コミュニティは人数が多ければ成功?組織人が知っておくべき、コミュニティの意味とつくり方

By 仲山進也

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

ネコトレVol.15「ネコとコミュニティ」

コミュニティ運営なんて楽勝?

吾輩はイヌである。

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

ポチ川の後輩・ミケ野が運営する、量販店向けオンラインコミュニティが依然順調な犬山電機。企業間のコラボ実施やイベント開催で、社内外からの注目度はさらに高まっているという。その前例を受け、営業部のSNSを任されていたポチ川が、自社の家電を軸としたファンコミュニティを立ち上げることに。まずはインパクトあるリアルイベントを開催し、オンラインコミュニティに誘導しよう! と目論んだのだが……。

ハチ村課長「おい、ポチ川くん。『犬山電機家電ファンコミュニティ』の件はどうなっている?」

ポチ川「ようやく会場を押さえられたところです。SNS総フォロワー数200万人超えの、家電大好きアイドル・イヌ森ポメ子ちゃんに出演してもらう予定ですからね! 今話題の子なので、集客力はありますよ~。ギャランティと会場費で、予算はザッとこれくらいです」

ハチ村課長「うむ。初回のイベントで予算をほぼ使いきることになるわけだな。まあ、ファンコミュニティを立ち上げるからには、初回で何人集客できるかが大事だからな」

ポチ川「はい、ドーンと花火を打ち上げましょう! きっとニュースサイトにも取り上げられて話題になるはずです!」

ハチ村課長「で、これをやったら売り上げはいくら伸びるんだ?」

ポチ川「え!? 売り上げ……。そ、そうですね、500人がコミュニティに入会して3万円ずつ買ってくれれば1500万円とか……?」

ハチ村課長「おお、なかなかの費用対効果じゃないか。きちんと計画を立てて進めてくれよ。まずは集客目標500人というわけだな、頼んだぞ!」

ポチ川「は、はい(テキトーに答えちゃったけど、まあいいか……)」

――――その1か月後。

イベントはイヌ森ポメ子の集客力のおかげで500人超が参加、ネットニュースやSNSでも話題となった。ところが、肝心の「犬山電機家電ファンコミュニティ」に登録したのはたったの8名という結果に。ポメ子がそのオンラインコミュニティにいないとわかると、ほとんどの人が登録してくれなかったのだ。

「イベントは成功したのに、まさかこんなことになるなんて……。こんなときはニャンザップに行くか……」

しかし今日はあいにくの定休日。久しぶりに大学時代の同級生・ネコ山でも誘って飲みにいこうと連絡してみると、即レスで「OK! 今ここで飲んでるから一緒にどう?」と『呑みナビ』の URLが送られてきた。「スナック ミアキス」? 聞いたことのない店だな……。

↑ポチ川の駆け込み寺、ニャンザップへ向かおうとするも、今日は定休日。別の場所へ足を向けるが……

“コミュニティ”ってなんだ?

ポチ川「(カランカラーン)こんばんは」

ネコ山「こっち、こっち!」

ポチ川「よう、ネコ山、久しぶり! ……あ、あれ、ニャカ山さん?!」

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。偶然ですね」

ポチ川「実は今日、ニャンザップに行こうと思ったんですけど定休日だなと気づいて。まさかこんなところでお会いできるなんて!」

ママ「あーら、“こんなところ”ってあんまりだわね(笑)」

ネコ山「ママ、ごめん。僕の大学の同級生で……。この3人はそれぞれ知り合いだけど、一緒に会うのは初めてなんですよ」

ママ「あらそうなの。お友達のお名前は?」

ポチ川「ポ、ポチ川アキ男です」

ママ「じゃ、ポチちゃんね。おビールでいいかしら?」

ポチ川「は、はい。……早速なんですけどニャカ山さん、コミュニティって何なんでしょう?」

ネコ山「おいおいポチ川~、いきなりニャカさんにガチ相談かよ。せっかく3人が集まったのに~(テーブル席から「ネコ山っちー!」と呼ばれる)……あ、ちょっと呼ばれたから行ってきます!」

ニャカ山T「さて、コミュニティですか。今日は何があったんですか?」

ポチ川「ファンコミュニティを作れと会社に言われて、まずは盛大にイベントだ! ってアイドルを呼んで500人集めたんですけど、実際オンラインコミュニティに登録してくれたのは8人だけだったんです……」

ニャカ山T「思った以上に少なかったわけですね」

ポチ川「はい。計画では500人集めて、みんなが登録してくれるはずだったのに……。案内の際、会場からの質問に対して、そのアイドルはコミュニティには入らない旨を伝えたら急に雰囲気が変わって……」

ニャカ山T「なるほど」

ポチ川「正直に言わなければよかったんでしょうか?! そうしたらみんな登録してくれて、一気にコミュニティが活性化したはずなのに……」

ニャカ山T「……。ちなみに、集まった8人は今どうしているのですか?」

ポチ川「どうしているもなにも、誰も発言し始めませんよ。少人数だから盛り下がってしまっているんでしょうね」

ニャカ山T「ポチ川さんからはどんな投げかけをしたのですか?」

ポチ川「『事務局からのご案内』として、ご自由に発言くださいと。あと、そうだ。不適切投稿をした場合は退会処分となる旨も忘れずに伝えていますよ。問題が起こると会社から怒られますからね。でも、これだけやってうまくいかないのは、そもそもファンコミュニティはウチの会社には向いてなかったんでしょうね。この失敗の責任は、指示をした会社側にありますよ」

ニャカ山T「なるほど……。今日のポチ川さんはかなりいろいろ凝っているようですね。今回のネコトレのテーマは、『1:n:nをつくる』にしましょう」

人を集めれば “いいコミュニティ”ができる?

ポチ川「いちたい、いちたい、えぬ? って何ですか?」

ニャカ山T「ポチ川さんは、人を集めれば勝手にコミュニティができると思っていますか?」

ポチ川「はい、そうですけど」

ニャカ山T「では、ポチ川さん。今、このお店じゅうに聞こえるように、何か話してもらってよいですか?」

ポチ川「えっ、イヤですよ! 知らない人がいるのに」

ニャカ山T「今、店内にいるお客さんは、私たちを含めて8名ですよね。ちょうどポチ川さんのつくったコミュニティと同じ人数です」

ポチ川「ハッ! だから誰も発言し始めないということですか!?」

ニャカ山T「その可能性はありますね。オンラインで発言すると全員に届くので、大声とかマイクでしか話せないようなものですよね」

ポチ川「たしかに。『ご自由に発言ください』じゃダメなのか……。じゃあ、どうすればいいんでしょう?」

ニャカ山T「ママの行動をよく観察してみてください。コミュニティをつくるために重要な“あること”をよくしているんです」

ポチ川「え、何ですか? 今、お酒飲んでますね。それ?」

ニャカ山T「……。コミュニティの形には2種類あります。『1:n』『1:n:n』です。ポチ川さんはファンクラブに入られていますか?」

ポチ川「もちろんです! 推しのファンクラブに年会費を払って、会員証とグッズをゲットするのは当然のことですから」

ニャカ山T「ほかのファンクラブ会員の方々とは交流ありますか?」

ポチ川「ないですけど、それが何か?」

ニャカ山T「それが『1:n』型のファンコミュニティです。それに対して、ファン同士の横のつながりがある形が『1:n:n』型です。『1:n』型であれば、人をたくさん集めれば集めるほど成功といえますが、『1:n:n』型だとハナシが変わってきます。もしオンラインコミュニティに500人も集まったとしたら、発言のハードルはかなり高いでしょうね……」

↑左が「1:n」、右が「1:n:n」のコミュニティを表す

ポチ川「あああ、たしかに知らない人が500人いるところでマイクでしゃべろと言われても、何を話したらいいかわからないですね……。たくさん集めても勝手に盛り上がるわけじゃないのか……」

ニャカ山T「ママは今、あっちのテーブルのお客さんとネコ山さんをつないでいるでしょう。あれが『1:n:nをつくる』ということです。それをずっと続けているから、このお店のお客さんたちはみんな顔見知りの関係になれているのです」

ポチ川「ママすごい……」

ニャカ山T「では、今日のネコトレをやりましょうか。今回のトレーニングは『名前を覚えて呼び合う』です」

名前を覚えて呼び合うだけで、仲良しに

カランカラ~ン

ママ「いらっしゃい。あら、ラミちゃん。久しぶりね」

ラミ「ごぶさたしてます。友達3人、連れてきました~」

ママ「そちらのテーブルにどうぞ。じゃあ、ほかに新顔さんも多いから、みんなでアレやりましょうか。ネコ山っち、いつものやつお願い~」

ニャカ山T「これはちょうどいい。ポチ川さん、始まりますよ。これが今回のトレーニングです」

ポチ川「え? ネコ山が何かするんですか!?」

ネコ山「はい、みなさま。それではご指名に預かりましたので、始めさせていただきます。『名前覚え大会』です~! 今から、ここにいる全員の呼び名を覚えてください。ぼくの呼び名は『ネコ山っち』です。そんな感じでお互い呼び名を伝え合って、覚えてください。5分後にテストがありますよ。ではどうぞ!」

(5分後)

ネコ山「はい、時間でーす。 ではポチちゃんから行きましょう!」

ポチ川「え、えーーっと、まずニャカ山さん、じゃなくてニャカさん、奥のテーブルにいるのがラミちゃん、タイガさん、ムギたんにジジさん。真ん中がネコ山……じゃなくてネコ山っち、その隣のテーブルが、マルっちとプーさんと(中略)……レオレオ! 全員言えたーー!」

ママ「あら、私も呼んでよ」

みんな「ワハハハハ!」

(その後、他のお客さんとの会話も盛り上がり、あっという間に帰宅の時間になった。)

ポチ川「今日はとっても楽しかったです! ママ、ボトルキープしてもいい? ほらほら、ラミちゃんたちも一緒に帰りますよ~」

ニャカ山T「今日はいつもと違うポチ川さんの一面も見られて楽しかったです。こんなに明るい方だったんですね」

ママ「ポチちゃんったら、ホント調子がいいんだから。またいつでもいらっしゃい」

今日のネコトレ

Vol.15 【「名前」を覚えて呼び合う】

・コミュニティには『1:n』型と『1:n:n』型がある ・横のつながりがある『1:n:n』型では、人数が多ければよいわけではない ・お互いに名前を呼び合うことで、一気に話しかけやすさが変わる

Vol.00から読む
Vol.14「ネコと多様性」<< Vol.15 >> Vol.16「ネコと副業」

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO

© 株式会社ワン・パブリッシング