『ブルーモーメント』第1話 災害モノとしての「奇跡の塩梅」がちょうどいい

24日放送のドラマ『ブルーモーメント』(フジテレビ系)の第1話。今クールでは、だいぶ遅れてのスタートとなりました。

主人公は気象研究官の晴原柑九朗(山下智久)。“ハルカン”の愛称で朝のワイドショーに登場し、気象庁の防災パンフレットにも顔を出すなど売れっ子イケメン気象予報士として表舞台に立っている人物です。

そんなハルカンが、内閣の肝いりで組織された特別災害対策本部「SDM」のリーダーに就任し、気象の知識と卓越した計算能力で人の命を救うために奔走するという、いわゆるディザスターモノというジャンルに分類される作品のようです。「SDM」は「Special Disaster Management Headquarters」、直訳すると、そのまま「特別、災害、対策、本部」となります。架空の組織ですが、名前がカッコつけてなくていいですね。

タイトルの「ブルーモーメント」は、日の出の直前と日没の直後に、空に深い青色が現れる時間帯のことだそうで、このドラマは同名のコミックを原作としています。

災害から命を救う物語はいくらでもありますが、警察でも消防でも政治家でもなく、気象の専門家がチームのリーダーになるというところが新しいですし、防災意識を高めましょうという世情もありますから、興味深いところではあります。ちなみに山Pは5年ぶりの地上波民放ドラマ主演だそうです。

振り返りましょう。

■まずはチーム編成の発表です

まずは発足したばかりの「SDM」という組織の成り立ちから始まります。ハルカンは5年前に婚約者を豪雨災害で亡くしており、それ以来「人の命を救うこと」に取りつかれているそうです。そのわりにメディアに出まくったりチャラい感じで人気者になったりと、あんまり真面目に研究に勤しんでいる感じではありません。

そんなハルカンの助手として気象庁に入庁してきたのが、雲田彩(出口夏希)という若い女性。口の悪いハルカンに「お前」とか「帰れ」とか「女」とか言われてヒヤヒヤしますが、得意の中国語で「クソむかつく」などと言い返す気の強さを見せます。雲田からすると、偉そうにしてるくせにテレビで笑顔を振りまいているハルカンがどうにも気に食わない。ハルカンと雲田、いわゆる「第一印象最悪同士」という出会いですので、逆にいい感じのバディになるという予感がします。

指揮を執るのは特命担当大臣の園部(舘ひろし)。この人は亡くなったハルカンの婚約者の父親で、「SDM」構想ももともとは娘の発案だったそうです。娘の計画を大臣が実現しているわけですから、内閣の中でも「SDM」に否定的な見方をする者は少なくありません。「SDM」は各省庁から階級・年齢に関係なく能力本位のエキスパートを集めたそうですので、既存の組織からの反発もある。このへんは『シン・ゴジラ』(16)の「巨災対」を想起させます。実際、後に出てくる「SDM」メンバーには国土交通省から呼び出された地理オタクの人(岡部大)なんかがいて、楽しい感じ。

そんな「SDM」に最初の出動要請が下りました。福島県で雪崩に巻き込まれた10人が遭難中。救い出せ。ここまでは、非常にスムーズでした。

ここからはハルカンの腕の見せどころ。さんざんコスり倒された雪山救出劇で、どうやって人の命を助けることになるのかという段取りの「個性」と「奇跡の塩梅」がドラマの成否を分けることになります。ありきたりじゃつまんないし、そんなわけあれへんやろと言わせてはいけない。

■塩梅、いいと思います。おもしろかった。

まず心配になったのが、災害現場に入ったばかりの助手・雲田を連れていくということでした。それは上司の命令だから仕方ないとしても、私服のままヘリに乗せるんですね。現地に着いても、パンプスで雪山を歩かせてる。この時点で、雲田が足手まといになるという伏線を張っているのかなと思ってしまうんです。

第1話ですし、「SDM」という組織の実力というか、ホントにこんな組織が必要なのかという問いに強烈な答えを返さなきゃいけないところで、失敗の伏線を張っているように見えた。よくないなぁ、と感じていました。

現場では、ハルカンが天才的な計算能力で雪の降る場所や量、次の雪崩ポイントなどを正確に弾き出し、救出に向かった消防隊を誘導します。このへんは見ている側としては、どんな計算でその答えが出てるのかなんてわかるわけないので、山Pの顔面の説得力に身を任せるしかない。だから、その能力だけでいろいろ奇跡が起きて成功しちゃうと興ざめになるところです。

「奇跡は待つものじゃない、準備するものだ」

救助活動が行き詰まったころ、ハルカンがこんなことを言うんですね。ハルカンが2頭身キャラになって笑顔を振りまいている防災パンフレットには、「雪崩が起きたら下ではなく横に逃げろ」「くぼみに入れ」「埋まったら手で口の周りに空間を作って呼吸を確保せよ」と書いてある。そう書いてあるパンフレットが、日本中にばらまかれている。もし遭難者がそれを読んで、知識として知っていたら、生きている可能性があるかもしれない。

ここで、ハルカンがテレビで愛想を振りまいている理由が明らかになります。災害に対しては日ごろの準備が大切であり、防災情報を届けるための広告塔としてテレビに出ていた。「人の命を救うことに取りつかれている」人間としての、一貫した行動だったことがわかるわけです。

届いていれば、奇跡は起こる。その場だけでいくら天才的な能力を発揮していても、遭難者が防災パンフを呼んでいなければ、死んでいる。いい塩梅だなぁと感じるところです。この奇跡なら信じていいと思える設定を『ブルーモーメント』第1話は用意してきました。お見事。

それと、足を引っ張るだけだと思っていた助手・雲田に役割を与えたところも的確でした。ハルカンは現地にさらなる降雪被害が出ることを予測し、市役所に乗り込んで避難指示を出させます。すると市民からはクレームが殺到することになる。このクレームへの対処を、すべて雲田にやらせたのです。イベントの中止を拒否している現地にまで行かせて、説得させる。

雲田は雲田で、過去に突風によるクレーンの転倒事故に遭遇し、家族を亡くしたことがありました。だから、説得にも力が入る。こういう過去の設定と現在の行動がバチンとリンクしてくると、シーンに納得感が出る。

私服で来てたのも、そうした雲田の行動を評価したハルカンが「SDM」メンバーとして認めたことを示すために、名入りジャンパーを進呈するシーンを撮るためだったんですね。ここはちょっとあざといと思ったけど、雲田役の出口さんがすんごく達者なので感動的になってる。出口さん、前クールの月9『君が心をくれたから』(同)では、かなり損な役回りでしたけど、今作は番手も上がっていい役をゲットしましたな。

大臣と発案者が血縁関係だったり、リーダーがその婚約者だったり、消防隊にも身内がいたり、遭難者と救出隊にも親戚関係があったりと、ちょっとそのへんもあざといよなぁと感じましたが、それも今後の塩梅かと思います。

第1話はおもしろかった。何しろ、見終わったころには、なんとなく「SDM」というチームが実存している気がしてきましたので、成功の予感がします。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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