『シリーズ人口減少』③事業承継 『廃業から引き継ぎへ』事業の引継ぎに向けた支援とは【高知】

人口減少が進む高知県で何が起き、どんな対策が取られているのかを紹介し未来の社会の在り方を考える人口減少シリーズ。今回は増える廃業と事業承継の現場です。

国によりますと、県内の事業者は毎年減り続けていて、中でも従業員20人以下の小規模な事業者は2009年には2万6000を超えていましたが、2021年の速報値で2万を下回りました。背景にあるのは廃業の増加です。

高知市本町にある事業承継・引継ぎ支援センターでは「廃業から引継ぎへ」をキャッチフレーズに事業の引継ぎに向けた支援をしています。

事業承継センター統括責任者・原浩一郎さん

「(事業者数は)全体で減ってるのが650者、そのうち毎年200から300人くらいが起業します。それを入れて650者ですから廃業してる事業者は1000ぐらいという、1000者くらいの方がなんらかの形で事業をやめている」

つまり、毎年1000者廃業しますが起業した分を差し引くと全体としては650者ずつ減っているということです。そもそもなぜ、1000もの事業者が毎年廃業しているのでしょうか。

事業承継センター統括責任者原・浩一郎さん

「人口減によって地域の経済が衰退していくだろうということで、将来に対する不安が大きくてなかなか自分の子どもや親族に継がせない、そういう傾向がある。今赤字じゃなくても将来赤字になるという」

つまり黒字で廃業している事業者も多いということです。

事業承継センターには毎年600件ほどの相談が寄せられますが、このうち半分は後継者がいません。

センターはまず、身近な親族への引継ぎを勧めた後、従業員など第三者への承継=М&Aの道を探ります。第三者への承継は全国に募集をかけることもあり、成約数は年々増えていて昨年度は県内で42件でした。

センターが仲介したM&Aの事例の一つに、いの町下八川のゲストハウスがあります。

美しい仁淀川を望むこのゲストハウスは今、大阪から移住してきた夫婦・日向善子さんとデービッドさんが運営しています。

ここは元々、地元の建設会社が1979年から運営していた旅館ですが、7~8年前から休業していました。この日、ゲストハウスを元の旅館経営者が訪れました。

旅館を廃業した理由は・・・

元経営者・伊藤みかさん

「時代の流れとともに一緒にやっていたレストランもそうですが、お客さんが少なくなったということが一番ですかね」

ゲストハウスの前身の旅館は、工事現場で働く労働者が主な宿泊客でしたが、周辺の道路整備が進み、宿泊しながら働くニーズが徐々になくなったということです。

しかし、旅館を引き継いだ日向さん夫婦は手作りで内装を一新し、素敵なゲストハウスにリニューアルしました。

元経営者・伊藤みかさん

「見てる視点が全然違うんだなと思って。とても今までの考えでは今みたいにこんなに素晴らしくなかったと思うのですごい(引き継いでもらい)嬉しかった」

この場所を引き継いだ日向さん。都会から高知へ、迷いはなかったのでしょうか。

そらやまゲストハウス・日向善子さん

「大きな理由は、子どもがその時小学生だったんですけど、その時もっと環境のいい所で学校にいって育てたいというのがあったので」

日向さんから見て高知県はとても魅力のある場所だといいます。

日向さん

「自然の残り方が他の場所とちょっと違う気がしますね。すごく景観がきれいなまま残っていると思う」

日向さんは県の観光業に対する補助金を活用して準備を進め、2020年4月にゲストハウスをオープンさせました。いま、仁淀ブルー人気もあり、国内外から観光客が宿泊に訪れ、事業は成り立っているといいます。

日向さん

「高松の方から来て祖谷温泉に行って、こちらの仁淀川に入って道後温泉に行くか四万十に行くかっていうパターンがほとんど」

労働者向けの旅館が観光客向けのゲストハウスへ。事業承継を通じて事業が新しく発展した好事例といえます。

四万十町の養鶏場「四万十・自給農の里」。この場所も事業承継によって存続につながりました。

ここで生産しているのが「神果卵(しんからん)」と名付けられた1つ360円の高級ブランド卵。濃厚で臭みがなく、主に東京や大阪の高級料理店などに卸しています。

「神果卵」の生産を引き継いだ山内嘉文さん(44歳)。山内さんは秋田県出身で以前は東京の大企業に勤めるサラリーマンでした。事業を継いだきっかけは山内さんの趣味でした。

山内嘉文さん

「全国でこだわって卵を育てている農家さんの卵を食べるというのを趣味にしていて、自分も卵を作ってみたいなと。卵農家をやるにしても私自身ノウハウが全くなかったので、それでノウハウを教えていただきながら農家になれるということで(事業承継をした)」

「神果卵」は、もともと1999年に東京から移住してきた高橋敏仁さん夫婦が津野町で開いた養鶏場で誕生した卵です。こだわりぬいた飼料と環境でとれた卵は人気を集めました。

しかし2020年、敏仁さんが悪性リンパ腫のため63歳で急逝しました。

敏仁さんの妻・鈴子さんが、夫の敏仁さんが亡くなった後の半年間、1人で養鶏場を運営していましたが、体力の限界もありやめることにしました。一度は養鶏場をつぶすことも考えたといいます。

鈴子さん

「最初はできないからしょうがない、つぶすというよりもできないものはできないから。でも顧客からの励ましが一番、大きかった。なんとか頑張って、ちょっと続けられない?とか言ってくれた」

ブランド卵を残すために鈴子さんが頼ったのが、県の事業承継・引継ぎ支援センターでした。

そこで紹介を受けた約20人の中から、山内さんに「神果卵」を引き継いでもらうことに決めました。

鈴子さん

「決まった時はとても嬉しかった。とりあえず神果卵が続くという安堵。それが一番だった。 主人の生きた証なので」

山内さんは鈴子さんから飼料の配合や環境作りについて学び、今では山内さんが4棟の鶏舎で約300羽の鶏を育て、1日に180個ほどのブランド卵を生産しています。

3人の子どもと一緒に四万十町に移住した山内さん。今では地方での生活を十分に楽しんでいるといいます。

山内さん

「日頃の作業には慣れてきた。やっぱり山に囲まれているこの環境は、逆に自分としてはリラックスできて良いところ」

事業を引き継いだばかりの去年は、新たな初期投資などで赤字の経営だったいいますが、2年目の今年は順調に進み、通年で黒字を見込んでいるそうです。

山内さん

「高橋さんが大事にしてきた卵のブランドやコンセプトは大事にしつつも、さらに四万十町の魅力あふれるような商品になるようにこれからも開発に取り組んでいきたい」

年間1000もの事業者が廃業している県内。うまく次の担い手に引き継ぎ、発展することができれば地域経済はしぼむ一方ではなく、新たな方向へ拡大することも可能です。

事業承継センター統括責任者・原 浩一郎さん

「確実に人口は減っていくけども事業のいいところを将来へ残していこうと、そういう中でこの事業承継があると考えている」

県内で連綿と続いてきた貴重な生業を人口減少社会の中でどう引き継ぎ、生かしていくのか。

私たち一人ひとりに今できることがあります。

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