無印「インフラゼロハウス」に行ってきた 上下水道・電気がなくても暮らせる

by 白根 雅彦

インフラゼロでも暮らせる家

注文住宅の「無印良品の家」を展開するMUJI HOUSEは、実証実験中のオフグリッド住宅「インフラゼロでも暮らせる家」のプロトタイプをプレス向けに公開した。同実証実験の一環として、5月と7月、9月の週末に試泊してくれるモニターを募集する。

まだ実証実験段階の住宅だが、2025年以降に実用化・商品化することを目指している。今回公開されたのは事業化前のプロトタイプで、実際の商品は異なる仕様になる可能性がある。

上下水道・電気・ガスがなくても暮らせる家

MUJI HOUSEは普通の注文住宅も扱っているが、「陽の家」など、自然に囲まれた環境に適した住宅も手がけている。開発中の「インフラゼロでも暮らせる家」は、そうしたコンセプトをさらに突き詰めた住宅で、水・電気・ガスといったライフラインが届いていない場所でも持続的に住めるような仕組みが搭載されている。

屋根に加え、外壁にも太陽光発電パネルを搭載

まず電気については、屋根と外壁の一部に太陽光発電パネルを装着し、大容量の蓄電池も搭載することで、電力会社の系統に接続しなくても電気を使えるようにしている。ガスは使わず、キッチンはIHコンロ、給湯器はエコキュートを使っている。

開発中の水循環システムはかなりの面積を占めている

水についても、水循環システムを搭載していて、上下水道網に接続しなくても、キッチンやシャワーなどを利用できる。キッチンやシャワーの排水を回収し、飲用できるレベルにまで浄化できるという。ただし水循環システムは独自のものを開発中のため、専有面積が広かったりと現段階では未完成な部分がある。

バイオトイレ。攪拌や加熱に電気を使う

トイレについては山小屋などにも使われるバイオトイレ(コンポストトイレ)が採用されている。これは微生物によって排泄物を分解するトイレ。おがくずと排泄物をかき混ぜ、温度制御もすることで分解しやすい環境を作り出し、トイレとしては1日20回程度の使用に耐え、生ゴミやトイレットペーパーも分解できる製品が採用されている。

場所を問わないトレーラーハウス だけど木造

「インフラゼロでも暮らせる家」は、トレーラーハウスとして作られている。車検が必要で、重量や大きさなどは車両としての制限を受けるが、建築物ではないので建築確認申請などは不要で、固定資産税もかからず、通常の建築に制限のある土地にも設置できる。

設置風景。トレーラーで牽引して移動・設置する

1棟のサイズは幅2.3m・長さ5.3m。室内高は高いところで2.3m(片流れ屋根で左右で高さが異なる)。トレーラーはもっと大きなサイズ、法的には幅2.5m・長さ12m・高さ3.8mまで作れるが、3.5トンという制限もあるので、住居部を含めた重量を考慮した結果、今回は2.3m×5.3mのサイズを採用したという。

それでも牽引時は水循環システムやエコキュートの中の水は捨てておくなど、重量を軽くする必要がある。ただし、パワフルな乗用車、たとえばランドクルーザーなどでも牽引できるという。知識や技術、牽引免許などは必要だが、居住者自身が牽引や設置することも不可能ではない。

一般的なトレーラーハウスは軽量鉄骨と鋼板で作られるが、「インフラゼロでも暮らせる家」は木造となっている。「陽の家」などで採用されているエヌ・シー・エヌ社のSE構法で、柱と梁を剛接合しつつ一部に構造面材をはり、筋交いなどは存在しない。

製作中の写真。木造住宅のように作られている

断熱材は木造住宅並みで、壁や床は90mm、屋根は60mmのネオマフォームを使っている。窓ガラスは樹脂アルミ複合サッシでペアガラス。住宅の断熱性能を示すUA値は0.6程度と、関東以南における断熱等級5相当で、最高クラスというほどではないが、外皮面積も内容積も小さいため、エアコンの消費電力は極めて小さく、冬場でも天気が良ければエアコンが不要なくらいだという。

現状のデザインでは、太陽光発電パネルのない外壁には、透湿防水シートの外にスギ材を隙間を空けつつ貼っている。内装もフローリングなどには無垢材が多用されるなど、MUJI HOUSEのほかの製品同様に木の質感が重視されている。

「ユーティリティ棟」と「リビング棟」の2種構成

建物としては、プロトタイプでは「ユーティリティ棟」と「リビング棟」の2種類がある。

ユーティリティ棟のキッチン

「ユーティリティ棟」には水循環システムとキッチン、シャワーブースが搭載される。プロトタイプの水循環システムは室内の半分以上の面積を占めているが、これはまだ開発中で、実証実験中にも最適化を進めている。エコキュートのタンクも水循環システムと同じ部屋にある。

Starlinkのアンテナは外壁に設置されている

ユーティリティ棟にはIHコンロやエコキュート、水循環システム、電子レンジ、冷蔵庫、衛星ネット回線(Starlink)など、電力を使う機器が多く、一方で出入り口以外に大きな開口部が不要なこともあり、太陽光発電パネルは屋根だけでなく、南に向ける外壁にも装着されている。ユーティリティ棟の太陽光発電パネルは合計3kW、蓄電池は24kWh。

リビング棟の室内

「リビング棟」はいわゆる居室で、トイレはこちら側にある。今回公開されたプロトタイプでは、2つのシングルベッドとテーブルも設置されている。こちらは側面に玄関や掃き出し窓があり、一方で電気を使う機器が少ないこともあり、太陽光発電パネルは屋根のみで1.5kW、蓄電池は15kWh。

それぞれの棟は独立していて、行き来するには屋外を経由する必要がある。互いに固定されず、配管なども接続されていない。水は主に「ユーティリティ棟」で使う仕組みで、「リビング棟」のバイオトイレは水不要、手洗いは水を汲んできて使用する。

組み合わせとしては、ユーティリティ棟とリビング棟で1:1ではなく、1つの「ユーティリティ棟」に複数の「リビング棟」、といった構成も想定されている。

室内はやや狭め。屋外環境の活用が重要

リビング棟は居室としてはやや狭め

実際に「リビング棟」の室内に入ってみると、住宅としてはやや狭めに感じられる。広さとしては12m2=6.5畳程度で、単段ベッドではシングル2台が限界となり、2人が寝泊まりするのが限界だろう。

「リビング棟」は寝室の隣にドアを挟みつつもバイオトイレがあるが、不快な臭いは感じられなかった。一方で壁など内装に木材がふんだんに使われていることもあり、木の香りが強いという印象だ。

室内は広くないが、現在設置されているプロトタイプの「ユーティリティ棟」と「リビング棟」のあいだには各棟と同じ面積のウッドデッキが敷かれていて、そこをリビング・ダイニング・ワークスペースとすることが想定されている。このウッドデッキにはタープを張るための金具やポールも用意されている。

ちなみに設置場所は山林から少し距離がある整えられた平地で、虫など小動物が少なく、屋外で長く過ごしやすい立地でもある。

ガラス張りのシャワーブース

「ユーティリティ棟」のシャワーブースは、サンワカンパニー製のガラス張りの製品で高級感がある。湯船はないが、さすがに湯船をトレーラーハウスに搭載し、お湯を浄化・循環させるのは難易度が高い。この「インフラゼロでも暮らせる家」を設置するような立地であれば、近所に温泉のひとつやふたつはあるだろうから、湯船に浸かりたいときはそちらで、という想定とのことだ。

キッチンは置くモノが多いと手狭に感じられる

キッチンはサンワカンパニー製オールステンレスで高い質感のものだが、全体にかなりミニマムだ。「インフラゼロでも暮らせる家」が設置されるような立地だと、夜遅くも営業している飲食店は限定され、クルマ移動となるので外食でお酒を飲めない。もうちょっと大きなキッチンとして、地元の食材を調理する楽しみも得られるようにして欲しいところでもある。

想定用途はセカンドハウスや宿泊施設

「インフラゼロでも暮らせる家」は、別荘や宿泊施設としてのニーズを見込んでいる。「インフラ不要」と「移動可能」という特徴を活かした使い方がキモとなる。

販売価格などはまだ決まっていない。普通のトレーラーハウスよりはだいぶ高くなるが、インフラのない土地にインフラを整えるよりは低コストになる見込みだという。

生活インフラ、とくに水道は敷設にコストがかかる。たとえ接道に水道管が通ってたとしても、広い土地だと建物位置まで水道を引くのに高いコストがかかることもある。近くまで水道管が来ていないとなると、井戸は掘るのも維持管理するのもコストや手間がかかる。

「インフラゼロでも暮らせる家」を使えば、電気や水道が届いていない山奥などの土地でもインフラ敷設のコストをかけずに、住居や宿泊施設を設置できる。

また、トレーラーハウスなので建築物としての制限を受けないこともポイントだ。用途地域や地目、接道などの理由で建築が制限されている土地でも、トレーラーハウスなら設置できる。安全面などの配慮は必要だが、問題が発生しそうなら移動させる、というような柔軟な運用もできる。

こうした特性により、これまでは活用が難しかった山奥や海沿いの土地も別荘や宿泊施設として利用できるようになる。

トレーラーなので移動が容易なこともさまざまなメリットがある。極端に言えば、夏は涼しい高地に設置し、冬は暖かい低地に移動させる、といった運用もできる。利用する人数に合わせて「リビング棟」を買い増ししたり撤去・売却したり、といったことも容易だ。

災害対策としても有用だ。普段は別荘や宿泊施設として利用しつつも、どこか遠方で大規模な災害が起きた際に仮設住宅として移設・貸与するといったこともできる。電気や水道が止まっていても通常に近い暮らしができるし、もともとそういったインフラが届いていない空き地にも設置できる。もちろん所有者が被災した場合は自身の仮設住宅として有用だ。

電力は足りないこともある

エアコンやエコキュートの室外機は外壁に固定。このまま走行できる

「インフラゼロでも暮らせる家」はまだ実証実験中で、仕様なども模索している段階だ。すでにいくつかの課題が出てきている。

たとえば現状のプロトタイプだと、悪天候が数日間続くと、太陽光発電が足りず、蓄電池が空っぽの電欠状態になることもあるという。

電欠問題の解決方法は、たとえば「ソーラーカーポートなどを設置して発電容量を増やす」「EVから電力供給する」「発電機を用いる」「系統に接続する」などが考えられている。

クルマからの電力供給も、V2Hは大電力に対応できる半面、バッテリEVやPHEVのみの対応で、機器だけで150万円程度のコストがかかる。しかしAC100Vのインレットを外壁に設置するなら、より安価で、プリウスやアクアといったハイブリッド車の100Vアクセサリコンセントからある程度の電力を得られる。また、ガソリンやカセットガスを使う携帯発電機も利用しやすい。

太陽光発電パネルを増やすのは、実は難しい問題でもある。この「インフラゼロで暮らせる家」は電力会社の系統に接続しないので、余った電力を売却して活用することができない。そのため、使い切れないくらい発電するほどの太陽光発電パネルを搭載するのは、その太陽光発電パネルの生産の分、環境負荷を増やすことにもなる。

そこまでして太陽光発電の容量を増やすよりは、天気の悪い日が続いたら節電したり停電したりと、自然を受け入れ向き合う方がこの家のコンセプトに合う、とも言える。ただその一方で、電力線を引くのは水道を引くのに比べると格段に難易度が低いので、系統接続するというのも選択肢のひとつでもある。

プロトタイプの玄関はリビング棟の裏側

間取りなども手探りな面がある。たとえば現状ではリビング棟の南面には掃き出し窓、北面には玄関があるが、これだと別途ポーチが必要になり、設置の自由度も低下している。玄関は南面の掃き出し窓側にまとめた方が良いのでは、と検討しているという。こういった実際に設置して何日も住んでみてわかるようなことを洗い出すことも、実証実験の目的となっている。

実証実験の参加者は一般公募

実証実験は、3期にわたって実施され、試泊する人を一般公募する。

第1期が5月3日〜5月27日、第2期が7月12日〜8月5日、第3期が9月13日〜9月30日で、試泊者はいずれかの週末に1〜3泊し、課題や要望をレポートする。

募集は期ごとにMUJI HOUSEのWebサイト上で実施される。第1期の募集は4月24日までで終了したが、第2期の募集は5月31日〜6月23日、第3期の募集は8月19日〜9月1日。応募時にどの週末に宿泊するか最大で第3希望までを出すことができる。

設置場所の遠景。房総半島のほぼ南端だが山に近い

今回のプロトタイプが設置されているのは、千葉県南房総市、房総半島の南端にある「シラハマ校舎」という複合施設だ。同じ敷地には「無印良品の小屋」を使った宿泊施設や分譲住宅が建っている。実のところ周囲に住宅も多く、水道も電気も通じているので、本来なら普通のトレーラーハウスで十分な立地でもあるが、クルマがないと食品などの買い出しも大変なエリアなので、応募する人は注意しよう。

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