糖度30以上!?驚きの栗を生み出した農家にも壊滅的な被害をもたらした能登半島地震…”能登人を訪ねて”能登栗を後世に伝えるために再び立ち上がる

能登に根差す「能登人」を訪ね、復興にかける思いを伺う「能登人を訪ねて」今回は、輪島市町野町で栗園を営む男性の元を訪ねた。糖度が30度を超えると言う焼き栗を作るため、独自の製法にこだわり続けてきた。この栗園にも能登半島地震の激しい爪痕が残されていた。栗園を営む男性の、今の思い、そしてこれからについて伺う

糖度30度以上の焼き栗を生み出した松尾栗園は今

稲垣真一アナウンサー:
見えてきた、見えてきた。お久しぶりです。
松尾和広:
お久しぶりです、わざわざ、こんな奥まで。

松尾和広さんは愛知県出身。能登のクリの味にほれ込み、脱サラして輪島に移住した。2006年に独立し、松尾栗園を始めた。

収穫直後の生グリを氷点下2度で熟成し、圧力釜で蒸し焼きにすることで糖度が高い焼きグリを作り出した。ふるさと納税の返礼品にもなっていて、全国でも人気の商品だ。

被害甚大で「今年のクリ作りはやめるつもりだった…」

稲垣アナ:
大変やったでしょう。
松尾さん:
毎日が非日常なんで、本当にバタバタバタバタしてますけど。

この日は、剪定作業の真っ最中。せん定は栗の木の日当たりや風通しをよくすることが目的で大きな栗の実にするため必要な作業だ。

松尾さん:
ホントはね、今年(クリ作りを)やらないつもりだったんですよ。

剪定作業は、この時期(4月)にはとっくに終わっている作業だ。

松尾さん:
失われた3カ月とでもいうんですかね。3カ月経ってやっと、1月の仕事を今やってる感じですかね。(クリ作りを)やると決めたら、少しでもおいしくて糖度が高くて、品質のいいものを収穫して売りたいじゃないですか。それ考えるとほっとくというのはできないんで。

松尾さんの栗園でも斜面が崩れるなどの被害があった。

さらに松尾さんの自宅兼作業場は、地震で一時孤立状態となった輪島市町野町にある。栗園から向かう道中には崩れた跡が今もなお残っている。

作業場は建物が倒壊…3カ月たっても手つかず

稲垣アナ:
町野町なんですけども正直、言葉がないですね。
松尾さん:
(地震が発生した時)近所の人たちがみんな道路に出てきたんですけど、みんな言葉がないというか呆然とした状態でした。

松尾さんの自宅と作業場を訪ねた。

稲垣アナ:
こちらが松尾さんのお店、お家。
松尾さん:
家と作業場ですね。ここが住居部分で、向こうが作業場部分なんですけど。
稲垣アナ:
瓦をたどっていくと何にもない。

作業場は完全に崩れていた。

松尾さん:
まだまだあの中に農機具とかいっぱい埋まっているんですけど、入れないし、取り出せないし何が無事で何がダメなのかも、まだ全部わかっていない状況。
稲垣アナ:
あまりにも光景が痛々すぎる。完全に屋根も落ちてしまって。
松尾さん:
ほとんど資材は取り出せない…というかダメですよね。

糖度30度以上の、あのクリを生み出してきた場所は、地震から3カ月たった今も手つかずのままだった。

稲垣アナ:
おいしいクリを作り続けるために、ここで試行錯誤しながらいろんなものを揃えてきたわけじゃないですか。
松尾さん:
(機材を)買い揃えるのに2000万円ぐらいかかるんですよね。作業場作り直すのにどれくらいかかるっていったら、やっぱり1億円以上はかかるって言われて、いくらなんでも投資としては厳しいなっていうか無理だなって、終わったって思ってました。

4月、松尾さんは家族で静岡県浜松市に移住した。以前から交流のあった、国産のクリを世界に発信するプロジェクトに参加することが決まったからだ。

松尾さん:
昨日、下の子が小学校始業式、きょう、上の子が中学校入学式。
稲垣アナ:
きょう入学式なのになぜ能登に来ているんですか。
松尾さん:
仕事として栗園続けるとなった以上は、家族も大事ですけどクリの木も生き物なので、居ても立ってもいられず…。

栗園を再開させようと思った「能登人」の「能登愛」

やめようと思った栗園。なぜ、再びやろうと思っただろうか。

松尾さん:
静岡県に移住して、クリの仕事を続けられることになったんですけど、新しい職場の方で「バックアップするし、できる限りのこと協力するんで能登も続けよう」と言ってくれたんですね。こっちでも取引先の社長が「松尾さんがやらないんだったらうちがやるよ」って言ってくれて。それだけ周りの人が続けた方がいいし協力してくれるって言ってもらえるんだったら。やめることに未練たらたらだったんですけど、やめなくていいんだっていう状況を皆さんが作ってくださったんで。静岡と能登と2拠点生活になるんですけど、やるだけのことはやろうと言う風に思いました。

松尾さんは、3週間選定作業を行い、再び浜松市に戻る予定だ。

松尾さん:
今までは自分が幸せになることばかり考えていたんですけど、今度は目線が違うというか、恩を返さないと。この幸せにしてもらった場所で恩返しするためという思いがすごく大きいですね。そのために続けようと。

松尾さん、能登のクリについては、地元の協力者に栽培方法を伝えながら事業承継を行い、静岡のクリと共に世界に発信していきたいと考えている。

稲垣アナ:
松尾さんが人生を賭けた場所ですから。
松尾さん:
そうですね。続けますって言った時に、ただただ自分の決意表明のつもりだったんですけど、能登の人が「ありがとう」って言ってくれるんですよね。自分のためなのに、こんなに喜んでくれるというのが能登の人の能登愛っていうのをすごく感じますよね。

能登で過ごした18年間は、人生で1番、幸せに過ごした場所だったと言う。

稲垣アナ:
春に第一歩ですよね。
松尾さん:
めちゃくちゃ気持ちいいですね。3カ月ぶりの農作業。この場所が本当に好きだなっていうか、この時間が好きだなみたいな。自分と向き合う時間。向き合うというか、クリしか見てないですけどね。クリと向き合う時間ですよね(笑)
稲垣アナ:
クリが大好きな穏やかな松尾さんの顔してますよ。
松尾さん:
ありがとうございます。

(石川テレビ)

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