「人生で一、二を争うくらい辛かった…」ソサイチ選手を襲った溶連菌感染症の恐怖

昨秋ごろから日本各地で溶連菌感染症が日本各地で拡大している。国立感染症研究所の調査によると、例年よりも増加しており過去最高ペースで広がっているとされている。

その影響はサッカー界にも波及しており、昨月には日本の溶連菌流行を理由に北朝鮮代表がワールドカップ・アジア2次予選のホーム開催を中止を発表した。

ソサイチ東海1部RICO PUENTE所属の吉川慶(以下敬称略)はそんな溶連菌感染症の一つである「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」に感染し、救急搬送された。今回は吉川に溶連菌感染症に感染した体験談、そしてアスリートならではの感染症との向き合い方、健康管理の難しさについても聞いた。

感染症により緊急搬送

───まずは吉川さんについてこれまでのキャリアを教えてください。

東海リーグのRICO PUENTEでプレーしている吉川慶です。過去に3回2016年、17年、19年と(ソサイチ)日本選抜でもプレーしていました。Jリーグの清水エスパルスの試合のラジオ解説の方もやらせていただいています。

普通の会社員として働きながらという形になるので、完全にプロでお金を得ているというわけではないです。

───救急車で運ばれたときの経緯を詳しく教えてください。

運ばれる3、4日前から体調が良くなくて、ただ喉は痛くなかったのでコロナではないかなということで、在宅ワークで人と距離を取りながら仕事をしていました。

夜になると38度を超えた熱が頻繁に出るようになって、自分は体調を崩しやすいタイプなので、いつも通り疲れているのかなと思い解熱剤を飲んで騙し騙ししていたんですけど、運ばれた日の夜2時半ぐらいに目が覚めて、体温を測ってみたら40度超えていて…。景色も歪んで見えていたので、救急車を呼ぶか迷っていました。

ただ、普通の風邪で救急車を呼ぶわけにもいかないなと思い、かなり葛藤がありました。医師に連絡して判断を仰いで「迷わず呼んでいただいて構わない」と言っていただけたので、すぐ搬送されたという形になります。

───搬送後はどういった状態だったのか詳しく教えてください。

運ばれてから熱がかなりあったので、自分で気づいたのは喉の違和感もすごくて…。自分の場合は頭痛がかなり酷かったです。

溶連菌の脅威

───溶連菌感染症は重症化した場合、命の危険があると聞きます。

そうですね。その後、インフルとコロナの検査は簡単にしていただいて両方ともいました。溶連菌の検査は救急では出来なかったので翌日になりました。けれど「勇気を持って救急車を呼んだ判断はよかったと思うよ」とお医者さんからも言ってもらったので、運良く重症化せずに済んだかなと思いますね。

A群溶血性レンサ球菌

───重症化した際は手足の壊死など、競技生活にも影響を及ぼしかねない症状が発生することもあります。そういった点への恐怖感はありましたか。

逆に私は溶連菌について全然知らなくて、『人食いバクテリア』(溶連菌感染症の一つである劇症型溶血性レンサ球菌感染症の通称)が流行っていることは北朝鮮戦が中止になった理由の一つとして知っていました。けれど、それが溶連菌の劇症化したものだというのは全然知らなかったです。

すぐに競技生活に影響するというよりは、体調がずっと悪くて、(アスリートなので)トレーニングが出来なかったこと、ずっと寝ていたこと、動いてないことの心配が勝っていたという感じですね。

───リーグでは連敗という苦しいチーム状況での感染でした。もどかしい気持ちはありましたか。

僕は去年ベストセブンを受賞させてもらって、リーグでも活躍できていたという自負はあるんですけど、連敗している中、今年から僕は10番を背負いゲームキャプテンを中心選手として任せていただき、自分なりにすごい責任を感じている中で延べ2週間トレーニングできなかったんですよね。

シーズンの中で2週間トレーニングできないことがかなり大きかった。こんなに動かなかったことは本当にいつぶりだったかな…。これで復帰できるのかという不安感もありました。次も強い相手で、自分の中でなかなか整理のつかなかった期間がありました。

ただもうどうしようもないことなので、まずは治そうという気持ちに向いていましたけど、競技の心配はもちろんありました。

アスリートの体調管理と免疫力

───感染している間は、(自身が解説している)Jリーグの試合などをご覧になられていましたか。

コロナ禍が1番ひどかったときに、家から出ないことを会社に厳命されていた時期もありました。そのときと同じような形の過ごし方という意味で「こういう(コロナ禍のときの)過ごし方をあのときしていたら」と思い出しながらサッカーを観ていました。

ただ僕はサッカーをめちゃくちゃ観るタイプではないんですよ。解説としてやらせていただいたりとか、プレイヤーで現役をやっていますけど、あまり観戦に興味があるタイプではないので、いろんなチームのハイライトをかいつまんで観たりとそんな感じですね。

───コロナ禍のときに在宅での経験が活かされた形ですね。

そうですね。

───感染中のコンディション管理は大変ですよね。チーム練習などへの影響はありましたか。

基本的にチーム練習がうちにはなくて、各々のコンディションを高め、一定のスパンで集まって練習や試合に臨みます。感染中はもちろん一歩も家からは出られなくて、僕は週に4、5日ジムに行って、ストレッチや走ったりとフォームの確認をやっているんですけど、その間は一切ジムには行ってなくて…。もう体を動かすという次元まで行ってなくて、その日を生きることでいっぱいいっぱいだったと思います。

───アスリート生活を行う上で、日々の体調管理など気をつけている習慣はありますか。

特に食事の管理は人一倍気をつけています。僕はフォワードなので、プレースタイルはたくさん走って、守備をしっかりして、こぼれ球を詰めたり、ハードワークを大事にしています。

なので、どうフィジカルを落とさないかという点で食事を考えているんです。野菜から食べるベジファーストや夜は炭水化物を控えめにして余計な糖質を蓄えない、たんぱく質を多めに取る。そういう基礎的なところをしっかりしています。

いまはあまり多く行けなくなりましたけど、静岡に「おさかないっぱい『福』」(静岡市葵区)というお店があります。(清水)エスパルスの選手やベルテックス静岡(プロバスケットボールチーム)の選手がよく行くお店です。店長がアスリートご飯を作ってくれるので、そこでかなりバランスのいい食事を取らせていただいたり、外部の声を聞きながら食事管理をしてきました。あとは基本的には手洗いうがいですよね。僕は特別にサプリメントを飲んだり、プロテインをガンガン飲んだりはしていません。食事と手洗いうがいしか気を付けていません。

───アスリートは「健康」や「身体が強い」というイメージが世間一般的にあると思います。ただ実際にはアスリートはハードなトレーニングの影響もあり、免疫力が落ちてしまう傾向にあるという研究も近年では知られてきています。先ほど、発熱や頭痛に見舞われることがあるとのことでしたが、これまでの競技生活の中で自分の健康とどのように向き合ってきましたか。

おっしゃるとおりで、「スポーツをやっているから体力には自信あるんだよね」と言われるんですけど、実際そんなことはなくて。花粉症がひどかったり、偏頭痛を持っていたり、すぐお腹が痛くなったり。あんまり(身体が)強いタイプではないので、それがアスリートだからなのか、因果関係はちょっとわからないんです。ですけど人よりは激しく体を使っている感じはします。疲労という意味では、人の何倍も疲れたりするケースもあります。

例えば試合の次の日に仕事に行くってめちゃくちゃ辛いんですよ。自分が好きでアスリートをやっているので、そこで文句はもちろん言わないですけど…。その辛さを軽減するために、例えばお風呂に長く浸かったり、ストレッチを多めにやってみたりと対策はしているんですけど難しいですね。どれが対策になったのか正直分からないし、だからといってやらなかったことで身体にモロに出てきてしまうので難しいです。

身体は強いですよ。フィジカル的な意味ではガッシリしています。でも中身を鍛えることは難しいと思いますね。

復帰後のコンディション調整に苦慮

───今回の感染は幸いリーグ戦と被りませんでしたが、これまで競技生活を送ってこられた中でも体調が悪い日に試合を迎えた経験はあったと思います。そういったときはやはり欠場するんでしょうか。

アスリートに100人に聞いたら90人ぐらいは「出る」と言うと思います。

ケガもそうですけど、ちょっとやそっとでは出るし、そんな相談もしないと思うんです。「ケガが痛いなら出るのやめるか?」と監督にもし言われたら、100%「大丈夫です」と言うと思う。

ただ最近はJリーグでも体調不良による欠場を見るようになって、世間の流れ的に寛容になってきたのかなと感じます。

ただこの先、仮に自分の体調が悪くても、少しぐらいだったら出ちゃうかなと正直思いますね(苦笑)。

───回復した後、試合に出るために再開したトレーニングで、身体面の変化は感じるところはありましたか。

かなり感じています。

苦労しているところはフィジカルで、いまトレーニングを再開して3日目ぐらいなんですけど、心拍数が元に戻らない。

僕は『My zone』というデバイスで心拍数の管理をしているんですけど、長期休暇オフ明けみたいな感じで(心拍数が)全然上がらないし、体の疲労度もまだ慣れていない。感染前までは余裕だった12分走がいまはかなりきつい。しょうがないんですけど、そういうのは感じていますね。

───感覚としては長期のオフ明けという感じに近いんですか。

それにかなり近いです。ぶっちゃけた話をすると、次の試合はかなり不安です。おそらく今シーズンは全部スタメンで出ているので、次もスタメンでは出ると思うんですけど、かなり不安ですね。

───今回溶連菌に感染して、それをきっかけに生活の意識や考えが変わったことはありましたか。

ちょっとオーバーな話になるんですけど、今回の溶連菌、僕にとっては人生で一、二を争うくらい辛かったんですよ。「溶連菌だから抗生物質を飲めば治るよ」とお医者さんに言っていただいたんですけど、本当に死んじゃうのかなと思ってかなり怖かった。

そこから回復して散歩をよくするようになって、静岡の富士宮というところに桜を見に行ってきたんですけど、風が冷たかったり、歩けていることに感謝するようになりましたね。普通に何もなく生きていることが「すげぇんだな」って、ちょっとおっさん臭いですけど、28(歳)で本当に感謝するようになりましたね。

誰にでも起こりうる病気に注意を

───いま日本では溶連菌感染症が拡大傾向にあります。ご自身の経験から読者のみなさまに伝えたいことがあれば教えてください。

正直ただの風邪かなぐらいで、こんなに重くなるとは思っていませんでした。(溶連菌感染症は)普通の人がなる病気なんだと思いました。

「子どもの病気じゃん」と僕も親に言われましたけど、誰にでも起こりうる病気で、防ぐ術は手洗いやうがいの徹底しかないみたいです。なので、コロナがいまはあんまり騒がれていませんけど、手洗いうがいをしっかりしてほしいなと思います。より一層僕も自分で気をつけようと思いました。

───今回大きな困難を一つ乗り越えましたが、これからリーグ戦もまだまだ続きます。目標を教えてください。

まずはチームの目標である(東海リーグ)1部残留ができるように。あと個人的にはまだ得点王を取ったことがなくて、去年は最終節まで争って取れませんでした。個人的なタイトルも目指したいと思います。

ただ、日本代表(筆者注:日本選抜とは別)に入ってワールドカップで戦いたいというのが個人的には1番の目標です。

僕はサッカー王国と言われている静岡県清水市清水区出身なので地元を盛り上げたい。7人制サッカーはマイナーな競技ですけど、”日本代表のサッカー選手”は地元の光になるような存在なので、そういうところで地元を元気にできるような選手、子どもに憧れられるような選手になりたいと思います。

取材後、吉川は「ソサイチをもっと知ってほしい」と語った。7人制サッカーであるソサイチは競技参加のハードルの低さに反して、フットサルやサッカーと比べると知名度がまだまだ低い。ソサイチの素晴らしさを広めるため、「サッカー王国・清水」発、捲土重来(けんどちょうらい)を期す吉川慶の挑戦はまだまだ続く。

引退後はカフェ店長。酒井高徳の弟、元プロサッカー選手酒井高聖さんが始めた「僕と僕の兄ちゃんが好きなもの」

吉川が所属するRICO PUENTE FCは27日(土)、リーグ戦でのTOKISAI SHIN ANJOと対戦する。

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