膝痛とオサラバ!治療最前線(3)我慢するうちにちょっとした痛みでも強い痛みとして捉えるように

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変形性膝関節症は50歳ごろから増え始め、特に女性で多くなる。60代の女性の40%、70代の女性の70%が変形性膝関節症といわれている。

高齢者が多数を占める病気ゆえに「年だから仕方ない」となりがちだが、「年だからこそ、早期から適切な治療」と考えるべきだ。順天堂大学医学部整形外科学講座・石島旨章主任教授が言う。

「膝が痛くなければ、何歳になっても自由に歩けます。しかも速く歩ける。言い換えれば、痛みがあると一日複数回外出していた人が出掛けなくなり、遠くのスーパーまで出掛けていた人が自宅の近所にしか行かなくなる。活動量が減り、筋肉が落ち、歩けなくなる。歩くスピードが同世代で遅い人は寿命が短いという海外の研究報告もあります」

「早期から適切な治療」というのには、ほかにも理由がある。早くから治療を始めれば、治療による身体的・金銭的負担が少なくて済む。手術を受けるにしても選択肢が多い。

「運動器疾患全般に言えることですが、痛みを繰り返していると、痛みの閾値(いきち)が下がります。痛みの感じ方が過敏になり、ちょっとした痛みでも強い痛みと感じるようになるのです」

痛みには、侵害受容性疼痛(とうつう)、神経障害性疼痛、心因性疼痛があり、それらが複雑に絡み合っている。変形性膝関節症の場合、骨棘(こつきょく)が生じ、大きくなっていく過程で半月板が引っ張られ損傷。それによって軟骨へ衝撃がダイレクトに伝わるようになり、軟骨が摩耗。骨同士がぶつかって炎症が生じ、侵害受容器が活性化し、その信号が脊髄を通って脳に送られ、侵害受容性疼痛が引き起こされる。

一方で、何らかの原因で神経が障害され、異常な興奮をすることで生じるのが神経障害性疼痛だ。痛みの繰り返しでうつ状態になり、痛みが増幅する心因性疼痛が生じていることも考えられる。

「MRIの結果では変形がごく軽いのに強い痛みがある人、人工膝関節置換術という手術を受けても痛みが続く人などは、痛みのシステムが変化している可能性もあるのです」

変形性膝関節症の保存治療には、日本では消炎鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬=NSAIDs)がよく用いられるが、神経障害性疼痛には適していない。神経障害性疼痛では過敏となった神経を正常に戻さなければならないので、別の種類の鎮痛剤を用いる。

「痛みそのものが変形性膝関節症を進行させるリスク因子。早い段階で患者さんの状況に応じた鎮痛剤を投与し、痛みを取り去ることは非常に重要なのです」

鎮痛剤に抵抗を示す高齢者もいるが、鎮痛剤はずっと使うものではなく、痛みが鎮まれば速やかにやめられる。(つづく)

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