【生きづらさを乗りこなすヒント】「ドッチデモエー」精神で生きる

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発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。


パニック障害、30年の経験から思うこと

仕事での取材中、ふとしたやりとりがあった。会話自体は大げさなものでなく、時間にして1分ほど。話の流れから、わたしがパニック発作を抑えるための服薬をしている、閉所が苦手で電車が嫌い、飛行機には乗れないといったことを、中医学の医師に打ち明けたときだった。

「飛行機に乗れないのは、大変ね。かわいそうに。でも、語弊があるとよくないし、断定できることではないから、あくまで個人的な考えなんだけど、パニック障害って、普段からしっかり身体をととのえて(養生して)おけば、はたして服薬するほどの病気なのかしら」

14歳の夏から、わたしは、発達障害(ASD)の二次障害として、パニック障害と手をつなぎ、生きてきた。90年代当時は、なんでもかんでも“障害”とは言わず、ただ、パニック症と言った。思えば、最初に発作が起きてから、すでに30年ほどが過ぎている。学生時代の修学旅行には、すでに頓服薬を持って参加。友人らとの旅行が、ただ「楽しい」だけではなく、ピリッと張り詰めていたことも、よく覚えている。

加えて、社会人になってからも、電車に乗ることができなくなり、ドロップアウト……。つまり、わたしの人生は、そこそこ、パニック障害に影響されてきたといえる。予期不安から一歩も自宅から出られない、自宅の中でも、発作が怖くてひとりでいることができない、という時期もあった。その頃は、ストレスで一気に10キロ近く痩せた。つまり、それなりに辛酸を嘗めてきた、というわけである。

(イメージ:写真AC)

「ドッチデモエー」「シャーナイケンケ」の精神

だから、その医師の、ある意味“のほほん”とした見解には、肩透かしを食らった。正直、「あの苦しみは経験したものにしかわからない!」という気持ちも、多少はあった。しかし、不思議なことに、わたしはホッと安心したのだ。そうか、そんなに大げさなことではなかったのか、と。

思えば、かかりつけ医も、いかに発作が辛かったかを伝えても、一般的なカウンセラーのように「そうですか、それはお辛いでしょうに〜」なんて型どおりの共感はしめさない。

「うーん。だからね、死なないから。街を歩いていて、とつぜん目の前にトラが現れることある? ないでしょ。脳が『トラがいるっ!』って誤作動して心臓バクバクしているだけ。もうメカニズムは、知っているよね。だから、パニックが起こりそうだと思ったら、アナウンサーばりに実況してみたらいいよ。それも、くわしく。実況してみることで自分を静観できるし、どういう場面でどういう感覚が起きるのか、よく分析できると思うよ。ま、念のため、いつもの薬は出しておくけれど」

終始、こんな様子。もちろん、患者と医師には“相性”があるから、「そんな、大したことないみたいに、言うな!」と怒る人もいるだろう。しかし、わたし個人のことを言えば、かかりつけ医からこんなふうに、やはり“のほほん”とアドバイスを受けることで、こころが落ち着くのである。なぜなら、不安を増幅させているのは、ほかならぬ「自分自身の考え方(脳の仕業)」だと、あらためて腑に落ちるからだ。

(イメージ:写真AC)

話は、冒頭の取材先に戻る。帰路は、ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だった。場所は人の多い銀座だったから、まずはカバンに隠し持っていたサングラスを装着。そして、苦手な電車、しかもラッシュ時の電車でパニック発作が起こらぬよう、いつもより多めの抗不安薬を噛み砕き、日比谷線にゆられたわたしは、ふと、美術家・横尾忠則のことばを思い出した。

**「関西人の『ドッチデモエー』という受け身の生き方がぼくは好きだ。

『シャーナイヤンケ』」

「自分の中にトラウマみたいに巣食っている『常識』という名の恐れに 愛想をつかせばいいのである。」

「生きにくくしているのは全て自分に固執しているからだ。
固執するほど大した自分かどうか考えてみよう。
自分ってあってないようなものだと思えると、随分生き易くなるだろうね。」
(『アホになる修行 横尾忠則言葉集』イーストプレス刊より引用)**

もしかすると、わたしは「自分はパニック障害で辛い!」という「常識」を、みずから作り出して「生きにくく」しているのかもしれない。よしんば、パニック障害だとしても……。

「ドッチデモエー」

わたしは、小さくつぶやいた。いつか、自分に愛想をつかす日だって、くるかもしれない。

アホになる修行 横尾忠則言葉集』(イースト・プレス刊)
著:横尾忠則

*次回は5月30日更新予定です。

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著:国実マヤコ 監修:西脇俊二

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