社説:「育成就労」法案 看板かけ替えなのでは

 これでは看板のかけ替えに終わりかねない。国内に受け入れる外国人労働者の権利と環境を守る制度の刷新こそ必要だ。

 技能実習制度に代わる新しい在留資格「育成就労」の創設を柱とする入管難民法改正案などの実質審議が、衆院で始まった。

 目的には「外国人材の育成・確保」を明記した。熟練者の「特定技能」移行を視野に、労働者として安心して長期間働ける仕組みを目指すと政府はいう。成立すれば2027年度にも施行される。

 しかし、法案には外国人との共生を進める上で懸念が多い。

 育成就労では、同じ業務分野で職場を変える「転籍」を認める。技能実習では、劣悪な労働環境や賃金未払いがあっても職場を変えられず、失踪者が続出。人権侵害の温床との批判があったからだ。

 ただ、転籍できるのは就労開始から1~2年後に制限された。有識者会議の見直し案は1年後としていたが、地方から賃金の高い都市部へ人材が流出するとの懸念が自民党から出され、後退した。

 また、転籍先には転籍前の企業などが払った費用の分担を求め、転籍条件の日本語能力は、同会議案より高い設定に変更された。

 事実上、転籍は相当難しくなり、労働者としての権利を縛るものではないか。

 各地で不正が相次ぎ、実習生保護の存在意義が問われた監理団体も、「監理支援機関」として存続させる。外部監査人の設置を義務づけて中立性向上を図るというが、受け入れ企業の利害を優先させる体質が改まるのか実効性が問われる。

 外国人労働者を支援する弁護士グループは「技能実習制度を実質的に存続させる」と法案に反対を表明。野党からも「問題を本質的に解決できるか大いに疑問」との声が上がる。

 法案には、特定技能で道が開けた永住権を巡り、有識者会議で議論されていない「永住許可の適正化」も追加された。税金や社会保険料を故意に滞納した場合、在留資格を取り消すというが、「立場が不安定になり、安心して暮らせない」との批判がある。

 人材不足が深刻化する中、韓国や台湾などは外国人労働者の雇用環境を充実させている。円安の進行もあり、働き先として日本に向かう意識は外国人の間で急速にしぼんでいるとされる。

 日本が「選ばれる国」になるためには政府案は不十分だ。国会審議を通じて軌道修正を求めたい。

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