【社説】九大跡地再開発 最先端の街へ地元の声を

国内最大級の再開発プロジェクトは何を生み出すのか。住民の関心は高い。関係者は地元の声に耳を傾けながら、時代をリードする街をつくってほしい。

福岡市東区の九州大箱崎キャンパス跡地の再開発が本格的に動き出す。総面積約50ヘクタールは、みずほペイペイドーム福岡7個分に相当する。

都心の天神や博多駅から約5キロ圏で、JR鹿児島線、市地下鉄箱崎線、西鉄貝塚線、福岡都市高速道路に近い交通至便の場所だ。展開によって福岡市の新たな顔になる可能性を持つ。

事業者を公募していた九大と都市再生機構(UR)は、住友商事を筆頭にJR九州、西日本鉄道、西部ガスなど8社が参加する企業グループを優先交渉権者に選んだ。

計画案の特色は、次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」を街づくり全体に活用することだ。

約2千戸の分譲住宅、インターナショナルスクールを含む教育機関、企業の研究拠点やオフィス、フードパークを配置し、各所でロボットや自動化技術による最新サービスを提供する構想を描く。

箱崎地区では福岡市が自動運転などの先端技術を生かした「スマートシティー」の構想を進めており、それに沿った内容でもある。

優先交渉権を逃した九州電力を中心とする企業グループは、収容規模2万人の大型アリーナを計画していた。

これまでの再開発は大型の商業施設をはじめ、集客力を重視する傾向が強かった。住商グループの提案は、緑化面積が多いことからも路線転換がうかがえる。

一方で住商グループの案は街の核が明確でないため、完成後の姿がイメージしにくいといわれる。正式に開発事業者が決まる2025年度に向け、分かりやすい具体像を示す必要がある。

その前提として、住民の意見を聞き取り、計画に反映してもらいたい。

地元からは再開発計画に関して、九大や市の説明不足を指摘する声が出ている。住民と対話を重ねる機会をつくることが不可欠だ。

箱崎地区は九大が福岡市西部に移転するまで、100年にわたって学生街として歩んできた。最先端の技術だけでなく、地域の歴史や文化も街づくりに生かすべきだ。

アジアに開かれた福岡の強みを発揮できる国際性を兼ね備えた街になれば、一段と魅力が高まるだろう。

前例のない大規模な再開発だけに、福岡の官民が一体となって取り組みたい。

優先交渉権者を決める過程では、大型アリーナの是非を巡って地場企業の意見が対立し、企業グループがたもとを分かった。

再開発事業を進める中で、脱炭素化の取り組みは九電グループの協力が必要だ。地場財界は「ノーサイド」の精神で手を携えてほしい。

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