ペットの療養食、サプリ、医薬品…横行するネット販売に思うこと【ワンニャンのSOS】

まずいワン…

【ワンニャンのSOS】#59

ワンちゃんもネコちゃんも、年を重ねると腎機能が低下しやすくなります。あるワンちゃんに点滴治療しながら様子を見守ると、血液検査は改善傾向がみられましたが、腎臓は再生能力がなく、治ったというより悪化させないための下支えのイメージです。

それでもワンちゃんの調子はよくなり、食欲が増してきたので、腎臓に負担をかけにくい低ナトリウム、低タンパクの療養食をお勧めしました。すると、納得して当院で用意しているものの一つを購入していただいたのですが、その次の診察でこう言われたのです。

「先生がおっしゃった通り、療養食はよく食べてくれました」との言葉に続いて爆弾発言が。「同じものをネットで見つけて安く買えました」と。

療養食は、原材料費の高騰や輸送費の値上がり、円安などが重なり、私が開業したころより2倍近くになっています。そんな高さから、療養食を押し売りすることはありません。あくまでもかかりつけ医としてワンちゃんやネコちゃんの体を守るための補助として在庫を準備しています。

ところが、一部の獣医はそんな事情に関係なくネットでの販売ルートを構築。メーカー希望価格を明記するものの、セール期間やポイント還元などで事実上の値下げがまかり通っています。自由競争といえばそれまでですが、格安のネット販売が横行すると、本来、動物病院に入るべき利益はネット販売の獣医に流れてしまいます。

動物病院の経営は、診療報酬のほか、療養食や動物用サプリメントの販売、特定動物用医薬品(ノミやダニの駆除剤など)の販売などで成り立っています。その一つが欠けると、影響は大きいのです。

「たかが療養食でしょう」とは言えません。一部の動物用医薬品までネット販売されているのが現実です。春から夏にかけてよく使われるノミやダニの駆除剤では、ネット販売がかなり広がっています。見過ごせないのは、メーカーがネット販売できるタイプとできないタイプを用意して、事実上、ネット販売を黙認している点です。

■目安の安さより大切なこと

先ごろ、ヒトでは、紅麹を用いたサプリで死亡事故が起きました。市販薬メーカーとはいえ、東証プライムに上場する大企業です。処方薬メーカーでの事故も、世界的にゼロではありません。サプリや医薬品は、用量や用法をきちんと守って使わないと、場合によっては取り返しのつかないことになるのです。

ネット販売では、果たしてその安全性が担保されているでしょうか。目先の安さを追求して、大事なワンちゃんやネコちゃんに“万が一”のことがあったら、“仕方ない”で済ませられるのでしょうか。

かかりつけの獣医さんにワンちゃんやネコちゃんの安全を守ってもらうことを考えれば、ネット販売との価格差はそれほど高いものではないと思うのですが……。

(カーター動物病院・片岡重明院長)

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