【社説】共同親権法案 生煮え議論では不安残る

 子どもの幸せを最優先に、慎重かつ丁寧な議論が重ねられていると言えるだろうか。

 離婚後の共同親権を導入する民法改正案が衆院で可決された。今後、参院で審議され、早ければ2026年の実施を目指すという。

 日本では婚姻中は共同親権、離婚後は両親のいずれかが親権を持つ。離婚した後も両親が協力して、未成年の子の世話や教育、財産管理に責任を負うことが望ましいのはその通りだ。意に反して一方の親とつながりを断たれることは、子どもにとっても不幸である。国際社会は大半が共同親権であり、法案の趣旨自体はうなずける。

 最大の課題は、ドメスティックバイオレンス(DV)や子への虐待で離婚に至ったような場合の対応だろう。共同親権にすることで、接触や被害が断ち切れなくなるのでは本末転倒になる。そもそも離婚に至った両親が、良好な関係を維持しているケースの方がまれだろう。

 共同親権か単独親権かで父母が対立した場合は、家庭裁判所が決める。だが、少ない人員で実態をどこまでつかめるか。DVの証拠がない場合や、逆に虚偽のDV申告も考えられる。与野党は「父母双方の真意によるものか確認する措置を検討する」という付則を設けることで折り合ったが、それで対策が十分とはとても言えまい。

 緊急手術といった「急迫時の事情」や「日常の行為」は共同親権の場合でも一方の親の判断だけで対応は可能とされている。だが、その範囲は極めて曖昧だ。

 衆院の審議では子どもが海外に修学旅行をする際のパスポート取得も議論になった。日常の教育の一環と判断するのが自然なのに、政府は共同親権の場合は両親の同意が要るとした。父母の関係がこじれてパスポートが取得できなければ、子どもは修学旅行にさえ行けないことになる。

 課題は家庭内だけに収まらない。緊急とまではいえない慢性疾患の手術はどうなのか。共同親権の場合は両親の同意が必要で、一方の親だけの同意で手術をすれば後々トラブルになる恐れがある。

 第三者からすれば、目の前の子の親が婚姻中なのか、共同親権なのか、単独親権なのかは分からない。医師がトラブルを恐れ、子への医療行為に及び腰になられても困る。

 授業料などを軽減する就学支援金の対応にも首をひねりたくなる。盛山正仁文科相は「保護者の収入に応じて受給資格を確定する。共同親権なら父母の収入で判定する」とした。これでは経済的に厳しいケースが多いひとり親家庭が、共同親権を選択することで支援金を受けられなくなってしまわないか。

 衆院は「急迫時の事情」「日常の行為」が何かを示すガイドライン制定を求めた付帯決議もした。議論が生煮えだったことの証左と言えよう。これでは法案が子どもの利益最優先をうたったところで、不安を拡大するだけになりかねない。参院でも踏み込んだ議論が進まなければ、今国会成立にこだわるべきではない。

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