「ユニコーンがデビューしたときはレコードしかなかった」ユニコーン・川西幸一×直木賞作家・今村翔吾×ミステリー作家・今村昌弘のトークバトル【THE CHANGE特別鼎談】

川西幸一・今村昌弘・今村翔吾 

人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞し、コメンテーター、書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。毎年恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第5回/全8回】

※TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで2024年2月10日(土)に開催の「Artistと本vol.3」より

今村翔吾(以下翔吾)「出版業界の悪いところだと思うんだけど、一度本が売れると、どどっと仕事が来る。作家側は出版社との付き合い方を知らないんで、断ったらもう仕事が来ないんじゃないかと思うわけです。なので、僕は最初に15社くらいから仕事が来て、全部受けちゃったんですよ。そうなると大変で、デビュー1年目に受けた仕事がまだ終わっていないんです。昌弘さんはそういうのない?」

今村昌弘(以下昌弘)「僕は出版社の人とは会わないようにしてます(笑)。会って、一緒にごはん食べたら書かなきゃいけなくなるでしょ」

翔吾「だから、ウチの会社は取締役会で『今村先生から仕事を受ける権利を剥奪します』ということになりました。僕は人に会ったら情にほだされて仕事を受けてしまうから、最近は『僕には仕事を決める権利はないんで』って言うようにしてます」

昌弘「珍しい権利の取り上げ方ですね(笑)。出版業界は出版点数は増えてるけど、売り上げは落ちているという現状があったりします。音楽業界もサブスクが登場したりして、いろいろと変わってきていますよね」

川西幸一(以下川西)「考えてみると、僕らがユニコーンでデビューしたときって、CDがまだなくて、レコードだけだったんだよ。『BOOM』っていうアルバムね。2枚目の『PANICK ATTACK』で“どうもCDで出るらしい”“いやいや、もう少し先の話なんじゃないの”なんて言ってたのに、一気に変わったもん。そうやってどんどん変革していって、今は配信がメインだったりする。レコード会社で働く人も少なくなってきていて、営業の部署がなくなったりしているんだよね。CDが昔みたいに枚数が売れないし、そういう意味では、出版業界より音楽業界のほうが変化が大きいと思うよ」

音楽業界と出版業界、それぞれのデジタル事情

翔吾「出版業界でいうと、電子書籍の伸びが去年で頭打ちになったんですよ。ただ、オーディオブックが結構売れてる。売り上げ、ばかにならんよなあ、あれ?」

昌弘「そうです、そうです」

翔吾「オーディオブックは、ある程度売れてる本じゃないと作ってもらえないっていうのがあるんだけどね。ただ……内訳的には多い。あれ、1冊4000円くらいするんですよ。その値段でも買う人がいるっていうのがスゴい」

昌弘「オーディオブックのサブスクもありますし、聴き放題で楽しまれている方が結構多いみたい。でも、歴史小説なら耳で聴いてある程度わかるじゃないですか。推理小説って、見取り図がないのに、朗読だけでわかるのかなっていうのは思うんですけど」

翔吾「ゴーグルみたいなのを掛けると、歩いていったら目の前で事件が起こって、キャー! みたいなのがあればいいのにね(笑)。そしたら、歴史小説でも、侍が襲ってきて戦うとかできそう」

昌弘「音楽でサブスクが浸透すると、若い人が思いがけずに昔の曲を聴いてくれた、みたいなことがありそうですよね」

川西「今は検索すればいくらでも曲が出てくるからね。でもね……僕は本はやっぱり紙で読みたい派なんだよね。もちろん電子書籍でサクッと読みたいっていうときもあるんだろうけど。昌弘さんの『明智恭介 最初でも最後でもない事件』は電子書籍だけでしょ? 昌弘さんの本は全部読んだんだけど、これだけ電子書籍だから、ホント何年かぶりにポチってしたよ」

昌弘「それは4~5年前に雑誌に掲載された作品で、僕がなかなか続きを書かないから単行本にはなっていないんですよ」

電子書籍はお年寄りに向いている?

川西「いちばん困るのが“あれ、これ誰だっけ?”っていうときに、紙の本だったら、バッとめくって、このへんに書いてあったかな~って確認できるでしょ。でも電子書籍だと面倒くさくて……」

翔吾「電子書籍はお年寄りには向いてるっていうのがあるんですけどね。目が悪くなっても、ピンチアウトして読める。ただ、研究によれば紙の本と比べると、25%くらい頭に入ってこないらしいです」

川西「わかるわ~、入ってこないもん」

翔吾「漫画は電子書籍と相性がいい気はしますけど、小説はちょっと難しいかもしれないですね。電子書籍だと1冊単位で動くでしょ。でも、紙の本だと、ある部分を超えると、ポーンと3000冊とか刷ってもらえたりする。だから、紙の本を買ってもらうとありがたいっていうのもあるんですよね」

昌弘「だんだん経営者の顔が見えてきましたね(笑)」

翔吾「僕はこれからも作家を続けていくし、出版業界がこのまま消えるとは思っていないけど、正直言って苦しいじゃないですか。僕が力になれるなら、いろんなことをしたいって思ってるんです。昌弘さんは、この間、僕がやっている佐賀の書店にも来てくれてね」

昌弘「たまたま福岡に行く用事があったので、開店した1週間後くらいにお邪魔したんです。店内が狭いのでってことで外に机を出してもらってサインを書いていたら、通りがかった方から“なんだ、今村翔吾先生じゃないんか”ってがっかりされました(笑)」

翔吾「川西さんも佐賀に来てくださいよ。ウチの書店でもトークショーしましょうよ」

川西「佐賀は僕らが『TIME-TO-MORE』っていうテーマ曲を書いた上峰町もあるし、行きたいんだよね。なかなかコンサートで行く機会がないから、佐賀で音楽フェスでもやってくれないかなと思ってるんだけど」

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。

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