伊東健人、大人のステージングで魅了 出来立ての新曲も披露した『1st LIVE ~咲音~』レポ

伊東健人がワンマンライブ『Kent Ito 1st LIVE ~咲音~』を4月14日に東京・豊洲PITにて開催した。主に声優として一線で活躍しながら、2022年のアーティストデビュー以来コンスタントに意欲的な音楽作品をリリースしてきた伊東。リリースイベントではないワンマンライブを行うのは個人名義ではこれが初とあって、この記念すべきステージを見届けようと会場には多くの熱心なファンが詰めかけた。

開演前の場内は独特の緊張感に包まれていた。座席を埋め尽くしたファンは過度に騒ぎ立てることもなく静かに着席して待機しているものの、どことなく落ち着かない様子もうかがえる。期待と焦燥が入り交じったような形容しがたい空気が充満する中、開演予定時刻を迎えるのとほぼ同時に場内の明かりが落とされた。するとメインスピーカーから、波音のSEに続いてインストゥルメンタルナンバー「Sign」の穏やかなエレクトロサウンドが鳴り響き始める。ほのかなブルーの照明に照らされた薄暗いステージには、まずサポートミュージシャンの石川裕大(Gt)、浅倉高昭(Ba)、山本淳也(Dr)が現れてゆっくりと定位置にスタンバイ。同期トラックに合わせて彼らが演奏を開始すると、満を持して伊東が舞台下手からゆっくりとステージへと歩み出てきた。

そして演奏がやむと同時にステージ中央に一筋のピンスポットライトが照射され、スタイリッシュなジャケットに身を包んだ伊東の姿があらわになると、場内は割れんばかりの歓声で埋め尽くされる。間髪入れずにハイハットのカウントが打ち鳴らされ、実質的なオープニングナンバー「戯言」の演奏がスタート。メロディアスなリードギターがさわやかに奏でられる中、伊東の「会いたかったよ東京! 楽しんでいってください!」の言葉とともにライブの幕が切って落とされた。

これを皮切りに、エレクトロテイストのギターポップチューン「陽だまり」、ゴリゴリしたベースリフで始まるテクノロック「BiT」、ハイテンションなスラップベースと攻撃的なシンセリードが炸裂する「サッドマンズランド」とアッパーチューンを中心に次々と畳みかけ、否応なしにオーディエンスを“健人ワールド”へと引きずり込んでいく。伊東は一音一音の隅々にまで気を配った几帳面なボーカルを響かせ、楽曲の世界観を丁寧に表現。初ワンマンだからと気負いすぎることなく、平常心でのパフォーマンスを心がけているように映る。あくまで音楽のクオリティが最優先であるという彼のポリシーをそのまま反映したような大人のステージングで聴衆を魅了していった。

MCでは「今年36歳になるんですけども、36になる年で1stライブって、音楽業界的には結構オールドルーキーだと思うんですよ」と切り出し、「いろんなご縁とか自分の意思とかタイミングが重なっての今日という日なので、非常にありがたいし光栄だし、楽しみにしてました」とこの日を迎えた感慨を口にした伊東。「感情が顔に出づらい人間なんですけど」と笑いを誘いつつ「これでもめちゃくちゃ楽しんでるんで。もうちょっと顔に出やすいように今日は楽しんでいきたいと思っているので、皆さんも負けずについて来てください」と呼びかけて喝采を起こした。

続いて「『今日を逃したらいつやるんだ?』というくらいのスペシャルな1曲」と前置きした上で、何かと縁深い須田景凪(バルーン)の「シャルル」をカバー。さらに「着席タイムを設けたいと思います」と通達して観客を座らせ、アコースティック寄りのミディアムAORナンバー「AMBER」「Follow」がゆったりと届けられた。すると伊東のもとへスタッフが駆け寄り、おもむろにアコースティックギターが手渡される。客席から期待のこもった歓声が上がる中、伊東はアコギを爪弾きながら「今日の衣装も相まって、こういうお笑い芸人いそうな感じですけど(笑)」とギター漫談スタイルで語り始めた。

「豊洲PIT、いつ以来だろう? 『アイマス』(『アイドルマスター SideM』)で来て以来かもしれない。1人でやれる日が来るとは……」と感慨深げに述べたのち、「ここからは僕が一番力が入るポイントなんですけど……今日は! 自分で作った! 自分でギターを弾く! 新曲やりまーす!」と高らかに告げ、さらに「しかも2曲やります!」とつけ加えて豊洲PITが揺れるほどの大歓声を巻き起こした。そして「1週間ちょっと前にできたばかり」だと語る16ビートのマイナーAORチューン「意味愛」、くるりやフジファブリックなどを彷彿とさせるフォークロックナンバー「歩幅」を軽やかにパフォーマンス。これに続いて「sugar」「My Factor」といった人気曲を立て続けに投下し、色とりどりのペンライトが波打つフロアを大いに踊り狂わせてライブ本編を締めくくった。

アンコールに応え、ステージにはまずバンドメンバーが再集結。おもむろにアコースティックギターの16ビートカッティングが打ち鳴らされると、すかさずTシャツ姿の伊東が舞台袖から登場し、2021年にゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』に提供したボカロ曲「magic number」のセルフカバーを披露した。続くMCでは客席から飛んでくるさまざまな声を細かく拾い、ファンと濃密なコミュニケーションを図ろうという姿勢を見せる伊東。「疲れました」と正直な心境を伝えて笑いを取りつつ、「体はちゃんと疲れてきてるんだけど、心はまだまだ行けるんですよ。もっともっとやりたいのは山々ですけれども、そこはオールドルーキー、曲数がまだそんなにない!」という身も蓋もない発言で爆笑をさらった。

近年の音楽活動については「いいペースでは来ていると思うんですよね」と手応えを感じている様子だったが、「もう4月も中盤ですか。この1年が早くも3分の1終わるということで、あっという間にね、きっとこの調子で僕は気づいたら棺桶の中……人生そんなもんなんだろうなと思うんですけどね」などとシニカルな人生観を口にする伊東。そのまま彼は言葉を続ける。「今みたいな働き方って、正直40歳越えたらできないと思うんです。そんな『ちょっと疲れたな』っていうときまで、全力で走り続けたいと思います」と地に足のついた物言いでほどよい湯加減の所信を表明し、最後にソロデビュー曲「真夜中のラブ」を披露。妖艶な大人のダンスミュージックで会場をシックなムードに染め上げ、彼の等身大な魅力が詰め込まれた一夜にしっとりと幕を引いた。

(文=ナカニシキュウ)

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