「キム・ミンジェはもっと上のレベルに到達できる」林陵平がバイエルンのCBを徹底比較!「少し伸び悩んでいる印象を受けるのが…」

キム・ミンジェ、ダヨ・ウパメカノ、マタイス・デ・リフト。バイエルンが誇るCBトリオは、それぞれ何がどう具体的に違うのか。林陵平氏が個々のスタイルを掘り下げる(編集部・注/このインタビューは2024年2月下旬に実施した)。

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キム・ミンジェは、3人の中で最も総合力が高いセンターバックです。190cmの長身に加え、スピードもあるので空中戦でも地上戦でも強さを発揮する。ボールスキルも高く、ドリブルで前に持ち上がったり、鋭い縦パスを供給したりできます。これといった穴が見当たりません。

タイプ的には、マンチェスター・ユナイテッドのラファエル・ヴァランヌに近いですかね。5大リーグ初挑戦だった昨シーズン、ナポリで圧倒的なパフォーマンスを見せてセリエA最優秀ディフェンダーに輝き、今シーズンはバイエルンに加入と、急激なステップアップを遂げています。アジアカップで離脱した期間を除くとほとんどの試合に先発していて、チームで最も指揮官の信頼が厚いセンターバックと言えるでしょう。

年齢的には27歳と中堅で、伸びしろもまだまだ十分にあると思います。驚異的な身体能力だけでなく、危機察知能力を兼ね備え、インテリジェンスも高い選手なので、今後さらに経験を積み重ねていけば、もっと上のレベルに到達する可能性を秘めています。アジアからここまで完成度の高いセンターバックが現われたのは驚くべきことですよ。

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ダヨ・ウパメカノの特筆すべき点は、桁違いのアスリート能力です。スピードとパワーを併せ持ち、とくに1対1の守備力は圧倒的。身体能力は世界屈指と言っても過言ではないでしょう。ビルドアップではドリブルで前に持ち運べるので、タイプとしてはキム・ミンジェに似ていますね。

ただ一方で、ウパメカノは身体能力に頼りすぎている印象があり、インテリジェンスの面で改善の余地があります。フィジカルが突出した選手にありがちなんですが、細かいポジショニングや、ラインコントロールなどがあまり得意とは言えません。とはいえ、こうした欠点も身体能力でカバーしてしまうケースが多いんですけどね……。

また、2試合連続でレッドカード(CLラウンド・オブ16 第1レグのラツィオ戦とブンデスリーガ22 節のボーフム戦)を受けているように、集中力が切れるシーンも多く見受けられます。それでも、タレント揃いのフランス代表でもコンスタントに出番を得ているように、実力は折り紙付き。弱点を克服すれば、恐ろしいセンターバックになるかもしれません。

最後にマタイス・デ・リフトですが、少し伸び悩んでいる印象を受けますね。キム・ミンジェやウパメカノに比べると身体能力が劣っているので、トーマス・トゥヘル監督から全幅の信頼を寄せられてはいないようです。

一方で、デ・リフトは3人の中で最もリーダーシップに長けていると思います。アヤックス時代には19歳の若さでキャプテンに任命され、巧みなラインコントロールで最終ラインを統率。さらに身体を張った泥臭い守備を見せるなど、旺盛な闘争心も持ち併せています。セットプレーでは、貴重な得点源として違いを作り出す存在ですね。

アヤックスで台頭した当時の衝撃度からして、現状のパフォーマンスはやや物足りなさを感じますが、それでもまだ24歳。まだまだ成長段階でしょう。冷静沈着で、背中で引っ張るタイプのキャラクターなので、キャプテンマークを託してみても面白いのではないでしょうか。これから経験を重ねて、いずれはチアゴ・シウバのようなレジェンドになってほしいです。

デ・リフトはさまざまなタイプのセンターバックとコンビを組むことができる柔軟な選手だと思いますが、キム・ミンジェとウパメカノのアスリート能力が高すぎるので、現状はなかなか定位置を掴むのが難しい。自分がバイエルンの監督だったとしても、4バックの中央にはキム・ミンジェとウパメカノを並べます。

もちろん補完性を考えると、デ・リフトのようなラインの統率に長けた選手は入れておきたい。それこそフィルジル・ファン・ダイク級のセンターバックであれば、キム・ミンジェやウパメカノの相方として申し分ないです。まさにいまのリバプールで、フィジカル能力の高いイブライマ・コナテとペアを組んでいるようなイメージです。

ただ現状では、圧倒的な個の力を持ったキム・ミンジェとウパメカノのコンビがファーストチョイス。冬の移籍でエリック・ダイアーも加わりましたから、ブンデス逆転優勝を目指す終盤戦(編集部・注/4月14日のブンデスリーガ20節でレバークーゼンの優勝が決定した)でトゥヘル監督がセンターバックに誰を並べるのか、楽しみですね。

[プロフィール]
林陵平(解説者/元東京V、柏など)
186cm・80kgの大型ストライカーとして鳴らした元Jリーガー。ヴェルディ・アカデミーと明治大学を経て2009年に東京ヴェルディとプロ契約し、翌年から柏、山形、水戸、ヴェルディ、町田、群馬を渡り歩き、2020年シーズンをもって現役引退した。Jリーグ通算成績は300試合・67得点。自他ともに認める「欧州サッカーマニア」で、海外選手のゴールセレブレーションを取り入れて話題にもなった。現在もあらゆる動画やニュースに目を配り、X(@Ryohei_h11)では海外ネタを日々つぶやき中。21年から23年までは東京大学ア式蹴球部の監督を務めた。24年2月には著書『林陵平のサッカー観戦術』(平凡社)を出版。最近は欧州サッカーの解説者としても人気を博す。1986年9月8日生まれ、東京都出身。

取材・文●尾池史也(ワールドサッカーダイジェスト編集部)

※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年3月21日号から転載・加筆。

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