「男性は死にやすい」身も蓋もないニッポンの男性が置かれた現実
2015年ごろに誕生した「弱者男性」という言葉がある。弱者男性とは貧困・障がいといった「弱者になる要素」を備えた男性を指す。こう書くとあたかも、男性のごく一部が弱者であるかのように捉えられがちだが、実際には男性の多くが、潜在的に弱者といえる。婚活事情に詳しいエッセイストのトイアンナ氏が解説するーー。
※本稿は『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)から抜粋・再構成しています。
第1回:
第3回:結局「チー牛」って誰なのか…馬鹿にされ、自業自得と言われ「現代の差別のど真ん中にいる人たち」男の25%を占める「弱者男性」の悲惨さ
男性は女性よりも死にやすい
そもそも男性は、女性と比較して早く死ぬ。厚生労働省がまとめた「令和4年簡易生命表」を見てみると、日本における平均寿命は、女性は87.09歳に対して男性は81.05歳。なんと約6歳もの差があるのだ。特別な理由などではなく世間一般的な平均寿命から見ても、男性は女性より早く死ぬ。これは変わらぬトレンドなのである。
また、男性は自殺もしやすい。厚生労働省と警察庁がまとめた「令和4年中における自殺の状況」を見ると、年間で2万1881人いる自殺者のうち、男性は1万4746人に対して女性は7135人。実に男性は女性の約2倍もの自殺者がいる。
そのなかで、自殺の原因・背景については経済・生活問題や健康問題・家庭問題をはじめ、あらゆる要因が絡み合い、自殺行為につながっていると推測している。
男性は孤独になりやすい
配偶者がいない場合、男性はより早く死ぬ。2018年人口動態調査をもとに、配偶者有無による死亡年齢をひも解いていくと、未婚男性の死亡年齢中央値は約66歳、離別は約71歳。有配偶男性の約81歳からすると、未婚男性は約15歳も早く死んでしまうのである。
こうして見ると、離別でも死期が早まるわけだから、男性は長生きしたければ結婚したほうがいいし、さらに離婚しないほうがいい。男性は総じて孤独に弱い生き物なのだといえる。女性は離別・未婚・死別より有配偶者が最も早く死んでしまうわけで、男性とは対照的だ。
未婚男性が増加する昨今、このままでは、ますます男性の寿命が短くなっていく未来が見えている。
男性はDVの被害にあいやすい
続いて、未婚―既婚以外の要素にも触れたい。これをご覧になっている方は、男性にもDV被害者がかなりいることをご存じだろうか。内閣府が2020年にまとめた「男女間における暴力に関する調査」によれば、配偶者から「身体的暴行」「心理的攻撃」「経済的圧迫」「性的強要」のいずれかの被害に遭った経験があると答えた男性は、18.4%もいた。
女性も25.9%と、約4人に1人の計算で被害を受けていることになるが、男性も約5.4人に1人であり、決して少ないわけではない。また、同じ調査で、交際相手からDV被害にあった経験がある男性は8.1%存在していた。実は、交際している段階で男性もDV被害にあっているのが実態なのだ。
この他では、特定の相手から執拗なつきまといや待ち伏せ、面会・交際の要求、無言電話や連続した電話・メールといったストーカー被害にあったことのある男性は4%、25人に1人という結果が出ている。また、男性の100人に1人は、同意しない性行為の経験がある。
被害を数で比べるだけならば、男性の被害者数は女性と比べて少ない。だが、決して「ごく少数」ではないこともわかるはずだ。だが、これまで男性の犯罪被害は多くの人の目にとまることなく、なきものとして透明化されてきたのである。
さらに、2016年のデータでは、男性の方が女性よりもデートDVの被害にあっていることが判明した。これまで暴言や無視など、精神的なDVの認知度が低かったために男性の被害が過小計上されていたものと思われる。女性は殴りこそしないものの、「スマホを盗み見る」「無視を続ける」といったDVをふるいやすい傾向にあり、その被害が明確になった。実は男性の方が、DVの被害に遭いやすいのだ。
理想的弱者である「女性・子ども」
ではなぜ、「男性は強者」だと思いこんでしまうのだろうか。
そこには「理想的な被害者」という概念がある。理想的な被害者とは、1980年代、ノルウェーの社会学者であるNils Christieが提唱した言葉である。人は犯罪の被害に遭った方を平等に扱うことができず、特定の被害者のみを「まっとうな被害者」に感じるという考え方だ。
「理想的な被害者」に当てはまるリストは次の通りである。
(1)被害者が脆弱であること
(2)被害者が尊敬に値する行いをしていること
(3)被害者が非難されるような場所にいなかったこと
(4)加害者が大柄で邪悪であること
(5)加害者とは知り合いでないこと
(6)自らの苦境を広く知らせるだけの影響力を有すること
リストを見ると、女性の方が「理想的な被害者」となりやすいことがわかる。女性は女性であるだけで、さまざまな要因から弱者性を帯びる。たとえば、力で男性に勝てる女性はごく一部だ。昨今では変わりつつあるものの、平均年収は男性よりも低いケースが見受けられる。
男性の弱者性はわかりづらい
そして妊娠や出産を経験することで、キャリアにおけるハンディを負いやすい一面もある。総じて肉体的、経済的においてある種、わかりやすい弱者性を持っている。
対して、男性の弱者性はわかりづらい。家庭の事情、貧困、健康状態など、ありとあらゆる理由で男性も弱者側に置かれ得るにもかかわらず、基本的には「ぱっと見」で男性であれば、それだけで弱いとは思われづらい。
もし弱そうに見えたとしても、「嫌悪感」を持たれはするものの「守ろう」とはされにくい。結果として男性は弱者と認めてもらいにくいのである。外から見えにくい男性の弱者性。たとえ弱そうに見えたとしても、無視されてしまうのだ。
鍵となるのは「行政からの支援」
慈善団体に頼ると、どうしても「理想的な被害者」の方が支援されやすくなる。そこで、福祉の出番だ。行政では、2021年4月に「重層的支援体制整備事業」がスタートしている。これは、さまざまな助けを必要とするひとびとがそれぞれの窓口を知らなくても一括で支援を得られるよう、行政が支援するしくみである。
実際、「自分は○○に困っているから支援してほしい」と行政やNPOに助けを求められるのは「かなりわかっている人」だといえる。一般的には、自らの困りごとについて友達や家族に相談する人が多いだろう。つまり、友達・家族がいない人はどこにも相談先がなく路頭に迷ってしまうし、それ以外でも周りに情報を持つ人、理解ある人がいなければやはりどうにもならないのだ。
今後、「重層的支援体制整備事業」がどれほど認知を獲得できるかが、弱者男性支援にはかかっている。
また、われわれが「男性は強いものである」という思い込みを捨て、困っている人を見かけたら手を差し伸べられるよう、理想的な被害者ばかりに目がいく事実も、もっと認知されてよいだろう。
書籍『弱者男性1500万人時代』ではさらに一歩踏み込んで、生きづらさを感じている男性がすぐに支援へリーチできるための施策を提言している。