霞む最終処分(36) 第6部 リーダーシップ 環境省 「提言」重さに危機感 年度内の基準作り急ぐ

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分に向け、政治主導の対応を政府に求めた自民、公明両党の復興加速化のための第12次提言。最終処分実現に欠かせない除染土壌の再生利用を「個々の省庁で前に進めることは困難」と言い切った。名指しは避けてはいるが、所管の環境省の遂行能力への疑念がにじむ。

 政府は3月19日、提言の趣旨を反映させる形で東日本大震災からの復興の基本方針を改定した。環境省環境再生事業担当参事官の中野哲哉は「与党提言の指摘は重い」と表情をこわばらせる。問題への対応を強化するよう迫られた省内には危機感が漂う。

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 2024(令和6)年度は県外最終処分を前進させる上で一つの「節目」となる。環境省は、年度内に除染土壌を再生利用する際や、除染廃棄物を最終処分する場合の基準を作る。国際原子力機関(IAEA)が今夏にも取りまとめる再生利用などの安全性の検証結果を踏まえて、国際的な「お墨付き」を得た基準として国民の理解醸成に生かす考えだ。

 現在、環境省は有識者らによる二つのワーキンググループで「除染土壌の再生利用の基準」「減容化技術を含めた最終処分の基準」をそれぞれ議論している。県外最終処分のシナリオをはじめ、具体的な将来像に関する検討結果が年内にも示される見通しだ。

 政府一体の体制を整備しようにも、前提となる再生利用や最終処分の明確な基準がなければ話は前に進まない。担当者は「今は足元を固めることに全力を挙げている」と強調する。

 基準に基づき、最終処分する除染廃棄物の総量が定まれば、必要となる処分場の面積や構造を具体的に試算できる。自治体から受け入れへの理解を得るには再生利用を進め、可能な限り最終処分場の規模を小さく、最終処分量を少なくすることが鍵となる。

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 政府は環境省をはじめ関係省庁の連携を強める体制を整備し、除染土壌の再生利用や県外最終処分を実現するために2025年度から、理解醸成などの取り組みを本格化させる方針だ。

 法律で定められた県外最終処分完了の期限は2045年3月。与党提言は「残された時間は長くはない」とした上で「最終処分地の選定などの具体的な方針・工程を速やかに明示し、県民、国民の目に見える形で取り組みを進めることが重要だ」と指摘する。

 これまでの環境省の対応を見てきた与党の重鎮議員は「時が止まっている。もっと強力に進めなければだめだ」ともどかしさを隠さない。中野は「時間はあっという間に過ぎていく。政府の一員として2045年に県外最終処分を終えるとの約束を果たすため、着実に取り組みを進めるしかない」と自らを奮い立たせた。(敬称略)

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