EV失速で「世界ハイブリッドシフト」が始まった…トヨタのHVが逆転!テスラは大リストラ「日本VS中国」最終決戦で見えた「一人勝ち」の未来

急成長を遂げてきた電気自動車(EV)にブレーキがかかっている。需要停滞に伴い欧米のEVメーカーは戦略見直しを迫られ、コスト競争力に富む中国勢への対抗軸を打ち出せずにいるのだ。市場を牽引してきた米電気自動車メーカー「テスラ」は値下げや人員削減などに踏み切るが、苦境を脱するだけの明るい材料は見えない。EV市場の成長が踊り場を迎える中、“後発組”と揶揄されてきた日の丸勢にはチャンスとなるのか。経済アナリストの佐藤健太氏が語るーー。

テスラは大リストラに進むーー。

「世界のEV販売は厳しい状況だ。メーカーの多くがEVよりもハイブリッド車を優先している」。4月23日、テスラが発表した2024年1~3月期決算はフロントランナーとして歩みを進めてきた同社の厳しい実情を物語るものとなった。売上高は前年同期に比べ9%減の213億100万ドル(約3兆3000億円)となり、最終利益は55%減の11億2900万ドルとなった。減収減益はコロナ禍の2020年4~6月期以来4年ぶりだ。5四半期連続での営業減益となる。

テスラの苦境は、世界の2大市場である米国と中国での不振が背景にある。鈍化する米国のEV市場に加え、低価格競争を仕掛ける中国勢に押され、世界販売台数は前年同期比4%減と4年ぶりにマイナスに転じた。販売低迷で在庫は膨らみ、同社は欧米や中国で値下げに踏み切ってきたが、依然として厳しい状況に変わりはない。

「次の成長段階に向けて準備するにあたり、コスト削減と生産性向上のために会社のあらゆる面を見直すことは非常に重要だ。この取組の一環として組織の徹底的な見直しを行い、全世界で10%以上の人員削減という難しい決断を下した。これほど嫌なことはないが、やらなければならない」。4月15日配信の「ブルームバーグ」によると、米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は従業員宛ての社内メールでこのように説明し、約14万人いる従業員の1割以上を削減するという。

中国政府は国家戦略としてEV促進策を推進

テスラが逆風にさらされたのは、流行に敏感で新商品への関心が高い「アーリーアダプター」といわれる人々の需要が一巡したこともあるが、何よりも中国勢の台頭によるところが大きいだろう。中国政府は国家戦略としてEV促進策を推進し、5兆円以上の販売補助制度を採ってきた。急ピッチで生産能力を拡大した中国勢は2023年の自動車輸出台数が約491万台に上り、日本を上回っている。

特に中国最大手「BYD」の勢いは強烈だ。2023年10~12月にEV販売台数でテスラを抜き、海外での販売を伸ばしている。その最大の要因は車体価格の安さにある。電池メーカーとして創業したBYDは自前で電池や半導体などの主要部品を内製できる分、コスト競争力もスピードも優位となる。欧米のEVに比べ、3~4割程度も安価にできる点は世界の消費者からすれば魅力的だ。

低価格攻勢にさらされるテスラは値下げという苦渋の決断に踏み切っているが、それが販売力強化に結びつかないばかりか、採算悪化につながっている。テスラは安価なEV開発を進める方針を堅持しているものの、株価は年初来で40%超も下落した。米国では約5割のシェアがあるテスラだが、2012年7~9月期以来12年ぶりの売上高の落ち込みは深刻と言える。

トヨタ「EVシェアは最大でも3割、残りの7割はHV、水素エンジン車になる」

事実上の価格決定権を中国勢が握ることに加え、テスラにはさらなる追い打ちもあり得る。それは「もしトラ」だ。米国のバイデン政権は脱炭素戦略の一環として税優遇や補助金などのEV普及策を打ち出してきた。しかし、11月の米大統領選に出馬の意向を示しているトランプ前大統領は「消費者の選択に委ねるべきだ」としてバイデン政権の方針を撤廃する可能性がささやかれる。トランプ氏が返り咲くことがあれば、EV市場に逆風が吹くに違いない。

では、日本勢はどうなのか。4年連続で世界新車販売トップであるトヨタの豊田章男氏は「EVの市場シェアは最大でも3割。残りの7割はハイブリッド車や燃料電池車、水素エンジン車などになる。エンジン車は必ず残る」と見てきた。トヨタのハイブリッド車(HV)は好調で、前年比3割増と勢いを保つ。

EV市場が急成長する中、トヨタは一時「戦略ミス」とも揶揄された。だが、米国市場においてはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(PHV)は好調をキープする。時価総額で自動車メーカー首位のテスラと2位のトヨタは大きく乖離してきたが、60兆円近くに拡大しており、その差は縮まる。昨年の販売台数である約1120万台はテスラの6倍超だ。豊田氏の読み通りならば、今は絶好の好機と言えるだろう。

日産・内田誠社長はEVの普及速度が不透明であるとした上で…

日産自動車は3月に発表した中期経営計画で、EVを中心とする新型の30車種を投じながら2023年度比で100万台増やすことをうたう。内田誠社長はEVの普及速度が不透明であるとした上で「価値と競争力を向上させていく」と述べ、柔軟に対応していく考えを示し た。

日産は、同じく電動化を進めるホンダと欧米勢とのEV電池データ活用で連携する。国内2位と3位のEVでの提携を検討していると報じられており、BYDやテスラに対抗する構えだ。ホンダはカナダでのEV製造も進める計画で、カーボンニュートラルをにらんだ動きを加速させる。

国際エネルギー機関(IEA)が4月23日発表した世界のEV販売(PHVを含む)見通しによれば、2024年のEV新車販売台数は約1700万台で、新車全体の2割に上る。2023年の約1400万台よりも300万台ほど増加し、中国では2024年に全新車の5割近くを占めると予想されている。

EV市場の成長が踊り場を迎える中、「日本VS中国」の戦い

販売戦略を考える上で日本勢の脅威となるのは、やはり急進を遂げるBYDだろう。BYDはアジアでも販売を拡大しており、4月19日には東京・目黒区に正規ディーラーをオープンするなど“日本上陸”を本格化させる。4月12日からは女優・長澤まさみ氏をイメージキャラクターに起用した新CMを展開し、「ありかも、BYD!」と欧州基準の安全性能などを訴えている。日本で増加させる販売拠点は“日の丸勢”への対抗心がむき出しだ。

ただ、トヨタをはじめとする日本勢はHVやPHVだけではなく、EVやFCVまで幅広い選択肢を用意する「マルチパスウェイ」戦略を採ってきた。たしかにBYDなど中国勢による低価格攻勢は脅威と言えるが、高い技術力やコスト抑制に伴う価格競争力が増していけば「日本は負けない」(日系自動車メーカー)との見方は根強い。

EV市場の成長が踊り場を迎える中、「日本VS中国」の戦いはどうなるのか。EV普及策が争点の1つになるといわれている11月の米大統領選もEVの今後を左右することになりそうだ。

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