輪島朝市に立ち30年「輪島の女は強いです」仲間が他界、伝統の“いしる”失っても再起めざす

能登半島地震で甚大な被害が出た「輪島朝市」。そこに30年以上立ち続けた女性が、隣県の富山県砺波市で開かれるとなみチューリップフェアへの出店を決めました。輪島での朝市復興へ、歩みを進める女性に密着しました。

23日に開幕したとなみチューリップフェア。300品種、300万本のチューリップが彩る会場は初日から大勢の人でにぎわいました。そのなかに、チューリップにカメラのレンズを向ける女性がいました。

南谷良枝さん:「かわいい。すごいかわいい。こんなにきれいやから、人がたくさん来ると思う」

元日の能登半島地震で被災した石川県輪島市の南谷良枝さん。輪島朝市で販売していた海産物の発送作業をするため震災後、砺波市に度々訪れていました。砺波の春の風物詩、チューリップフェアに来るのは初めてです。

南谷さん:「もう丸4か月。1月1日やったもんね。何も変わってないけど」

南谷さんは、1000年以上続くとされる輪島市の観光名所「輪島朝市」で家族とともに30年以上、海産物の加工品を販売してきました。

ところが…

元日に北陸を襲った最大地震7の地震で、輪島市内は住宅や店舗などおよそ240棟が焼け、焼失面積は4万9000㎡に上りました。一夜にして風景が一変した朝市を、南谷さんに案内してもらいました。

南谷さん:「ここがね。私のお店出とったところなんですよ。ここの前に出とったんです。小屋建てて。本当に若い時からここに混ぜてもらって本当に可愛がってもらった」

30年以上、商売を営んできた場所は建物が倒壊しかつての面影はなくなりました。6年前に建てた加工場も被害を受けました。

南谷さん:「ここね。加工場の下に土ないでしょ。あれでも半壊なんですよね。結構傾いているけど」

加工場の敷地内の至る所に地割れが発生。建物が傾き、作業ができなくなっただけでなく祖母の代から受け継いできた秘伝の魚醤「いしる」の樽が倒れ、在庫のほとんどを失いました。

南谷さん:「情けないですよね。どうしようって感じです。やっぱり商品をこだわって作ってたので…」

再建への道筋がたっていない輪島朝市。朝市に店を構えていたおよそ50店舗の出店者らは商いの場を失い、仕事ができない日々を余儀なくされました。そんな中、被災した輪島朝市の出店者らが朝市復興に向けて立ち上がりました。

金沢市で「出張輪島朝市」を開くことになったのです。前日、南谷さんは娘の美有さんと店の名物である「塩辛」の最後の仕込みに追われていました。被災を免れたわずかな「いしる」を惜しみなく使います。

そして、テントの準備。あの地震から2か月半ぶり店ののれんが掲げました。

南谷さん:「長かったですね。どうしていいか分からんかったんで。ここまでこれて本当によかったです」

そして迎えた「出張輪島朝市」の当日。
会場には干物などの海産物や伝統工芸品の輪島塗など、29店舗が軒を連ね、輪島朝市の象徴であるオレンジ色のテントとともに復活しました。

出店者たち:「エイエイ、オー!」

復興を後押ししようと全国からおよそ1万3000人が訪れ、「いしる」を使った塩辛はわずか2時間で完売しました。

南谷さん:「うれしい。また作る。こういうのが私たちの生きがいなので。まだまだこれから。もっともっと頑張って店を守っていかなければならないし輪島の食文化を守っていかなければってより強く思いました。輪島の女は強いです」

しかし、地震から3か月たっても被災した人たちの心の傷は癒えていません。

4月2日、輪島朝市の通りを南谷さんと訪れましたが、途中で南谷さんの足が止まりました。

南谷さん:「見たくないし行きたくない。どうしてか分からんけど。みんな仲間やしね。あそこに眠ってる人たち。だってどんな苦しい思いをして亡くなったのか分からんのに…」

多くの仲間を失った火災現場には、いまも行くことができません。

南谷さん:「やっぱり輪島に帰ってきてもう一回みんなで輪島朝市やりたいなって思いますね。ただこの光景を見ると。元旦から変わらない光景を見ていると、やっぱり復興が遅いので大丈夫なんかなって不安にはなります」

それでも少しずつ前へ…。
23日、砺波市のとなみチューリップフェアの会場に南谷さんの姿がありました。砺波市の水産加工会社で働く中学の同級生の紹介で2日間、店を出すことになったのです。

南谷さん:「色んなものを失ったんですけど失ったものを思っていても仕方がないので、これから前を向いて頑張るぞ。頑張っているぞっていうのをみなさんに見て頂けたらなって思います」

震災後、発送作業を支えてくれた富山の人たち。まだまだ先の見えない暮らしが続いていますが、これまで助けてくれた感謝の気持ちを込めて南谷さんは店に立ちます。

南谷さん:商売を始めた30年ぐらい前から富山のお客様にはすごくお世話になってるので心配してくださってるお客様に元気やぞっていうのを見てほしいと思います」

© 株式会社チューリップテレビ