「軌道に乗ったら払うから」と言い張る「50歳自営業の夫」…年金事務所から「赤い封筒」が届き、妻の動悸が止まらない【社労士の助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

調理の専門学校に勤務するBさん(50歳)は、非常勤講師をしていたAさん(50歳)と10年ほど前に結婚。夫のAさんは飲食店を開きますが、コロナの影響もありお店の経営は火の車。国民年金保険料も滞納が続き、ついに「赤い封筒」が届くように。老後のことを考えるとBさんは不安で仕方ありません。国民年金保険料滞納のリスクとBさん夫妻がとるべき行動について、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・角村俊一氏が解説します。

夫の夢に翻弄される妻

調理の専門学校に勤務するBさん(50歳)は、非常勤講師をしていたAさん(50歳)と10年ほど前に結婚。夫であるAさんは昔から自分のお店を持つことが夢で、数年前に専門学校を辞めて小さな飲食店を開きました。

しかし、コロナの影響もありお店を何とか運営していくことで精いっぱい。自分のお給料はほとんど出せません。国民年金の保険料も滞納が続いていて、ついに赤い色の封筒が届きました。

Bさんは年金事務所からの封筒を目にするたびにドキドキしてしまって、「私が代わりに払おうか?」と聞いてみるのですが、Aさんは「お店が軌道に乗ったら払うから」の一点張りです。

Aさんには財産と呼べるようなものはなく、自宅であるマンションはBさんの名義。車の名義もBさんです。このまま滞納が続くとこれらを差押さえられてしまうのではないかとBさんは心配しています。

老後のことを考えると不安で仕方ありません……。

保険料の納付義務を負う者は?

国民年金の被保険者は3種類。個人事業主であるAさんは国民年金の第1号被保険者となります。

給与からの天引きで会社が保険料を納めてくれる第2号被保険者とは違い、第1号被保険者は毎月の保険料を翌月末日までに自分で納めなければなりません。

令和6年度の保険料額は1か月あたり16,980円。決して安い金額ではなく、負担に感じる方もいることでしょう。

この保険料は被保険者本人が納めなければならないことは当然ですが、法律上、配偶者にも納付義務が課せられています。

(保険料の納付義務)
国民年金法第88条 被保険者は、保険料を納付しなければならない。

2 世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う。

3 配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う。

つまり、AさんもBさんも国民年金の保険料納付義務者なのです。

差押さえまでの流れは?

納付期限までに保険料が納付されない場合、まずは日本年金機構の職員や、電話や文書による納付の案内を委託された民間事業者から納付勧奨があります。その後、繰り返し納付勧奨しても保険料が納付されない場合には赤色の封筒で「特別催告状」が届き、それでも納付されないと「最終催告状」が届きます。

そして、「最終催告状」に記載された指定期限までに保険料が納付されないと「督促状」が送られてきます。それでもなお、「督促状」で指定された期限までに未納の保険料が納付されない場合には「差押予告通知書」が届き、財産の差押えが行われます。

日本年金機構のサイトに、「被保険者に連帯納付義務者(世帯主および配偶者)がいる場合、連帯納付義務者に対しても財産の差押えを行います」とある通り、Bさんの財産も差押さえの対象となります。

同機構によると、国民年金保険料強制徴収の実施状況は以下の通りです。

【国民年金保険料強制徴収の実施状況】令和5年度(令和5年9月末時点)

なお、「日本年金機構 令和6年度計画」には、「強制徴収の着実な実施」として次のように記載されています。

保険料免除制度の利用を検討したが…

国民年金には保険料免除制度が設けられています。被保険者が経済的な理由により保険料を納めることができない場合、申請することで保険料の支払いが免除されるものです。免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1の4種類です。

ただし、免除制度を利用するには本人、配偶者および世帯主それぞれの前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定の金額以下である必要があります。

Bさんが所得を確認してみたところ、残念ながら免除制度を利用することはできませんでした。

このままではAさんの未納状態が続いてしまいます。差押えも心配ですが、老後は夫婦の年金で生活していくわけですから、Aさんの年金額が少なくなることも不安です。また、未納があると何か障害を負った場合でも、障害年金を受給できない可能性があることも知りました。

あまりにも大きい保険料未納のリスク。BさんはAさんの保険料未納分をすべて払うとともに、Aさんのお店が軌道に乗るまでは自分が保険料を負担しようと決めたのでした。

角村 俊一
角村FP社労士事務所代表
特定社会保険労務士/CFP

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