『公費解体』なぜ進まない?能登半島地震の発生から間もなく4カ月…崩れた住宅が今なお撤去されない理由を調べてみた

能登半島地震の発生から間もなく4カ月。しかし、倒壊した住宅の解体・撤去は思うように進んでいない。その理由はどこにあるのか調べてみた。

個人に代わって自治体が費用負担する『公費解体』

住宅の解体や撤去は費用がかなりかかるため、個人で負担するのは厳しいのが実情だ。かといって、放置したままでは復旧が進まない。そこで住民に代わり自治体が費用を負担し解体・撤去するのが「公費解体」だ。

公費解体の条件は次の通り。自治体が現地調査し被害程度を「全壊」「一部損壊」などと判定する「罹災(りさい)証明」で半壊以上であれば、自治体に申請し個人の費用負担なしで公費解体ができる。条件はそれだけなのに、なぜ公費解体がスムーズに進まないのだろうか。

申請手続きに一苦労…過疎地ならではの課題も

罹災証明で半壊以上と判定されても、すぐに『公費解体』というわけにはいかない。申請するためには、その住宅の所有者の同意が必要だ。取材した男性のケースでは、住宅の所有者は亡くなった祖父の名義のままだった。

そのため、父は他に相続権利を持つきょうだい3人の同意を得るため『戸籍謄本』と『実印を押した同意書』さらに『印鑑証明』を送ってもらう必要がある。しかし3人は石川県珠洲市、新潟県、愛知県にいるため郵送のやりとりだけで時間がかかる。

さらに被災地を取材すると、所有者が2、3代前のままで相続権利を持つ人が数十人になるケースや、所有者がかなり昔の先祖の名前のままになっていて調べようがなく、途方に暮れる被災者もいた。

自治体によって対応に差…手続きへ条件緩和するところも

被害が甚大な石川県輪島市は手続きが進まないため条件を緩和した。仮に親族間で問題が起きても申請者が責任を持って対応するという内容の『宣誓書』を提出すれば全員の同意がなくても申請できることにした。

自治体がトラブルに巻き込まれないようにするためで、珠洲市や志賀町も宣誓書提出など条件緩和を検討している。

一方、能登町や穴水町は慎重な姿勢を崩さない。

環境省のマニュアルでは『宣誓書提出による解体も考えられる』と書いてあるが、あくまで公費解体をするのは自治体。宣誓書に法的拘束力がないため、解体に納得しない相続権利者が自治体を訴えるケースを心配しているという。

実は近所に同意が必要なケースも…避難した住民に連絡つかず

もう1つ課題がある。例えば崩れた住宅が隣の敷地にはみ出している場合がある。この場合、解体作業時に重機などが隣の住宅の敷地に入るため、作業前にその住民に『ハンコを押した同意書』を得る必要がある。

しかし、二次避難で市外や県外へ避難している場合が多く、連絡すらつかないケースがあるという。所有者全員の同意書をとったとしても、近所の住民にまで同意書が必要だとすると、会えるまで通い続ける必要があり手続きが進まぬ一因となっている。

さらに隣が空き家の場合はにっちもさっちもいかない状態だという。

所有者不明の土地や空き家は全国的な課題に…国の対策は

近年こうした所有者不明の土地や空き家の増加が、環境悪化、公共工事や災害対応の妨げになるとして全国的に問題化している。

そのため今年4月1日から土地や建物について、相続取得を知った日から3年以内の登記が義務化された。法務局によると正当な理由なく違反すると10万円以下の過料が科される可能性があるという。また、空き家を解体した後の土地の扱いに困る場合は、10年分の管理費を負担する形で土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属(こっこ・きぞく)制度」が去年4月から始まっている。

こうした新たな制度が普及すれば、今後大規模な災害が起きた場合の対応改善につながることが期待されている。

(石川テレビ)

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