【黒部峡谷トロッコ電車』】新緑のトンネルを潜り抜ける快感は「この時期だけ」の特別空間

トロッコ電車沿線の見どころのひとつ「新山彦橋」。新緑の森と朱色の橋のコントラストが美しい

標高3,000m級の峰がいくつも連なる北アルプス。その中央部にある鷲羽岳を源とし、日本最大規模の黒部ダムを経て、富山湾まで続く急流が黒部川だ。川沿いにはV字に削られた黒部峡谷が続き、その険しい峡谷を縫うように走っているのが黒部峡谷トロッコ電車。

通常冬季は運行しておらず、2024年は4月19日から運行がスタート。荒々しい峡谷やエメラルドグリーンの湖、秘境を思わせる大自然など、沿線には見どころがいっぱいだ。

■2024年の全線開通は、秋を予定

黒部峡谷トロッコ電車は、宇奈月駅~欅平駅までの20.1kmを結んでいる。しかし、1月の能登半島地震の影響で走行ルートの一部に被害が出ており、今後の運行は、4月25日~9月30日頃までは猫又駅までとなる。10月1日頃から全線開通を予定している。

トロッコ電車の客車は2タイプ。「普通客車」は窓のないオープンタイプで、峡谷を抜ける風や川音など自然を身近に感じながら景観を楽しむならこちらがおすすめ。峡谷は夏でも空気がひんやりしている日もあるので上着などの防寒着があると安心だろう。

もうひとつの車両は、開閉式の窓が付いた「リラックス客車」。座席が転換でき、時刻によって乗降口を拡大したバリアフリータイプの客車も運行。こちらの客車は運賃とは別に「リラックス車両券(600円)」が必要となる。

■沿線に架かる橋は、見どころ満載

沿線にはいくつも橋があり、景観美がよいところやスリリングな気分を味わえるなど、それぞれに魅力がある。そのひとつが宇奈月駅から出発してすぐに通る「新山彦橋」だ。橋の長さは166mと沿線に架かる橋で最も長い。

始発駅周辺にある宇奈月温泉から歩いて行ける場所に「山彦橋」があるが、トロッコ電車はもともとはこちらの橋を通っていた。新しく架け替えたのが現在、電車が通っている「新山彦橋」。「山彦橋」のほうは歩いて渡れるようになっており、トロッコ電車が走る新山彦橋も一望できるフォトスポットとして人気を集めている。

■うなづき湖のほとりに古城が建つ!?

宇奈月駅を出発して間もなく宇奈月ダムがある。その先には巨大なダム湖のうなづき湖が広がっている。エメラルドグリーンの湖には赤い湖面橋が架かり、橋の姿が湖面に映る。とりわけ晩春から初夏にかけての山の緑が映える時期は、橋の赤さがくっきりと浮かび上がって見ごたえがある。

トロッコ電車が通る右岸側には「新柳河原発電所」がある。まるで湖面に浮かぶヨーロッパの古城を彷彿させる雰囲気で、建物のすぐ横をトロッコ電車が通り抜けていく。

また、黒薙駅を過ぎて少し先にある「後曳橋(あとびきばし)」は、沿線で最も深く険しい谷に架かる橋だ。高さが60mもあり、峡谷の下をのぞき込むとお尻がムズムズするほどスリリング。切れ落ちた黒部峡谷の深さやその険峻さを実感できるポイントといえるだろう。

■黒薙温泉に立ち寄りもおすすめ

無色透明の黒薙温泉。お肌がつるつるになるという

黒薙駅には周辺に遊歩道が整備されており、この駅で下車して絶景を見ながら散策するのも楽しい。駅を出て少し階段を上がると、黒薙川に沿って遊歩道が延びている。このあたりで周囲を見渡すとクラシカルな橋が見えるだろう。これは発電所に水を送る水路橋だ(※歩いて渡ることはできません)。

さらに道を進むと「後曳橋」が見えるポイントに。電車に乗っているときとは違った視点で橋の様子を楽しめるフォトスポットだ。

遊歩道を奥まで進むと、宇奈月温泉の源泉でもある黒薙温泉に着く。ここは峡谷最古の温泉宿。約28畳の広さがある大露天風呂を完備し、日帰り入浴も受け付けている。もちろんこの宿に泊まるというのもありだ。

黒薙温泉旅館は駅から20分ほどの距離。トロッコ電車でしか行けない宿だ

■宇奈月温泉で観光も

富山県の代表的な温泉地として知られる宇奈月温泉

トロッコ電車の始発駅である宇奈月駅には、宇奈月温泉の温泉街が広がっている。富山県の代表的な温泉地であり、美肌の湯として知られている。黒薙温泉を源泉とし、古くは木管をパイプ代わりにして黒部峡谷の断崖を縫って引湯されていたという。

駅を中心に飲食店やおみやげ屋が集まり、「湯めどころ宇奈月」などの日帰り温泉施設もある。また、2023年にリニューアルオープンした「黒部川電気記念館」は無料で見学可能。黒部峡谷の自然や電源開発の歴史、水力発電のしくみなどをジオラマシアターで楽しみながら知ることができる。

温泉街には旅館や民宿などさまざまな宿泊施設があり、各部屋に露天風呂を完備していたり、上質なお酒を豊富に取り揃えていたり、宿から駅が見えるなど、宿ごとのおもてなしがある。また、山や川だけでなく海も近いこのエリアは、毎朝漁港から仕入れた新鮮魚介が味わえるというから食事の充実度も期待大だ。

トロッコ電車を眺めながら見ながらのんびりくつろげる足湯などもある

■黒部峡谷トロッコ電車へのアクセスをおさらい

宇奈月温泉には宇奈月温泉駅と宇奈月駅の2つの駅があり、後者がトロッコ電車の乗車駅

黒部峡谷トロッコ電車の始発駅は宇奈月駅。そこに行くまでのアクセス方法をちょっとここで整理しておきたい。電車利用の場合、このエリアは「宇奈月」や「黒部」とついた駅が多く、ややこしいからだ。

新幹線利用なら、まずJR北陸新幹線の『はくたか』に乗車して「黒部宇奈月温泉」で下車。そこから私鉄の富山地方鉄道「新黒部駅」で乗り換え、終点の「宇奈月温泉駅」まで向かう。駅を出て5分ほど歩くと、黒部峡谷トロッコ電車の始発駅「宇奈月駅」に到着だ。

宇奈月駅から終点の欅平駅をトロッコ電車で往復すると、所要時間は3時間ほど。ただし、10月頃の全線開通予定を待つ現在は、猫又駅までの往復となる。その場合は往復の所要時間が1時間40分ほどになり、欅平駅を往復するより運賃も安い。

そう考えると、より手軽にトロッコ電車を利用できるうえ、宇奈月駅に戻ってきてから温泉街を楽しむ時間がたっぷりとれるといえるだろう。初夏へと向かうこれからの時期は、山々の新緑が鮮やかになっていく。赤い橋やエメラルドグリーンの湖などがより映えて、トロッコ電車からの眺めが格別なものになるだろう。

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