【社説】自民の政治資金改正案 骨抜きの「連座制」を見直せ

 派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、自民党がようやく政治資金規正法改正の独自案をまとめた。

 最大の焦点は、会計責任者が処罰された時に国会議員本人が責任を取る「連座制」にある。しかし、自民案は議員に責任を逃れる余地を残し、実効性に疑問符が付く。

 他党が早々と改革案を示す中、重い腰を上げた末の「後出し」だけに失望も大きい。裏金事件で国民の政治不信を招いたという自覚に、著しく欠けると言わざるを得ない。

 連座制は公選法の規定にあり、選挙で陣営幹部に一定の罪があれば議員が当選しても無効になる。「ザル法」と批判され続けてきた規正法を本気で改めるなら、失職の恐れを抑止力にするほかはない。

 自民案は政治資金収支報告書の提出時に議員による「確認書」の添付を義務付ける。議員には失職につながる公民権停止の罰則を設けたが、肝心の適用要件が甘過ぎる。

 具体的には会計責任者が収支報告書の不記載などで処罰され、かつ議員が必要な確認を怠ったまま確認書を添付した場合に限った。これでは政治資金の透明化には程遠い。

 なぜなら今回の裏金事件に自民案を適用しても、大半の議員が「連座制」の対象にはならないからだ。

 裏金をつくった80人以上の議員のうち、会計責任者が処罰されたケースはごくわずかだ。仮に会計責任者が処罰されても、議員が「確認はしたが不正は知らなかった」と言い逃れる可能性もある。

 きのうの国会論戦で、野党から「抜け道だらけ」「なんちゃって連座制」などと批判が出たのも当然だろう。防戦一方だった岸田文雄首相は認識を改めるべきだ。

 会計責任者や秘書が自分だけの意思や判断で裏金をつくる―と思っている国民は少なかろう。政治とカネを巡る不祥事が繰り返される中、「秘書が勝手に…」という釈明は不信にまみれている。

 改正案では議員に当事者責任があると明確にすべきだ。会計責任者を議員に限定するのも一案だろう。不祥事があれば議員が責任を取り、秘書たちが「連座制」に問われるのが本来の筋である。

 自民党内には、会計責任者が意図的に不正を行うケースなどを想定し、導入に慎重な意見もあるという。それこそ議員の監督責任で防ぐべき事態ではないか。自らの収支に目を光らせるのは当然だ。

 民間企業で不正経理などが発覚した場合、社長が「知らなかった」で責任を免れることはまずない。政治資金の取り扱いだけが、国民の感覚とは懸け離れていることを改めて自覚すべきだ。

 こぞって「連座制」の導入を訴える他党の本気度も問われる。特に公明党の責任は重い。きのう始まった与党協議では自民案の抜け穴をふさぐ対策はもちろん、甘い認識をただす役割も求めたい。

 自分が手にし、使ったカネに責任を持つ。それが、一部の議員が言う「政治活動の自由」の妨げにつながるとは到底思えない。国民の疑問に答えない改革など無意味だ。

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