血糖値の下げ過ぎは早死にする…高齢者には過度の糖質制限は禁物(和田秀樹)

茶腕一杯程度を

【和田秀樹 笑う門にボケはなし】

前回は、行き過ぎた減塩食によって、意識障害の原因になる低ナトリウム血症が引き起こされる可能性について紹介しました。低ナトリウム血症になると、意識障害のほか吐き気や倦怠感、疲労感、頭痛、筋肉のけいれんなど、高齢者にありふれた症状が現れますから侮ってはいけないと思います。

さて今回は、血糖値についてです。糖尿病で血糖値を下げようと、糖質を制限した食事改善に取り組んでいる人は少なくないでしょう。糖質制限とは、その名の通り米やパン、麺類、果物、スイーツなど糖質を多く含む食品をカットする食事法です。これを続けると、血糖値は下がりやすく、ダイエット効果もあるでしょう。

しかし、高齢者は塩分制限と同じで、糖質についても行き過ぎた制限は禁物です。脳がエネルギー源として利用できるのは、ブドウ糖のみ。とても重要な栄養素であるブドウ糖は、糖質を分解して得られますから、糖質が不足すると、頭がぼんやりして、脳の働きが阻害されます。

ブドウ糖をエネルギー源とするのは、筋肉も同じです。高齢者が糖質制限を過度に行うと、筋肉が落ちて足腰が弱くなります。それでつまずいて骨折したりすると、しばらく動けなくなってよけいに筋力が低下する悪循環に。過度な糖質制限は、筋力維持との関係においてもよくありません。

厳格な血糖コントロールがよくないことを実証した研究もあります。米国では、厳格な血糖コントロールを行うグループと標準的な血糖コントロールを行うグループに分けて比較する研究がありました。厳格グループは、過去2カ月の平均的な血糖状態を示すHbA1cを6.0%未満、標準グループは同7.0~7.9%を目標としました。

すると、厳格なグループでは、治療の副作用である重度の低血糖の割合が標準グループの3倍。さらに脳卒中や心筋梗塞による死亡率も高く、試験は中止されたのです。過度な血糖コントロールがよくないことが見て取れるでしょう。

この研究は薬とインスリンを使用した臨床試験ですが、糖質制限を続けていると同じように低血糖の副作用が生じます。その症状は、頭がくらくらしたり、めまいで体がふらついたりするほか、体の力が抜けるように感じたり、意識が朦朧として運転に危険が生じることもあります。動悸を訴える方もいます。これらが低血糖の症状で、さらに低血糖が進むと、命を落とすこともありますから、低血糖を軽視するのは禁物です。

怖い低血糖を避けるには、主菜と副菜のほか茶碗1杯分くらいの米はとるべきでしょう。もちろん糖質に偏った食事はよくありませんが、昔ながらのごくごく当たり前の食事が、高齢者の健康には欠かせないのです。

(和田秀樹/精神科医)

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