学校いじめ被害も「重大事態」認定までの“遠い道のり” 「第三者委員会」の役割とは?

暴言や暴行被害でも、学校「重大事態に当たらない」判断も…(Peak River / PIXTA)

学校でいじめが発生すると、被害者が自殺したり、精神疾患を発症したり、怪我を負うことがある。あるいは不登校になり、学校へ通えない期間が出てくる。こうした場合、いじめ防止対策推進法によって「重大事態」とされ、学校や学校の設置者(公立の場合は教育委員会、私立の場合は理事会、以下、学校等)はいじめを調査する「第三者委員会」などの調査組織を立ち上げることになる。

しかし、実際にはこの「第三者委員会」がなかなか立ち上がらないのが現状だ。

なぜ、いじめ問題で「第三者委員会」が発足されるのが難しいのか。つい最近「第三者委員会」が立ち上がった、さいたま市に住むいじめ被害者Aさんのケースを通じて考えてみたい。

「いじめ」「重大事態」とは?

まずはいじめ問題をめぐる法律を説明する。

2013年6月、「いじめ防止対策推進法(以下、いじめ防対法)」が成立した。きっかけは11年10月に滋賀県大津市で起きたいじめ自殺事件だった。

「いじめ防対法」では、いじめを「学校に在籍している児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)で、行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と法的に定義している。

さらに、いじめによる「重大事態」という考え方も示されている。文科省は、重大事態に認定された場合、「調査委員会」等と呼ばれる公平・中立な調査組織を設けることとしている。これは「第三者委員会」と呼ばれることもあるが、後述する通り必ずしも「第三者」とは限らない。

重大事態と見なされるのは、被害者が「生命、心身または財産に重大な被害」を受けた場合。つまり、自殺や自殺未遂、けが、精神疾患の発症、金品等のはく奪などの被害があったケースだ。また「相当の期間学校を欠席」した場合、すなわち被害者が不登校になったケースでも重大事態と認定される。

こうして法的に「いじめ」や「重大事態」は定義されたが、実際に「いじめ」があったかどうか、あったとしてそれが「重大事態」なのかを決めるのは学校等である。

暴言・暴力も「いじめ」認められず…

さいたま市に住む現在小学6年生のAさんは、4年生の2学期、学校に行けなくなった。

Aさんの母親によると、進級した4月からクラスメートに「死ね」「殺すぞ」「くたばれ」などの暴言を言われたり、殴られたりしたという。

母親は連絡帳でも「クラスの子からおなかにパンチされたと帰ってきました」などと担任に伝え、学校に対して「いじめの重大事態に相当すると思われるため、第三者の方に調査していただきたい」と申し入れた。しかし、学校は当初いじめすら認めようとしなかった。

「いじめが始まった4月から学校に相談に行っていましたが、加害児童の暴力や暴言がやむことはありませんでした。子どもには『何かあったら先生に言いなさい』と教えていましたが、子どもが『死ね』と言われたことを担任に伝えると、担任は『死んでないから良いじゃないですか?』と言ったというのです。今、担任はその発言を否定し、言った・言わないという水掛け論になっています」(母親、以下同)

6月にAさんがトイレに閉じ込められたことなどを受けて、学校はようやくいじめを認定。その一方、「(被害者が提出した左顔面打撲や適応障害の)診断書に法的根拠がない」「いじめと欠席日数(不登校)は関係ない」などとして、「重大事態に当たらない」と判断した。

「そもそも学校が6月にいじめを認知したのを私たちが知ったのは10月末になってからです。なぜ6月の時点で伝えなかったのかを聞くと、『「いじめ」という言葉は使わずに伝えていた』というのです。意図がわかりません。結局、学校がいじめを認知した後も、暴言・暴力はやまず、Aは2学期の途中から学校へ行けなくなりました」

立ち上がらない「第三者委員会」

いじめ防対法では、「重大事態」ではなくともいじめが発生した場合、学校が自ら調査を行うことが義務付けられているため、Aさんの学校側は独自調査のみを実施。翌年2月に報告書を作成した。

本来はいじめの責任を問われる学校側が、「重大事態」かどうかを決められる仕組みにAさんの母親は憤る。

「12月に校長は『今回のいじめは重大事態と同様として捉えている』と伝えてきました。にもかかわらず、重大事態としての(第三者による)調査はされなかったのです。

Aは全部で30〜40件ほどの暴力や暴言の被害を受け、授業中に殴られた際には警察に被害届を提出し、傷害で受理されました。実況見分のために警察が学校にきたこともあったのに、報告書には軽微ないじめ行為6件ほどしか書かれておらず過小報告されています。

加害児童に殴られ、箒(ほうき)の持ち手の部分が顔にあたり怪我をしましたが、報告書では『振り上げた小さい箒の先が当該児童の顔に軽く当たってしまった』と書かれています。やり返してもないのに、Aが『挑発した』とも書かれていたりして、まったく公平な調査ではないと思います」

第三者委員会が立ち上がっても課題山積

Aさんの母親らは、第三者による調査を求め市教育委員会と協議。昨年8月、市教委が調査に着手し、10月に「重大事態」と認定された。いじめの発生や相談から、市教委が重大事態として認めるまで実に1年半ほどかかったことになる。

さらに調査委員会(第三者委員会)が設置されるのはこれからだ。

ちなみに、第三者委員会の調査に関して、法律には詳細な定めがない。文科省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(2017年3月)では、調査組織は「当該事案の関係者と直接の人間関係または特別な利害関係を有しない者(第三者)」によって構成することとしているが、第三者のみで構成するか、第三者を加えた体制にするかは、学校等の判断に任される。

「いじめに関しては教育委員会も調査される対象だと思うんですが、私たちのケースでは教育委員会主体の第三者委員会になっています。被害者側からも委員の職能団体と人数を要望できるというので要望を出したのですが、他県の弁護士は難しいと言われました。NPO法人も中立ではないからダメだと言われたのですが、『他県では入っている』と伝えるとNPO法人で探しても良いことになりました」

ちなみに一般的に、第三者委員会が立ち上がってから報告書が出るまでには、最低でも1年がかかると言われている。「報告書が出るのは、Aが小学校を卒業してからになりそうです」。

いじめ発生時から本人や親が声をあげ続けても、いじめに対する学校等のスピード感はこの程度なのが実態だ。その間、被害者の苦悩は続く。

Aさんは現在、加害児童とは別のクラスになり、いじめは受けていないが、日常的に加害児童を避けて生活し、いじめによる後遺症に苦しんでいるという。

いじめが発生した直後に、公平・中立な第三者による調査がすみやかに行われ、被害児童と加害児童に対しそれぞれ適切な処置がとられていれば、とっくにこの問題は片付いていたのではないだろうか。

いじめによって傷ついた被害児童の心を、さらに傷つけることのないよう、いじめの発生を認知した学校等には迅速な対応を求めたい。

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