保坂展人区長“公費で1200万の家具購入”報道は「名誉毀損」と認定 新潮社に110万円の支払いが命じられる

保坂展人区長の代理人の金子春菜弁護士(左)、小島延夫弁護士(右)(4月25日都内/弁護士JP編集部)

4月25日、事実に基づかない記事を週刊誌などに掲載したとして、世田谷区の保坂展人区長が新潮社を名誉毀損で訴えた訴訟の判決が下された(東京地裁)。

「公費で1200万の家具購入」「自宅偽装」の記載をめぐり争う

訴訟の対象となったのは『週刊新潮』(203年2月9日発売号)およびWebサイト『デイリー新潮』上に2023年2月20日付で掲載された記事。

これらの記事に掲載されている、以下の内容をめぐって争われた。

(1):保坂区長は1200万円の応接家具を公費で購入した。

(2):保坂区長の自宅は狛江市にあるのに世田谷区に居住しているかのように偽る、「自宅偽装」を行っている。

地裁は、(1)は事実に基づかない名誉毀損であると認定。110万円の損害賠償支払いを新潮社に命じた。

一方の(2)については、「争いのある事実」や「疑念」に関する区政関係者のコメントについて記載しただけであるとして、名誉毀損にはあたらないと判断。

また、区長は記事の削除や謝罪広告の掲載も求めていたが、これらの請求は認められなかった。

保坂展人区長はコメントを発表

判決後、区長によるコメントが発表された。

「昨年の区長選挙の直前に1200万円で家具購入など事実に基づかない週刊新潮の記事に対して、裁判所が名誉毀損を認めたことを評価したい。一方で、記事削除や謝罪広告を認めていない点は、控訴を検討したい」

判決後の記者会見では、代理人の小島延夫弁護士が訴訟の争点について詳しく説明した。

「1200万円」という金額については、什器購入の際に検討する資料として取り寄せた見積もりに記載されていたものに過ぎず、購入には結びつかなかったという。

区長側が同様の報道を行った別メディアに事実説明をしたところ訂正がなされたが、『週刊新潮』『デイリー新潮』は説明を受けても訂正しなかったため、提訴に至った。

「自宅偽装」については、世田谷区に隣接する狛江市の自宅は区長としての業務を行うのに不便であるため、代沢(世田谷区)にマンションを借りたと説明。現在は一年の約半分は狛江市に、約半分は代沢に居住しているという。

「そもそも区長には居住要件がないから、偽装の必要もない。区民のための活動にふさわしいと考えて、下北沢(代沢)に住んだというだけだ」(小島弁護士)

記事の削除や謝罪広告を認められなかったことについては、近年、公人に対する名誉毀損について裁判所は「公の場で反論することが可能である」と判断する傾向にあると説明。

そのうえで、「公職にある人だからって自由に反論できるわけではない」と指摘し、記事の内容を誤っていると認めておきながら削除や謝罪広告の請求は認めない裁判所の判断を批判した。

今後の対応は検討中

代理人の金子春奈弁護士は、『週刊新潮』などの記事を「区長としての資質に重大な問題がある、との印象を読者に与えようとしたものである」と批判。

今後の対応については、「判決内容を精査したのちに控訴を検討したい」と説明した。

2023年4月に行われた世田谷区長選の直前には、「世論調査ドットコム」と名乗る団体名で世田谷区内の不特定多数の世帯に電話があり、「公用車で別荘に何度も行き来している」などの内容の自動音声が流されたという。

この事件については刑事告訴が受理され、現在は検察官に送致する前の段階である、と金子弁護士は説明した。

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