J1リーグ序盤戦査定で“格上げ”…「期待以上」のクラブは? 町田と並んで評価高騰【コラム】

G大阪、町田、C大阪の3クラブをピックアップ【写真:徳原隆元】

J1序盤戦のパフォーマンスから「期待以上」のクラブ厳選

J1リーグは開幕から9試合を(横浜F・マリノスと柏レイソルは8試合)を終えた。まだシーズンのほぼ4分の1を消化したに過ぎないが、この時点で見えてきた傾向は少なくない。その中で、筆者の目線ではあるが開幕前より評価を上げたクラブを「期待以上」として整理し、3チームをピックアップした。

真っ先に挙げないといけないのは首位のFC町田ゼルビアだろう。“昇格組”という事実を忘れてしまうほど対戦相手にとっても驚異的な存在になっている。ただ、開幕前の時点でもスタートダッシュというのは予想できた。理由は町田がJ1慣れしていない以上に、J1のクラブが町田のスタイルに慣れていないからだ。その兆候は昨年の天皇杯でも見られていた。

ただ、それが9試合を終えた時点でもキープしているのは予想以上だった。黒田剛監督が率い、金明輝コーチが支える町田はロングスローが象徴的に語られるが意図的にリスタートを早くしたり、逆に遅くしたり、ちょっとしたところで相手側にストレスを与えるのがうまい。ただ、こうしたゲームコントロールの部分はどんなスタイルだろうと本来はフットボールで勝敗に大きく関わる要素で、現在のJリーグにやや欠けているところでもある。

またトランジションの早さはトップレベルにあり、ミスで相手にボールが渡っても、ひと手間かけてくれたら町田の選手たちは帰陣しながら守備を整えられる。その時、ボールホルダーの前に立って速攻させない選手の役割なども徹底されている。1つ1つ見れば奇をてらったことをしているわけではなく、すべてにおいてきっちりとしているのだ。

J2清水エスパルスから加入したFWオ・セフンが前線の主力に定着していたり、浦和レッズで昨シーズンほぼ出番のなかったMF柴戸海が中盤の主力に定着していたりと適材適所で選手の特長を組み合わせているのも目を見張る。

選手登録数が38人と多く、厳しい競争意識を生み出しながら状況に応じて選手をチョイスしていけるというのは過密日程を回すということだけでなく、対戦相手からも読みにくくなっている。FW藤尾翔太とFW平河悠がU-23アジア杯で数試合チームを離れても、大きな痛手にはならないと筆者が見ている理由だ。

ただ、ビルドアップで相手を外したり、中盤でボールを動かすことを重視していない分、逆に対策をされてセカンドボールを相手により多く拾われるような状況が多くなると、夏場から後半に欠けて失速していくリスクは多分にある。またサンフレッチェ広島戦(1-2)のようにベースの強度で上回られて後手を踏む流れになると、組織的な対応だけでは難しくなることも示された。

かくいう筆者もこのまますべて継続で、躍進が続くとは考えていない。ただ、町田の選手保有数や資金力、怪我で離脱するFWエリキというJ1でも規格外のストライカーが復帰してくることなどを想定すると、ライバル側も「どうせ町田は落ちてくる」と高を括るのは危険だろう。

ダニエル・ポヤトス監督と小菊昭雄監督【写真:徳原隆元】

良い意味での驚きを与えている関西2クラブ

そのほか、現在6位のガンバ大阪も良い意味での驚きを与えてくれている。ダニエル・ポヤトス監督体制2年目で、戦術的な完成度が上がっているのは確かだが、それ以上に守備面が昨シーズンよりタイトになっている。名古屋グランパスから加入して、すぐにディフェンスリーダーとして定着したDF中谷進之介や横浜F・マリノスで経験を積んできたGK一森純の存在も大きいが、チーム全体が基本的なスタイルをベースにしながら、勝つためにどうするべきかに向き合えているのが大きい。

自陣からのビルドアップはしっかりとやりつつ、素早く縦を突ける時には突くという意識も高まっている。FW宇佐美貴史というキャプテンにして絶対的なエースはいるが、2列目にFWウェルトンやFW坂本一彩、FW唐山翔自といった縦に矢印を強めるタレントを並べているのも特徴的だ。ただ、前線の爆発力は発揮できておらず、得点数は全体の15番目だ。

これを解決するためには坂本や唐山がさらにフィニッシュで違いを生み出すことに加えて、復調途上のチュニジア代表FWイッサム・ジェバリが完全復活できるかどうかにもかかっている。ここ2試合(対サガン鳥栖/2-1、対浦和/1-0)と1点差の勝負をモノにしているが、ここから先も得点力不足が続くようなら、夏のFW補強にも動く必要が出てきそうだ。

もう1つはセレッソ大阪だ。直近のリーグ戦で名古屋グランパスに敗れ、首位の座を町田に明け渡す格好となったが、それまで広島とともに無敗を続けていた。筆者の勝手な想定だが、もし名古屋に勝って、9試合で勝ち点21に伸ばしていたら、そのまま流れに乗って独走態勢に入ってもおかしくないと思っていた。

名古屋戦ではチャンスの数などでホームの相手を上回りながら、少ないチャンスを決められての残念な敗戦となったが、内容面では広島とリーグ1、2を争うクオリティーを出している。なぜ広島よりC大阪を「期待以上」として取り上げるかというと4-3-3にシステムチェンジしてボールを保持する主導的なスタイルにチャレンジすることが、簡単には勝ち点に結び付かないのではと予想していたからだ。

小菊昭雄監督が率いて4年目になるなか、これまでは4-4-2をベースにどちらかと言えば守備から入って相手の攻撃に耐えながら隙を突いていく戦い方で勝利を積み重ねてきておりボールを持たされた場合、相手に守備を固められると苦しむ傾向にあった。しかし、アンカーの適任者として北海道コンサドーレ札幌からMF田中駿汰を獲得し4-3-3を固定しながらMF香川真司、MF奥埜博亮をはじめとした2列目のタレントを繰り出し、前線のFWレオ・セアラ、FWルーカス・フェルナンデス、MFカピシャーバといった個を押し出すスタイルは完璧なほどハマっている。

不安材料としては上位陣の中ではセンターバックの守備強度がやや落ちるのと、田中にアクシデントがあった場合に代えが利かないということ。ただ、多くの選手が4-4-2に慣れており、必要ならいつでも立ち戻れるというのは小菊監督が百も承知だろう。ルヴァン杯のいわてグルージャ盛岡戦ではMF上門知樹をこのポジションで起用しアウェーで1-0と勝利したが、システムに固執して溺れるのは本末転倒だろう。

田中はこのまま好調を持続できれば日本代表の招集も十分にあり得るが、彼がシーズン通してフル稼働できることを願いつつも、小菊監督がどう対応していくかも同時に注目するべきポイントだ。(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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