【コラム・天風録】金色の鍵

 米紙にもついに「もしトラ」が登場した。もしもトランプ氏が米大統領に返り咲いたら、型破りな姿勢に振り回される日本の不安を詰め込んだ言葉だと伝えている。当選の確度に応じて「ほぼトラ」「まじトラ」「確トラ」の言葉が出回る▲「ほぼトラ」への備えであろう。自民党の麻生太郎副総裁が訪米して、トランプ氏と会談した。「ドナルド」「シンゾー」と呼び合う蜜月関係を築いた安倍晋三元首相の盟友を、トランプ氏は手厚くもてなしたという▲麻生氏に限らず、秋の大統領選をにらみ各国要人の「トランプ詣で」が続く。ただ、岸田文雄首相は2週間前に国賓待遇でバイデン大統領の歓待を受けたばかり。「ジョー」「フミオ」の関係にひびが入らねばいいが▲トランプ氏は麻生氏に記念品として金色の鍵を、ホワイトハウスが描かれた木箱に入れて贈った。大統領官邸のあるじ気取りである。鍵を贈る行為は中世欧州の城郭都市の間で始まったらしい。信頼の証しを意味する▲米国第一主義は「鍵の穴から天を覗(のぞ)く」振る舞いといえる。トランプ氏が復権を果たしたとして、金色の鍵で国際協調の場に連れ出せるか。安倍氏なき対トランプ戦略が問われよう。

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