「ノモの活躍がアメリカの日本野球観を間違いなく変えた」――アメリカ野球殿堂館長が語る日米野球交流展への抱負【前編】<SLUGGER>

来年7月、ニューヨーク州クーパーズタウンのアメリカ野球殿堂で、日米の野球交流史に焦点を当てた企画展『野球とベースボール:太平洋を越えた日米の野球交流』が開催される。18日、ラーム・エマニュエル駐日アメリカ大使の公邸で行われた会見にも同席した、アメリカ野球殿堂館長を務めるジョシュ・ラウィッチ氏がインタビューに応じてくれた。

――アメリカ野球殿堂が1つの国をテーマにした特集展示は今回の日本が初めてとのことです。改めて、日本を選んだ理由について教えてください。

ジョシュ・ラウィッチ(JR) 日本の選手やチームがベースボールに与えた影響は非常に重要だと私は考えています。ですから、150年以上にも及ぶ日本とアメリカの野球交流に焦点を当て、その素晴らしいストーリーを語るというアイデアは当然のものでした。両国を行き来し、交流を重ねてきたのは何もメジャーリーガーだけではありません。大学生、少年野球の選手たちもお互いに影響を与え合ってきました。その素晴らしいストーリーを私たちの博物館で語りかけたいのです。

――昨年のWBCで日本が優勝したことや大谷翔平(ドジャース)選手の活躍、そして来年、イチローが殿堂入りする可能性が極めて高いことなどが今回の決定につながった部分もありますか?

JR もちろんそれはあると思います。その3点はいずれも非常に重要な出来事です。日本はWBCでこれまで何度も実力を証明してきました。イチロー・スズキは野球界では世界規模の大スターであり、そしてもちろん、大谷翔平はイチローからバトンを引き継ぎ、二刀流選手としてこれまで誰も到達しえなかった高みに達しました。ただ、どれか一つか決定的な影響を与えたということはありません。日本に野球が紹介されてからの長い歴史も含め、さまざまな要素が組み合わさって今回の展示決定に至ったのです。

――今回のプロジェクトにあたって、日本の野球殿堂とはどのような連携を行っているのでしょうか?

JR 日本の野球殿堂はこれまでも私たちの素晴らしいパートナーでしたが、今回の展示についても全面的に協力してくれました。私たちのために日本野球という世界のドアを開いてくれたのです。私たちは2人のキュレーターと2人のコンサルタントを日本に派遣し、日本の野球殿堂のキュレーターと何度も話し合いを重ねてきました。 日本の殿堂のスタッフは、日本の野球の歴史について改めて私たちに教えてくれただけでなく、日米の交流にまつわる展示品も紹介してくれました。また、今回の展示に役に立ちそうな資料なども見せてくれました。感謝してもしきれないほどです。

――あなたは1995年にドジャースのインターンとしてキャリアをスタートさせました。"ノモマニア"を目の当たりにしたことは、今回のプロジェクトに何か影響を与えていると思いますか?

JR 1995年にロサンゼルスにいた人間なら誰でも“ノモマニア”に衝撃を受けたはずです。野茂が登板するたびに、何千人もの日本のファンがドジャー・スタジアムにつめかけ、投球ごとにフラッシュカメラで撮影していました。日本からの旅行者をドジャー・スタジアムに案内することだけを職務にしていた球団職員がいたほどです。こんなことは他のチームは経験したことはないでしょう。

私は日本の野球ファンが情熱的であることを理解し、アメリカの野球を日本のファンに紹介する現場に立ち会ったことになります。そのことをとても幸運だと思います。今年の春、パドレスのキャンプ地で野茂さんに会いました。今回の展示のことを話したら、とても喜んでくれていましたよ。あれからもう30年近く経っているので、その時の経験が今回の展示に影響したかどうかは何とも言えませんが、今となっては日本のファンにとって野球がどれだけ重要なスポーツなのか、多くのアメリカ人が理解していると思います。

――野茂がメジャーデビューを果たすまで、アメリカの一般的なファンは日本野球についてほとんど知識がなかったと思うのですが?

JR サンフランシスコでは、村上雅則さんのことや彼の偉業を知っている人はある程度いたでしょう。私自身、子供の頃、村上さんの名前は聞いたことはありました。ただ、日本野球の歴史などについてはよく知りませんでした。そこへ野茂さんが来て、日本の選手がメジャーリーグで成功できることを証明してみせたのです。オールスターの先発投手を務め、新人王を受賞し、クアーズ・フィールドでノーヒッターを達成するという、今に至るまで他に誰もやったことのない偉業を成し遂げました。それによって、間違いなくアメリカ人の日本野球に対する見方は変わったでしょう。その後、イチローや松井秀喜など多くの日本人選手が世界最高の舞台で活躍を続けているのです。
【後編へ続く】

構成●SLUGGER編集部

© 日本スポーツ企画出版社