不必要な練習の“声出し”に潜む悪影響 野球で常識的も「話しながらの仕事と同じ」

埼玉・越谷市で野球塾を運営する寺村友和氏(右)【写真:間淳】

小学生を指導する寺村友和氏…挨拶や声出しの強制なし「敬意あれば自然とする」

指導の根底には価値観を押し付けず、選手の可能性を広げる考え方がある。元プロ投手で、現在は埼玉・越谷市で野球塾を開いている寺村友和さんは、自身の経験や常識に捉われない柔軟な思考で選手を指導。挨拶や声出しを強制せず、上達する楽しさを伝えている。

ロッテ、ヤクルト、近鉄で投手としてプレーした寺村さんは、今月22日に50歳を迎えた。野球に没頭した学生の頃は、怒声・罵声や厳しい上下関係が当たり前の時代だったが、当時から、ずっと疑問を抱いていたという。

「怒られながら野球をしてきた世代ですが、監督や先輩に従う絶対的な上下関係や、失敗して説教されることに違和感がありました。なぜ、悪しき風習を引き継ぐのか。私は後輩に対して、自分が嫌だったことをしないようにしていました」

現役を引退後は指導者の道を歩み、大学や社会人でもコーチや監督を歴任した。今は、主に小学生を対象にした野球塾で知識や技術を伝えている。自身の指導法については「少しエッジが効いているかもしれません」と笑う。例えば、「野球の常識」と言われがちな挨拶や声出しを選手に強制しない。その理由を説明する。

「挨拶が無意味だとは思っていません。ただ、監督だから、年上だから、という理由で挨拶を強要することには疑問があります。相手に敬意を持っていれば、子どもたちは自然と挨拶やお礼を言いますから」

あえて難易度の高い動きも指導…壁を越える瞬間の楽しさ知って

ランニングやキャッチボールから始まり、打撃でも守備でも、当たり前となっている声出しも決して強制しない。声出し自体は否定しないが、声を出すのは結果を出すための“手段”であるべきで、“目的”になっては意味がないと考えている。

「チームとして結果を出すために、自分や仲間を鼓舞する声には意味があると思います。しかし、フォームを意識しながらキャッチボールしている時や、動きをイメージして打撃や守備の練習をしている時に、声を出す必要はありません。声を出さなければいけないという考えが、最も大切な上達しようとする気持ちやプロセスを邪魔してしまいます。話をしながら仕事をしても集中できないのと同じです」

寺村さんは頭の中でプレーを描けなければ、体は動かないと指摘する。そのため、選手に声出しを求めず、イメージづくりに集中させる。そして、イメージをつくる上では経験が必要になると考えている。「経験していない動きはイメージも表現もできません」。

野球塾では、ジャンピングスローやランニングスロー、深い位置から逆シングルで捕球してからの送球といった難易度の高い内容も組み込む。小学生には早いと感じる指導者もいる練習だが、寺村さんには動きのバリエーションを増やす目的に加えて、野球本来の楽しさを伝える狙いもあるという。

「ワイワイ練習することが楽しいのは小学校低学年までです。高学年になったら、できなかったプレーができるようになる“壁を越える楽しさ”を知ってほしいと思っています」

挨拶や声出しは目的や目標に向けた手段。選手に強制しても、野球での効果や成果を期待するのは難しい。(間淳 / Jun Aida)

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