【集落の教科書】移住定住促進の一助に(4月26日)

 「集落の教科書」と呼ばれる移住希望者向けの冊子をつくる取り組みが全国的に注目されている。県内では、西会津町の中町集落と会津美里町の赤沢地区(雀林、寺崎、八木沢、赤留集落)の二つの教科書が誕生した。他の市町村にも広げ、移住・定住促進に結び付けたい。

 西会津町と会津美里町の教科書は、県会津地方振興局が京都府南丹市の先行事例を参考に作成した。「良いことも、そうでないことも、ちゃんと伝えたい」と、町内会費や役員の決め方、草刈りや水路掃除などの共同作業、ごみの出し方など集落の暮らしの特徴をまとめた。「移住したものの、集落になじめない」といった落差をなくす狙いがある。移住相談会や首都圏の移住関係機関で配布しているほか、振興局のホームページでも閲覧できる。

 特筆すべきは、集落の決まり事などの情報を、必ず守るべき「強いルール」「ゆるいルール」「消えつつあるルール」「慣例や風習」などの基準に分け、イラストとともに分かりやすく示した点だ。ふくしま12市町村移住支援センターが本県への移住に関心のある人を対象に実施した調査では、移住後に必要な支援として「地域特有のローカルルールの情報提供」を挙げた人が多かった。教科書を通じて事前に情報を入手できれば、移住希望者の心の準備に役立ち、不安解消にもつながる。

 教科書づくりを支援する南丹市のNPO法人テダスによると、把握しているだけで本県を含む11道府県の23地区・集落で作成している。集落ごとに異なる280項目以上の情報を調べ、住民の合意を得ながらまとめていく。自らの集落を改めて見詰め直す作業とも言える。おのずと集落の慣習に対する住民の理解が深まり、移住者の受け入れを契機に改善される例も少なくないという。

 教科書の作成に当たっては、過疎地などに移住して活性化に取り組んでいる「地域おこし協力隊」の力を借りるのも一案だろう。2023(令和5)年度に本県で活動した隊員は313人で、都道府県別で3番目に多かった。暮らしにくい習慣などを率直に明かしてもらい、移住者が住みやすく、溶け込みやすい地域づくりを共に考えるきっかけにもなる。(紺野正人)

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