「天才的な選手」12連覇を逃したバイエルンで評価を高める生え抜きのMFパブロビッチとは何者か

とてつもない才能だ。スラっとしていて、一見すれば、肉弾戦には不向きなセントラルMFに映る。だが、戦える。バスティアン・シュバインシュタイガーのように、中盤での激しいコンタクトプレーを厭わない。容易に当たり負けしない体幹の強さ、ボールに対する執着心の大きさも感じさせる。

昨年11月にバイエルンとプロ契約を結んだ19歳で、そのアレクサンダル・パブロビッチは生粋のボールハンターというわけではない。労を惜しまずに走り、ボールを要求してはパスを散らし、時にゴールも決める。

ヨズア・キミッヒの不在時は、右利きのプレースキッカーとしてスタンバイ。正確なFK、CKを放つ。やはり10代にして並み居るスターをよそに、チームのリスタートを担当していたトニ・クロースの姿を重ねずにはいられない。

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プレーの端々から窺える強靭なパーソナリティーも魅力だ。昨年11月のドルトムント戦では60分にピッチへと送り込まれると、デア・クラシカー特有の雰囲気にも飲まれずに堂々と持ち味を発揮し、強さも速さも申し分がない縦パスで初アシストを記録した。多くを語らずに、声はか細い。しかし、ミックスゾーンでのどこか不安そうな姿とは対照的に、パブロビッチが見せるピッチ上でのプレーは実に雄弁だ。

2023-24シーズンのバイエルンに突如として現われたライジングスターは、すでにレジェンドの心も掴んでいるようだ。ドイツ代表の名誉キャプテンで、現在は解説者として活躍するローター・マテウスは『スカイ』でこう絶賛している。

「天才的な選手だ。アカデミー出身で、大きなポテンシャルを持っている。よく走るし、ポジショニングも良い。シュバインシュタイガーやフィリップ・ラーム、トーマス・ミュラーのような選手になる可能性があるよ」
マテウスが触れたように、パブロビッチは7歳の時にバイエルンの下部組織に加入。アリアンツ・アレーナのボールボーイからトップチームの主力への階段を駆け上がる、サッカー好きのあらゆるバイエルンっ子が描く夢を叶えた。もちろん、FCBキャンパス(バイエルンのユース&女子チーム専用施設)で研鑽を積む青少年たちの憧れだ。キャンパスに勤めるディルク・ハウザー氏は言う。
「ここに1年しか通わず、あっという間にトップに昇格した(ジャマル)ムシアラではなく、パブロビッチが新たなロールモデルですよ。なにしろ8歳からFCBのアカデミーで育ったんですから」

FCBキャンパスの“最新傑作”が、ドイツ代表入りというもうひとつの夢を実現する日は近そうだ(編集部・注/本稿執筆後の3月にドイツ代表初招集を受けるも、体調不良を理由に辞退した)。

取材・文●遠藤孝輔(ワールドサッカーダイジェスト編集部)

※ワールドサッカーダイジェスト3月21日号『バイエルン帝国のすべて』より転載

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