNRWAの機能を巡る注目の報告書が22日、発表された。 報告書が注目を浴びたのは、イスラエルがUNRWAの職員はイスラム過激派・ハマスに関与していると非難し、複数のドナー国がUNRWAへの資金拠出を見合わせているためだ。だが報告書が信頼回復に十分な内容かについては、swissinfo.chが取材した2人の専門家は懐疑的だ。 同報告書は、2023年10月7日のイスラエルに対するハマスの襲撃にUNRWA職員12人が参加したとするイスラエルの主張を受けて、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が調査を委託した。北欧の3つの研究機関が調査を支援した。 報告書は、イスラエル政府が告発に関する証拠を提出していないと指摘した。だがニューヨークで記者会見に臨んだコロナ氏は、それは証拠が存在しないという意味ではないと説明した。疑惑の12人については、国連事務局にある内部監査部(OIOS)が別途調査を進めている。 UNRWAはガザ地区で1万3000人を雇用し、約600万人に緊急援助や教育、医療サービスを提供している。報告書は、UNRWAが中立性など人道原則を順守するために多数のメカニズムを備え、「他の国連機関、NGOより進んだアプローチをしている」と結論付けた。 一方、報告書は改善が必要な点も指摘した。ガバナンスや中立性、ドナー国とのコミュニケーションを促進するための約50項目を勧告した。国際的な職員の増員やUNRWA・ドナー国間の対話強化などを盛り込んだ。 スイス、拠出再開を見送り イスラエルの告発を受けて、複数の主要ドナー国は1月にUNRWAに対する資金拠出の停止を決定。計4億5000万ドル(約700億円)が滞った。その後、欧州連合(EU)やカナダ、日本など一部の国は拠出を再開したが、米国、英国、スイスなどは調査結果を見極めてから判断する方針だ。 米シンクタンク「国際危機グループ」のリチャード・ゴーワン氏は「報告書は、UNRWAへの資金提供に伴うリスクが管理可能であることを示し、拠出再開に消極的だった一部のドナー国を安心させることになるだろう。だが、短期的に米国を説得するには不十分だ」とみる。 イスラエルの緊密な同盟国である米国議会は今月20日、UNRWAへの送金を1年間禁止する法案を可決し、2025年3月まで今後の拠出については決断を下さないと表明した。スイス外務省も23日、2024年の2000万フラン(約34億円)の拠出を決定する前に「報告書を詳細に分析する必要がある」と述べた。連邦政府は24日、UNRWAへの拠出については後日決断すると表明。中東への人道予算5600万フランの拠出について、上下両院の外交政策委員会に諮問すると発表した。 独立調査を待たずイスラエルの告発を根拠に資金拠出を停止した連邦政府の決定は、スイス国内で批判を呼んだ。報告書発表後にswissinfo.chの取材に応じたジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)のリカルド・ボッコ名誉教授は、懸念を露わにした。「私にとっての疑問は、スイス議会が何を根拠に決断するのかということだ。議員は受け取った情報を確認しているのか?」 保守右派・国民党(SVP/UDC)のピエール・アンドレ・パージュ議員は22日夜、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)の取材に対し、連邦議会の対応は拙速だったとの見方を否定した。「コロナ報告書は中立性を改善するための約50項目を勧告した。スイスが支援を再開する前に、改善すべき点があると思うる」と語った。 未来への挑戦 イスラエル外務省は「コロナ報告書は問題の深刻さを無視し、UNRWAへのハマスの浸透度合いを考慮せずに表面的な解決策を提案している」と批判した。UNRWA解体を主張し、ドナー国に対してはガザにある他の人道団体に資金を振り向けるよう呼びかけている。 UNRWAはヨルダン川西岸、ヨルダン、レバノン、シリアを含めると職員数は約3万人に上る。ジュネーブを拠点とする人道団体は、この点を踏まえるとイスラエルの提案は非現実的だとみる。専門家は、イスラエル政府を苛立たせているのはむしろ、パレスチナ難民の帰還の権利を保障するというUNRWAの任務だとみる。 IHEIDのボッコ氏は「イスラエルはUNRWAを排除したいと考えている。だが国連総会の採決を経なければ解散は実現できず、採決では否決されるだろう」とみる。イスラエルの戦略はUNRWAのイメージを低下させ、財政面で弱体化させることだと指摘する。 コロナ報告書の勧告は、UNRWAの将来に明るい光をもたらす。だがゴーワン氏は、かつてない危機に直面するUNRWAが勧告を即座に実行に移す可能性は低いとみる。 「停戦実現後の課題は、UNRWAがガザ地区における主要な国際機関としての信頼を維持できるかということだ。問題は新たな統制を導入できるか、基本を見直すかということではない。戦闘終了後にこれらの勧告を実行することで、イスラエルと米国の抱く懸念が解消されるかどうか、ということだ」(ゴーワン氏) 編集:Virginie Mangin/livm、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:上原亜紀子

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