「非常事態だから、介護が始まるときは」 家族の介護に悩む人の心の拠り所となるカフェ

テレビ愛知

高齢化が進み、家族の介護に関わる可能性が高まっています。高齢の母と2人で暮らす男性を取材。その心を支えてくれる場所がありました。

仕事を辞め、介護に専念

英子さんのためにご飯をつくる平木さん

名古屋市北区に住む平木敬二さん。自宅で、91歳の母親、英子さんの介護をしています。8年ほど前から始まった介護生活。平木さんは、介護に専念するために仕事を辞めました。

毎朝、母親の着替えを済ませたら、朝ご飯づくり。

平木敬二さん:
「一番食べてくれるものを選んで。酢の物好きだから…。ご飯食べるぞ。モズク、置いとくよ」

母・英子さん:
「あー、そんなもの食べれん。もっていけ向こうへ。もうええ。こんなところ置いとってもいかんで」

平木さん:
「食べてちょうだいよ? もう食べてくれんってことだな」

自分の食事は後回し、介護優先の生活

母・英子さん

平木さんは「(自分が)ご飯を食べていたら(介護は)できない。みんなそうでしょ」と話します。その後、母からの呼び出しでトイレの介助へ。あっという間に、母親をデイサービスに送る時間になりました。

自分を育ててきてくれた、優しい母親。しかし、介護生活では息子である自分にだけ強くあたるといいます。

親には言えない、介護のつらさ

平木さん:
「自分が後悔しないように一生懸命やっています。本当につらいことがあっても、親の前ではこういうふうになれないもんだから。どんどん変わっていく親を受け入れていけないけど、心の準備ができていない」

てとりんハウス

介護に追われる平木さんですが、じつはもう1つの居場所がありました。春日井市にあるカフェ「てとりんハウス」。家族の介護をする人たちの相談を受け付けているカフェです。

介護が始まるときは非常事態

てとりんハウス代表の岩月万季代さん

代表を務めるのは、元看護士の岩月万季代さん。岩月さんも母親の介護を経験した、介護者の1人です。母親の入浴や食事など身の回りの世話をする中、「死にたい」と話す姿を目の当たりにして、心がつらくなったといいます。そんな介護でのつらい思いや弱音を吐き出せる場所をつくろうと、10年前にてとりんハウスを開きました。

ほかの介護者の声を聞いて、情報を得ることが大事と話す

岩月万季代さん:
「介護が始まるときは非常事態。相談に来て、ほかの介護者の声を聞く。そういったことが、気楽に自分の手の届くところで情報が得られるのが大事です」

感情を素直に話し合える「介護者のつどい」

介護者のつどい

この日、店内にいたのは全員介護者です。介護の悩みやつらさを打ち明けあう、「介護者のつどい」。ただ、共有するのはつらい経験だけではありません。

女性:「夫が5年前にアルツハイマー。私の名前も忘れている。この先どうなるのか」

男性:「介護は苦しいばっかりじゃなく、夫婦愛で順調だと言いたい」

男性:「要介護者がおだやかになると、すごく満足感があります。だから介護をやれる」

介護の大変さを打ち明ける

参加者の中には、平木さんの姿もありました。

平木さん:
「怒らせるとだめ、と分かっていても私が焦る」

男性:
「怒ったらだめですよ。カーッとどっちもなるけど」

女性:
「すぐには分からない」

岩月さん:
「絵にかいた餅のようにはいかないよね」

この日、「介護者のつどい」は2時間以上続きました。

平木さん:
「感情をお互いにぶつけ合うことができる場所はほかにありません。親のことだけを聞くだけじゃない会。ここは素晴らしいね。私たちにとってかけがえのない場所です」

てとりんハウスでフラワーアレンジメント教室を開催

フラワーアレンジメントを楽しむ英子さん

てとりんハウスでは、このほかにも介護者を支えるイベントが開かれています。平木さんは母親の英子さんと一緒に来店しました。

英子さん:
「ブルースカイ? これは見える方がいいかな?」

カフェで開かれていたのはフラワーアレンジメントの教室。平木さんも英子さんも気分転換です。

英子さん:
「できた~」

平木さん:
「なかなか良いね」

てとりんハウスは介護者が社会の中に入っていける、意義のある場所

平木さん:
「自分から楽しめるものは良いみたい。うちに帰っても口ずさんでいます。下手だけど」

岩月さん:
「(家に)こもっていて2人きりだと、『この生活いつまで続くんだろう』と、それだけを考えてしまう。介護者が社会の中に入っていく。そういった時間として、(この場所は)意義があると思っています」

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