本塁打急増、近藤健介は何が変わった? コンタクト率低下も…異質の「11」

ソフトバンク・近藤健介【写真:荒川祐史】

ソフトバンク移籍1年目の昨季、本塁打王&打点王の2冠、打率はリーグ2位

巧みなバットコントロールと抜群の選球眼を兼ね備えた近藤健介外野手。2022年オフにFA権を行使しソフトバンクへ活躍の場を移すと、移籍1年目はリーグ2位の打率.303をマークしただけでなく、本塁打王と打点王の2冠に輝いた。これまでは2021年に記録した11本塁打が自己最多だったため、近藤がホームランキングとなる姿を想像できたファンは少なかっただろう。移籍でどのような変化が起こっていたのかを探っていきたい。(数字はすべて4月14日終了時点)

近藤といえば、3割を超える通算打率が示すように卓越したミート力の持ち主である。コンタクト率は例年リーグ内でも上位の80%後半を記録していたが、昨季は前年から8ポイントも低下する大きな変化があった。依然としてコンタクト率はリーグ平均より優れてはいるものの、空振りの増加とともに三振の割合も上昇していた。これらのデータを見るに、コンタクトヒッターから長打を狙う打撃スタイルへの変更を図っていたことが推測される。

スイングの傾向が前年から変わった近藤だが、近年は打球の質にも変化が起きていた。年々ゴロが減少してフライが増加しており、19年には32.9%だったフライ割合が昨季は53.0%を記録。この5年間でフライ割合は20ポイント近くも上昇しており、バットのスイング軌道が年々アッパースイングになっていることが推測される。ホームランや外野手の頭を越えるような長打を増やすためには打球の角度が求められるが、その下地は移籍以前から整いつつあった。そこに強振する打撃アプローチが組み合わさったことで、昨季は長打力が劇的に向上したようだ。

こうした打撃スタイルの改造によって、近藤は本塁打を大幅に増やすことに成功した。26本塁打の内訳を見てみると、11本がレフト方向となっており、逆方向へのアーチが最多となった。昨季パ・リーグの打者が放った607本塁打のうち逆方向の割合は9.7%だったため、近藤の本塁打方向がいかに異質であるかが分かるだろう。フライ打球は年々増加の傾向を見せていたが、昨季は特にレフト方向への打球の75%がフライとなっており、逆方向に角度をつけた打球を飛ばす技術に磨きがかかったようだ。

今季は流し打ち減少…さらなる打撃スタイルの改良を模索か

逆方向へ11本塁打は、2位以下を大きく引き離し、堂々のリーグトップを記録した。これまでのアベレージヒッターのイメージから一変し、流し打ちでも引っ張った時と遜色ない打球を飛ばすスラッガーへと見事に変貌を遂げている。長打力を増した打撃スタイルへと変化しながらも、高打率をキープするところは近藤の真骨頂であり、対戦する投手にとって脅威でしかないだろう。

そして迎えた今季、近藤は開幕から14試合を終えて打率.340、2本塁打と好調なスタートを切った。ただ、その打撃スタイルは昨季から変化の兆候を見せている。昨季は逆方向への長打力を強みとしていたが、今季は流し打ちが減少して引っ張った打球が増加。この傾向はオープン戦から確認でき、さらなる打撃スタイルの改良を模索しているようだ。

実は、昨季逆方向に放った11本塁打のうち、本拠地のPayPayドームで放った5本はすべてホームランテラスへの着弾で、ZOZOマリンでの2本もホームランラグーンへの着弾と、逆方向弾はラッキーゾーンに集中していた。地の利を生かした打撃ではあるものの、逆方向への打球は飛距離が突出していた訳ではなかったのだ。そのため、昨季以上の長打力を求め、飛距離が伸びやすい引っ張った打球を増やすスタイルへの変化を図っているのかもしれない。今季はここまでレフト方向へのアーチがない。今後もこの傾向が続くのかどうか、打球方向の推移は注目したい。

昨季は2冠に輝いたものの、打率は首位打者の頓宮裕真捕手(オリックス)にわずかに及ばず、惜しくも3冠王とはならなかった。開幕から各チームとの対戦カードのひと回りを終えた時点では、打撃3部門でいずれもリーグ5位以内と好位置につけており、今季も打撃タイトル争いの最右翼といっていいだろう。高い打撃技術を誇りながらも、変化を恐れずに進化を続けるヒットメーカーが、パ・リーグでは2004年の松中信彦氏(当時ダイエー)以来となる偉業達成へ挑む。(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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