海辺の無人駅に「クラフトビール」醸造所 にぎわい復活の願い託されプレオープン(島根・江津市)

2022年から無人駅となっていた島根県江津市のJR山陰本線・波子駅。ここに地元のクラフトビールメーカーが工場を移転し、4月にプレオープンを迎えました。本格オープンは2024年9月で、地元の人たちは地域のにぎわい復活のきっかけにと期待しています。

日本海を望む江津市波子町。石州瓦の赤い家並みが続きます。集落を見下ろす高台にあるのが、JR山陰本線の波子駅です。
4月20日、駅の周りでは大勢の人たちがクラフトビールとグルメを堪能していました。

お客さん
「めちゃめちゃうまいです」
「光が差したような気がしますね。これから活性化に向けて、ぜひ町の人と一緒になって頑張っていただきたいと思います」

活性化に向けて一緒にがんばってほしい…その期待が向けられているのが、4月に駅舎に引っ越してきたこの施設、地元のクラフトビールメーカー「石見麦酒」の醸造所です。この日は、「プレオープン」イベントとして工場の開放やクラフトビールの試飲会が開かれました。
1921年に開業した波子駅は、一度無人駅となりましたが、2000年に近くにしまね海洋館アクアスがオープン、最寄り駅として特急列車も停まるようになり、有人化されました。
しかしその後、コロナ禍の影響で利用者が激減。2022年に再び無人化され、にぎわいが失われていました。そんな波子駅に誕生した期待の醸造所。工場長の山口さんに案内してもらいました。

坂西美香アナウンサー
「こちらのスペースはどういったスペースなんですか?」

石見麦酒・山口厳雄工場長
「ここでできたお酒があるので、ここでできたてのビールを販売して、カウンターで飲んでいただいたりとか、駅を眺めたりとか、あとは待合室で飲んだりとか、そういうことができるようなスペースになればいいかなと思う」

江津市が所有する駅舎を山口さんが借り受け、約500万円かけてリフォームしました。元々駅長室だった工場には、大きな醸造用タンクが3基。クラフトビールのほか、地元産のフルーツを使って果実酒なども仕込む予定です。ここではビールも販売、待合室からは駅のホームや工場の様子をビール片手に眺めることもできます。

2016年に創業した石見麦酒。工場長の山口さんが、江津市内のわずか9坪のスペースでビール作りを始めました。

石見麦酒・山口厳雄工場長
「地酒がないというのは非常に寂しいなと。逆にそれをお手伝いできることがあればということでクラフトビール、地酒として愛してもらえるのではないかと」

手作りの機械を使ってスタートしたビール作り、創業1年目の売り上げは約2200万円。大規模な投資が不要で、タンクの洗浄作業を省力化できる食品用のポリ袋を使った製法を独自開発するなど、小さな会社ならではの工夫を重ねたビールづくりで全国から注目されました。
2020年には、江津市のリゾート施設「風の国」に工場を移し、年間の売り上げを約7000万円まで伸ばしました。ビール販売や資材販売などを含むこの業績をさらに伸ばし、会社として次のステップを目指して取り組んでいるのが、新しい工場の整備。江津市から、無人になった波子駅の駅舎の活用を託され、工場を移転させました。
JR西日本管内では初めてという、「駅なか」のビール工場。ビール醸造用の設備のほか、果実酒用のタンクやレトルト食品製造用の設備なども整備、9月からの本格稼働を目指しています。さらに、駅からほど近い古民家と約1000坪の敷地を購入。将来はヒツジを飼育する牧場や飲食店を整備、ビール工場を中心に食を楽しむ拠点づくりを進める計画です。広大な敷地では地元の園児と一緒にクローバーの種まき。地元の人たちも草刈りを手伝ってくれました。

波子まちづくり活性化協議会・黒川光憲会長
「地域のみなさんが喜ばれ、なおかつ県外のみなさんが喜ばれるような施設を入れたいということは、ずっと地域としては考えていました。非常にいい「嫁さん」が波子に来てくれるなと思った」

地元住民もサポートしつつ、石見麦酒の新しい取り組みが地域に活気をもたらすと期待しています。
江津市も、西の玄関にあたる波子駅の活性化に向け、石見麦酒の取り組みを支援しています。

江津市政策企画課・福山賢一さん
「江津市の波子駅が、江津市と浜田市の境の端のところなので、ここからまずは元気にしていって、江津市全体の駅を使って何か観光誘致できればと思っています」

石見麦酒・山口厳雄工場長
「江津市の入口の駅、端っこの駅なので、そこで降りていただいて、ここだけじゃなくてもっと江津というのは楽しいところもあるし、面白い人もいっぱいいるしというので、(訪れる)きっかけになってもらえればと思っています」

波子駅のクラフトビール工場は、2024年9月にグランドオープンする予定で、石見麦酒ではオープンにあわせビアガーデンの開催や「ビール列車」の運行など
、海辺の駅のロケーションを生かしたイベントで地域を盛り上げたいと意気込んでいます。

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