【中国】日系が電動・スマート化攻勢[車両] 北京モーターショー開幕

会見に臨む日産の内田誠社長=25日、北京市

世界最大級の自動車展示会である「北京国際汽車展覧会(北京モーターショー)」が25日、北京市で開幕した。新型コロナウイルス禍の影響で、北京での開催は4年ぶり。中国で「新エネルギー車(NEV)」の販売が伸びる中、日本勢は電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新モデルを公開した。中国IT企業との連携も打ち出し、中国でニーズが高まる電動化とスマート化を進めることで中国市場での巻き返しを狙う。

日本車メーカーからはトヨタ自動車やホンダ、日産自動車、マツダが出展した。

■トヨタはテンセントと提携

トヨタ自動車は25日、中国ソウトウエア大手の騰訊控股(テンセント)と提携すると発表した。テンセントと協業することで、ソフトウエア分野での競争力を高める狙い。

中嶋裕樹副社長がプレスカンファレンスで、テンセントを新たなパートナーに迎え入れると発表。テンセントの湯道生副総裁もスピーチを行い、トヨタとは昨年から人工知能(AI)分野などでの協力を始めたと明らかにした。テンセントが手がける中国最大のチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」のデータも活用し、トヨタのソフトウエアサービス向上に貢献する考えを示した。

トヨタ自動車はテンセントとの提携を発表。中嶋裕樹副社長(左)はプレスカンファレンスで、テンセントの湯道生副総裁とがっちり抱擁を交わした=25日、北京

その他詳細な提携内容は明らかにされなかったが、トヨタがソフトウエア分野の競争力向上に力を注ぐ意思を強調したといえる。

トヨタは同日、ソフトウエア機能の充実を重視したレクサスの次世代EVコンセプトカー「LF—ZC」を中国で初公開した。同コンセプトカーは昨年のジャパンモビリティショーで、世界で初めて公開していた。26年に市場投入する予定。

EV専用ブランド「bZ」シリーズの新型2車種「bZ3C」と「bZ3X」も公開した。昨年の上海モーターショーで公開した「bZ」シリーズの新型2車種をより量産モデルに近い状態にアップグレードした。向こう1年以内に発売する予定だ。

■日産は百度とAIで協業検討

日産自動車は25日、インターネット検索の中国最大手である百度(バイドゥ)のグループ企業と、AI技術の活用での協業に向けた覚書を結んだと発表した。日産が中国で販売する車両に百度の生成AIを搭載し、自動車のスマート化を加速させる狙い。

同日に日産の中国法人、日産(中国)投資と百度在線網絡技術(北京)が覚書を結んだ。具体的な搭載車種や投入時期などについては今後検討を進める。

会場では、EVとPHVのコンセプトカー計4車種を公開した。いずれも中国の合弁相手である東風汽車集団と共同で開発した。EVのセダン「日産エポック・コンセプト」は、1年以内の量産モデル投入に向けて開発を進めている。

中国市場では2026年度までに5車種のNEVを投入する。当初の発表より1車種増やした。中国市場でのラインアップをさらに充実させるため、市場投入のペースを速める。

内田誠社長は会見で、「中国で、中国のために」という指針を発表。中国市場の急速な変化について「中国の国内ブランドが市場を大きく変えてきた」と述べ、「日産はこの変化に対応し、競争力を維持していく必要がある」と強調した。

日産は26年度までの中期経営計画で、中国で日産ブランドのモデルラインアップの73%を刷新し、同年に年間100万台を販売する目標を掲げた。25年からは中国からの輸出も始め、第1段階として10万台レベルを目指す。

■ホンダが新シリーズ披露

ホンダは、中国市場向けに開発したEVの新ブランド「イエ」(イエ=火へんに華)シリーズと「e:N(イーエヌ)」シリーズの第2弾を披露した。

イエシリーズは中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の車載ディスプレーや、AIでの音声認識の研究などを行う科大訊飛の音声認識機能を搭載するなど、中国の技術を導入した。24年末から販売を始める予定。

五十嵐雅行中国本部長はイエシリーズについて「中国顧客を最優先に考え、新たな価値を提供することを考えて開発した」と話した。

記者会見するホンダの五十嵐雅行・中国本部長=25日、北京市

e:Nシリーズの第2弾「e:NP2」は25日に発売し、「e:NS2」は5月1日から予約販売を始める。価格はともに15万9,800元(約343万円)から。中国市場で価格競争が過熱する中、20万元を下回るEVで勝負する。

ブースでは、「無印良品」とコラボレーションしたe:Nシリーズの特別仕様モデルも展示した。中国で若者を中心にキャンプの人気が高まる中、アウトドア用品の収納を工夫した。特別仕様モデルは計100台の限定で販売する。

ホンダは35年に中国市場で販売する新車を全てEVにする方針。e:Nシリーズを皮切りに、27年までにホンダブランドのEV10車種を投入する計画。EV新シリーズの投入に合わせ、中国の合弁2社がそれぞれ24年後半にEV専用工場を稼働させる予定だ。

■マツダ、新NEVで反転攻勢へ

マツダはセダン「マツダEZ—6」を発表した。PHV版とEV版を用意。同シリーズは中国NEV市場での巻き返しを図るためのシリーズと位置付けており、現時点では中国のみでの販売を予定している。

今年発売する計画で、価格は未公表。EV版の航続距離が約600キロメートル、PHV版が1,000キロメートル以上になる見通し。

マツダの「EZ—6」=25日、北京

開発と製造は、中国合弁会社の長安マツダが手がける。同合弁会社がNEVの開発と製造を行うのは初めて。合弁会社が開発・製造を行うことで、より中国の需要に合致した車種の投入を図る。

マツダはさらに、EZ—6に続く中国市場向けNEVのコンセプトモデル「マツダ創ARATA」を発表。同モデルは25年に量産する予定だ。

マツダは他の日系大手と同じく中国に2社の合弁会社を設けていたが、事業効率化を目的として21年に組織再編を実施。長安マツダが別の合弁会社を傘下に収めることで、長安マツダを中心に中国事業を推進する体制を整えた。

マツダは近年、中国市場で苦しんでいる。中国での通年の販売台数は17年に30万台を超えていたが、23年には約8万5,000台に減った。マツダの世界販売台数に中国が占める比率は23年に6.8%まで下がった。

苦戦の一因は、中国自動車市場の急速なNEVシフトに乗り遅れたことがある。EZ—6、創ARATAと立て続けにNEVを投入し、中国市場で再び存在感を強める狙い。

マツダの広報は、電動化の波に追随できれば、同社の強みであるデザイン性と操作性が再び中国の消費者に注目してもらえるとみている。

発表会にはマツダの毛籠勝弘社長兼最高経営責任者(CEO)が登壇。広報によると、CEOが中国のモーターショーに登壇するのは10年以上ぶりで、中国での反転攻勢に向けた決意がうかがえる。

■IT機能を強化

自動車業界では近年、「ソフトウエア・ディファインド・ビークル」(ソフトウエアを変更することで性能や価値を変えられる自動車)の重要性が声高に叫ばれるなど、ソフトウエアの力が市場の勝敗を決する鍵になりつつある。

こうした状況の中、中国自動車企業はテック企業との提携を積極化し、時代への対応を速めている。トヨタや日産も現地のIT企業と協力することで、中国市場の潮流に追随する。

北京モーターショーは上海国際モーターショーと交互に隔年で開かれていたが、22年は新型コロナウイルスの感染拡大で開催を中止したため、北京で開かれるのは20年以来4年ぶりとなった。

今回の展示面積は22万平方メートルで、国内外の主要自動車メーカーが出展したほか、部品メーカー約500社も参加した。今回は278車種のNEVが展示され、20年の160車種から大幅に増加。世界初公開は117車種で、コンセプトカーは41車種。

会期は5月4日まで。(北京・吉野あかね、吉田峻輔)

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