「サガ」シリーズらしい歯応えのあるタイムラインバトルに痺れる「サガ エメラルド ビヨンド」プレイレビュー

スクウェア・エニックスが2024年4月25日に発売予定のPS5/PS4/Nintendo Switch/Steam/iOS/Android用ソフト「サガ エメラルド ビヨンド」のプレイレビューをお届けする。

5組6人の主人公から好きなキャラクターを選んで物語を進めていく「サガ エメラルド ビヨンド」。4月4日には体験版も配信され、既に体験版をやり込んでいるファンも多いと思うが、本稿では体験版に収録されていない主人公らにも多少触れているので、念のため注意してほしい。

■タイムラインシステムを理解しよう!

最初に言わせてもらいたいのだが、筆者は「バトルが面白いゲームは文句なく面白い」と思っている。そしてこの「サガ エメラルド ビヨンド」は、その考えで行くと文句なしの神ゲー作品のひとつである。

とにかくバトルが最っっっっっ高に面白い。理解できるまで少々時間のかかる癖のあるバトルにはなっているが、理解さえしてしまえばすごいスルメゲーになる。

その独特の癖は前作「サガ スカーレット グレイス」はもちろんのこと、本作のディレクターを務めている「サガ」シリーズ産みの親・河津秋敏氏がエグゼクティブプロデューサーとして関わっていた「ラスト レムナント」のような懐かしい雰囲気も感じた。

さて、そんな本作のバトルをきちんと説明しようと思うと非常に難しいのだが、基本的には「サガ スカーレット グレイス」のタイムラインシステムを引き継いでいる。ターン開始時に敵の行動順が見えるようになっており、プレイヤーがさまざまな技によって行動順を入れ替えて味方の連携発動を狙ったり、敵に割り込んでいったりする。

具体的にわかりやすい例を挙げてみよう。下記画像は実際にタイムラインを組み上げていく過程だ。

サラーブというキャラクターの行動次第で連携がつながるか、つながらないかの瀬戸際である。「無伴奏ソナタ」という技では、1マス空いてしまっているので、このままでは連携がつながらない。なので、他の技を選んでみよう。

「AI射撃」を選んでも、やはり1マス空いてしまう。なら、最後の頼みの綱、「ブレード」を選んでみると……

このように、タイムラインシステムでさまざまなキャラクターの行動を上手く操作していくのが、本作のバトルのコツとなっているのだ。タイムラインを組み上げたら、「ターン開始」でそのターンの行動が決定される。

ちなみに連携は必中となる。本作はかなりの確率で攻撃をミスすることがあるので、連携をいかにうまく組み込んで敵に確実に攻撃を叩き込んでいくかが重要になる。

パーティが5人なので最大5連携……かと思いきや、連携中に技を「ひらめく」とさらに連携がつながるので、6連携なども発生する。

とは言え、敵も複数体で出現する。そして敵もタイムラインシステムで行動するため、敵のマスが続いてしまえば敵に大連携を繰り出されてしまう。連携率が150%を超えると、敵・味方ともに「オーバードライブ」が発生し、もう1回連携が発生する可能性が高くなる。

筆者の感覚としては、3連携が起こると150%を超える確率がかなり高まる感じがした。なので、「自軍は2~3連携を狙いつつ、敵の3連携を作らせない」というのは本作のバトルのかなりのポイントだ。

なので敵に3連携を作られそうになったら、そこに敢えて割り込む! ……という戦略も必要だ。連携を作れればベストだが、ひとりでも割り込めれば敵の連携を阻止できる。見た目の攻撃力に惑わされず、タイムラインをどう組み上げていくかが勝利の鍵となるのだ。

また、周囲2マスに誰も存在しない場合、「独壇場」と呼ばれる1人連携が発動する。起死回生の一手で、パーティのメンバーが少なくなるほど発生しやすくなるが、これも「敵にも独壇場が発生する」ということを忘れないようにしたい。

敵の周囲2マスに何も存在しない場合、あらゆる手段を駆使してその2マス内に割り込む必要があるのだ。特に強敵相手中に敵の独壇場が発生してしまった場合、ほぼ全滅は確定である。独壇場でも連携率が150%を超えれば、もう一度独壇場が発生することもある。

さあ、これでタイムラインシステムも完璧……、と言いたいところだが、これで終わりではない。各技にはシンプルに攻撃するものもあれば、攻撃した相手を「スタン」にさせたり、「バンプ」と呼ばれる相手の行動マスを1マス遅らせるもの、敵の行動順に割り込む「インタラプト」など、さまざまな効果を持ったものが存在する。

意外と曲者なのがバンプで、一見敵の行動順で連携が発生しなさそうに見えても、バンプで1マス遅らせることで敵のタイムラインがつながってしまい、連携に持ち込まれてしまう……なんてことがある。そして敵の攻撃のバンプでこちらのタイムラインが1マスずれてしまい、せっかく組んだ連携が泡となる……、なんていうこともあるのだ。

こういったアクシデントが起こるので、必ずしも思った通りにバトルが運ぶわけではないのだが、それも本作の面白さのひとつ。頭を抱えたり、抱えたり、抱えたりしながら、パーティを勝利に導いてほしい。

■「楽勝」「普通」「強敵」「最凶」……そのバトル難易度全て「サガ」基準

「サガ」シリーズと言えば、バトルの難易度の高さでも知られている。

はっきり言おう。本作のバトルは、これっぽっちも簡単ではない。難易度は非常に高い。難易度設定なんていうものはない。みんなが横並びに高難易度でスタートである。

バトルに入る前に、多くの場合そのバトルに出てくる敵と、バトルの難易度、バトルの報酬などを見る事ができて、おおよその温度感を知ることができるのだが……バトル難易度「楽勝」(どこが????)、「普通」(どこが!)、「強敵」(強い)、「最凶」(無理)、という感じで、「楽勝」と書かれていつつ死人が2~3人出るくらいは普通である。

なので、難易度表示は「まあ……『サガ』で言ったらこんなものかもね……」くらいの温度感で見ておくのが無難だ。

「楽勝」相手にそんなに死人が出るのならば「強敵」になんて勝てっこないじゃん、と思ってしまいそうだが、何故か強敵相手に死人1人も出さずに勝てることもある。そこはやはり戦略の妙だろう。

だからと言って、「楽勝」相手に気が緩んでいるというわけではない。しかし、「楽勝」相手は敵一体一体はたいして強くなくても、数が多いことが大半。敵の数が多いということは、敵にも連携を使われやすいということだ。

それに、楽勝相手と言えども毒や石化、マヒ、スタンなど状態異常を多用してくる敵が多い。そのため、楽勝と書かれていても本当に「どこが????」としか言い様がないような高難易度バトルが待ち受けているのである。

「楽勝」とは書かれているが……

ただ、前述の通り、「サガ エメラルド ビヨンド」のバトルは最高に面白い。体験版ではキャラクターを育てられる無限バトル周回コンテンツはなかったが、製品版にはもちろん何回もバトルを挑める場所などが存在している。

強敵に挑むために何回も周回をして、地道にステータスを上げていくことができるようになっているのだが、その作業がちっとも苦にならない。

とにかくバトルがやりたくてやりたくて仕方がない内容になっているので、筆者のように「バトルが面白いゲームこそ至高」という考え方の人ならば、間違いなく文句なしのゲームだ。

特に面白いのは、主人公のひとりで本作唯一の吸血鬼であるシウグナス。本作にはキャラクターごとにLPという生命値のようなものがあり、HPが0になるたびにLPが1減っていき、0になったキャラクターはしばらく戦闘に参加させることができなくなる。だが、シウグナスはこのLPを消費する代わりに攻撃力が非常に高い「ブラッド技」を出すことができたり、仲間の血を吸うことで最大LPを増やし新たなブラッド技を覚えられたりする。

シウグナス

このように、各主人公にさまざまな特徴があり、主人公によって全く違うバトルを楽しめるのが、「サガ エメラルド ビヨンド」。難易度表記に惑わされず、さまざまな敵との高難易度バトルを楽しんでいきたい。

■変テコなストーリー?猫を集めるだけで終わってしまうことも!

本作のストーリーは一言で述べるなら、「変テコ」である。

詳しくはネタバレになってしまうので控えておくが、「三角形」を集めるボーニーとフォルミナの物語は、要は「三角形のピース」を集める物語なのだが、何故か「三角形のピース」とは言わず「私たちは三角形を探している」と口にするボーニーとフォルミナ。筆者も最初は「三角形って何?」と首を傾げた。

4体の精霊を探すという御堂の物語では「異次元ネコ」なる謎のネコを探したりすることもあった。ちなみに異次元ネコは左向きか右向きかで判断するようだ。

こういう独特な展開があるのがいかにも「サガ」シリーズなのだが、こう書くと「サガ」シリーズを遊んでいないとわからない内容なのかと思いきや、全然そんなことはない。「サガ エメラルド ビヨンド」から入ってきても全く問題ないのだが、あちこちに「サガ」っぽさが出ているので、「なんだか変テコだな?」と思ったらそれが「サガ魂」=「河津氏魂」なのだということを感じてほしい。

魔女になる試験中のアメイヤの物語では、ネコを探すことがメインとなる。ネコ探しに注力して謎を謎のまま無視して進めてしまうこともできるし、きちんと謎を追い求めていくルートも取ることができる。やはり変テコな物語(誉め言葉)だ。

体験版で既に人気沸騰なアメイヤルートで登場する、従士の加藤忍。強いぞ、加藤忍。かっこいいぞ、加藤忍。

さらに、アメイヤ編には「サガ スカーレット グレイス」に登場したヴァッハ神(コピー)も登場。もちろん、ヴァッハ神を知らなくても大丈夫!

筆者の個人的な推しは、シウグナス編で仲間になる戦士。みんな戦士なのに、戦士という名前で非常にややこしい。しかも戦士という名前ながらラッパー。戦場でも熱いビートを刻んでくれる!

ボーニーとフォルミナの物語ではネコ3匹が初期の仲間として参加するが、前述の通り本作ではバッタバッタと仲間が倒れていく。可愛いネコちゃんが次々と倒れていく有様に、「なんてことをするんだ……!」と泣きながらプレイすることに。でも倒れるたびに強くなっていくのだ、ネコ。頑張れ、ネコ。

アメイヤ編では物語の進め方次第では3時間ほどでスタッフロールを迎えることもできてしまうのだが(実際筆者がそうだったのだが)、そこはプレイヤーによって全く異なる部分だろう。ネコを集めるだけで終わるも良し、周回プレイを楽しむも良し、といったところだ。

実際、同じ世界にさまざまなキャラクターで訪れたこともあったのだが、物語が色々と異なったり、そのワールドで仲間になるキャラクターにも変化があったりと、驚きが色々あった。

同じワールドに来るとついつい物語を読み飛ばしたくなる気持ちもあると思うが、発生する分岐の違いなどを楽しんでほしい。

なお、オススメルートは体験版で配信されている、御堂、アメイヤ、ディーヴァNo.5からのようだ。筆者は5組6人のルートを全て楽しんだが、その中でも御堂、アメイヤルートは「サガ」初心者にも優しい出来のように感じた。ディーヴァNo.5は序盤からいきなり分岐が多いので、本作ならではのさまざまな分岐を楽しみたい人に良いだろう。

特にディーヴァNo.5の物語は、本作の中で最も「変テコ」感が薄いように感じた。「サガ」に初めて触るという人には、徐々にこの世界に慣れていくのにちょうど良いストーリーだ。

体験版もあるので少々プロローグを明かしてしまうと、国で人気の歌姫ディーヴァNo.5はある日禁止楽曲を歌ってしまい、メモリを封鎖する措置を取られてしまい、それに伴って心を失ってしまった。彼女の旅は、「心」を探す、切なくも悲しい、美しい物語だ。

記憶を失ったディーヴァNo.5は、「このままの姿ではいられない」と別のボディに記憶を移し替える。それがこの愛らしい丸っとしたメカなのだが、ディーヴァNo.5は新しいボディを手に入れるたびにそのボディに移り変わって、能力を推移させていくことになる。

そのため、移り変わったボディによっては、こんなメカメカしい見た目になることもあるディーヴァNo.5。元の美しい姿からは想像もつかないが、中身は純粋無垢なディーヴァNo.5である。

一方で難易度高めに感じたのはボーニーとフォルミナルート。このふたりは一組の主人公なので、パーティからふたりを外すことができない。つまり自由枠は残り3名となり、どうしても自由度が減るのだ。

その分、ボーニーとフォルミナのふたりをどう活かすかを考えるのが楽しいのも、このルートの特徴。特にフォルミナの初期装備である片手銃はインタラプト技に優れており、このインタラプト技がいずれも強い。連携に組み込めなさそうな時などは、積極的にインタラプトを狙っていきたい。ボーニーのほうは自分の行動順を上げる技を設定していたので、一見つながらなさそうに見える連携マスを、上手くつないでくれる役目を担って貰っていた。

バトルの難易度は全体的に高めに感じたので、他のキャラクターで本作のバトルの特徴をしっかりと掴んでから挑戦したいのが、ボーニー&フォルミナルートだ。

■絶対面白い、「サガ エメラルド ビヨンド」

正直に言って、筆者は本作を楽しみに待っていた一人であるが、ここまでハマるとは思っていなかったというくらい、本作のプレイを楽しむことができた。とにかくバトルが楽しいゲームは絶対の正義である。時間さえ許せば延々とフリーバトルに勤しんで、延々とバトルをしていたいくらいに楽しい。

ちなみに筆者の体感的に、本作はバトルの割合が7、ストーリーの割合が3、くらいに思えた。ストーリーも面白いが、何よりバトルに重きを置いている。だからこそ、バトルが面白くないとお話にならないのだが、そのバトルはこれまで紹介してきた通り、「最高」の一言に尽きる。安易にレビューで「神ゲー」という言葉を使いたくないのだが、本作は間違いなく「神ゲー」に数えて良い一本である。

とは言え、何やら行間を読む必要があるストーリー展開に、難易度の高いバトル。決して万人が遊んで万人が「神ゲー」という評価を下すゲームだとも思ってはいない。言うなれば「刺さる人には刺さる」という部類のゲームにはなってしまうのだが、「サガ スカーレット グレイス」が面白かった、という人はもちろんのこと、「最近のゲームは親切設計すぎてつまらないんだよな」と感じるような人にこそプレイしてみてほしい、そんなゲームである。

今時のゲームにしては、動きは少ないほうである。フルボイスでもない。しかし、それを補って余りある、考え抜かれたバトルシステム。「サガ スカーレット グレイス」の純粋な進化形のように見えて、新たに構築されたタイムラインシステムは、「サガ スカーレット グレイス」を遊んでいた人にとっても斬新さがあるだろう(ちなみに各種ステータスの役割は「サガ スカーレット グレイス」の時と変わっている)。

そして、「サガ」シリーズといえば忘れてはならないのが、伊藤賢治氏による珠玉の「イトケン節」溢れる楽曲の数々。本作でももちろん、さまざまなイトケン節を聴くことができる。特に通常バトル曲は聞くことが非常に多いが、筆者はこれを書いている今も頭の中で通常バトル曲がずっと流れており、5月1日に発売になるという本作のサウンドトラックが待ち遠しくて仕方がない。

特にバトルは一戦が5~10分かかることもザラにあるので、楽曲が良くなければとてもじゃないが気力がもたないのだが、その点はもう安心して楽しんでほしい(多分、本作が気になっているファンはとっくに体験版でこのイトケン節を全身に浴びているとは思うのだが……)。

8年ぶりの新作で、こんなに素晴らしい体験ができるとは思っていなかった。本当にありがとう、「サガ エメラルド ビヨンド」。そしてこのゲーム体験が、少しでも多くの人に届くことを祈っている。

(C) SQUARE ENIX


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