映像でよみがえる、約半世紀前の“アイヌの結婚式” 当時、花嫁だったアイヌ女性が語る…差別と偏見 現代のSNS上“ヘイト”に何を思う

半世紀前の結婚式がよみがえりました。およそ50年前、差別や偏見が強かった時代に、アイヌ古来の方法で結婚式を挙げた女性がいます。当時の記録と記憶から、現代のアイヌ差別を考えます。

北海道胆振地方東部の山間に位置する、むかわ町穂別。

このマチで一人暮らしをしている、小山妙子(こやま・たえこ)さん。1940年に生まれた84歳のアイヌ女性です。

(妙子さんはいつもの?)
「コーヒー」
(あ、コーヒー?ココアじゃないの?)(これお砂糖入っていないけど大丈夫?)
「いいわ、後で家帰ってから砂糖なめるから」

この日は、高齢者やケアマネージャーらが集まってのお茶会。いつも軽妙なジョークで周囲を笑わせる小山さんは、ムードメーカーです。

いまから約50年前の1971年。小山さんは当時とても珍しかったアイヌ古来の方法で結婚式を挙げました。
その映像はドキュメンタリー映画として残されました。

映画のなかでインタビューを受ける小山妙子さん(当時31)
「アイヌは滅びゆく民族だとか劣等民族だとかいろいろ言われました。私は誇りにさえ思っています、アイヌ式の結婚式をするってことを」

小山妙子さん(84)
(どうしてアイヌ式の結婚式をやろうと思ったんですか?)
「だってアイヌだもの」
「80歳、90歳になるフチ(祖母)やエカシ(祖父)が『アイヌの結婚式見たことない』って『おまえよくやってくれたな勇気あるな』って、『それこそアイヌメノコ(女性)だ』って言われて、泣いた」

明治時代に制定された「北海道旧土人保護法」により保護という名の下、日本国民としての同化が進められ、生きるために独自の文化を捨てざるを得なかったアイヌ。

小山さんはアイヌに対する様々な差別を体験して育ちました。

小山妙子さん(84)
「哀れだった。哀れだった。考えがね、教育を受けていないしょ?それで子守に出されたり労働力として使われていた。差別みたいなものなんてもんじゃないんだよ」

ウポポイの開業や漫画ゴールデンカムイのヒットなどで近年、アイヌ文化への関心が飛躍的に高まっています。

旭川市に1916年に開業した日本最古のアイヌ資料館があります。

川村カ子ト アイヌ記念館。3月末、この日は平日にも関わらず、北海道内外から多くの客が訪れていました。

この記念館の三代目館長の妻で、現在は副館長を務めている川村久恵(かわむら・ひさえ)さん。

アイヌ文化への関心の高まりを歓迎する一方で、違和感を覚えることもあると言います。

川村カ子ト アイヌ記念館 川村久恵副館長
「他者から見て この辺りが面白いっていう部分だけが取り上げられていく っていうのはちょっと どうかなって思う部分ある。差別も含めた歴史ですよね。あの差別だけではないんですけれど、歴史をより知っていただけたらと思います」

4月21日、小山さんが挙げた結婚式を記録した映画が地元で上映されることになりました。映像との50年ぶりの対面に気持ちが高まります。

小山妙子さん(84)
(きょう声の具合はいいですか?)
「あ、あ、あ…だめですね。帰った方がいい」
(じゃあ水飲んで)
「それじゃない方がいい。こういうカップに入ったやつがいい」
(また!ビールはそのあとで!)

いつより少し緊張した様子の小山さんでしたが、映画が始まると、笑顔を見せ、時折、涙を見せ。50年前の記憶に吸い込まれるように見入っていました。

小山妙子さん(84)
「懐かしいな‥」

上映後は、札幌から来た大学生たちとも語りあい、アイヌの歴史と記憶は現代へと引き継がれました。

映画を見た大学生
「授業で歴史とかも学んでいて、70年代は色々なこともあった時代だったので、その中でも71年にこのアイヌの結婚式をやられていたのはとても素晴らしいこと」

小山妙子さん(84)
「クマと寝てるとか、草小屋にいるとかそんなことばかり言っていた男の子たちに『アイヌ臭くて嫌なら、なんで来たんだ帰れ』ってまで言ったんだよ。なんも言葉返ってこなかった。足踏んづけてやった。ざまみろ」

差別と闘って来たからこそ、この映像を残しておこうと思ったという小山さん。

最後に、「映画からどういうこと感じてとって欲しいか」と質問すると、小山さんらしい答えが返ってきました。

小山妙子さん(84)
「よきにはからえ」

1970年代は、社会の中で、アイヌに対する差別・偏見が、いまよりも強く残っていて、現代よりも直接的な差別も多くあったわけです。そんななかで、多くのアイヌの人々は、自分がアイヌであることを極力、隠して生きていかなければなりませんでした。

現代は70年代にはなかった、インターネット上、SNS上のアイヌに対する差別やヘイトがあることについて、小山妙子さん(84)は、「私はいいことだと思わない。私も人間だよ。字も読めるんだよ。殺すぞって書かれたら、それも読めるんだよ」と話していました。

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