2024年1月クールの“覇権ドラマ”はやはり「ふてほど」! 冬ドラマを大検証

4月の新ドラマも出そろってきたところで、1月クールの連続ドラマを振り返り、検証する恒例企画をお届け。関東127万台を超えるレグザ視聴データを基に、TVガイドWebで毎週公開している「地上波録画視聴ランキング」の集計結果を発表していく。1月クールに最も録画視聴されたドラマは果たして何なのか?

まずは、1~3月に放送された連続ドラマを放送回ごとに集計した「放送回ランキング」のベスト30から発表しよう。ポイントは1位を100とした場合の割合である(以下同)。

この1月クールの傾向を一目で表したランキングである。1~10位は、TBS金曜午後10時、宮藤官九郎脚本の「不適切にもほどがある!」全10話が完全制覇。しかも初回が10位、最終回が1位で、多少の入れ替わりはあるものの、回を追うにしたがって尻上がりにポイントが増えていっている。放送されるたびにドラマの話題がSNSをにぎわせて、視聴者が増えていくという理想的なパターンで1月クールを制した。このクールの“覇権ドラマ”は間違いなくこの「ふてほど」だったと言っていいだろう。

続く11~20位もやはりTBSの日曜午後9時、西島秀俊芦田愛菜「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」全10話が独占。21~30位も、10本中9本を日本テレビ水曜午後10時の川栄李奈主演「となりのナースエイド」が占めた。唯一26位にフジテレビ月9「君が心をくれたから」の初回がランクインして気を吐いた。

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続いてドラマごとの「平均録画視聴ランキング」を見ていただこう。1月クールドラマを録画視聴ポイントの全話平均の高い順に集計したランキングのベスト20である。

放送回ランキングで上位にランクインした「不適切にもほどがある!」「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」「となりのナースエイド」の3ドラマが順当にベスト3を占めている。放送局別では、4位にも「Eye Love You」を送り込んだTBSの3本が上位を占めたほか、日本テレビがベストテンに3本を送り込んでいる。フジテレビも月曜の2本がベストテン入りを果たした。11~20位は、フジテレビ4本、テレビ朝日5本と、このところドラマ制作に積極的なTBSと日本テレビの2局がほぼ独占する形になった。

実は全体の傾向として、この1月クールドラマはポイントが低調だったといえる。今年1月に特集した23年の年間ドラマ平均録画視聴ランキングに当てはめてみると、首位の「不適切にもほどがある!」がなんとか4位につけているものの、「さよならマエストロ」は16位、「となりのナースエイド」は26位レベルとかなり低い。前年の10月クールの秋ドラマも比較的数字が低く、ドラマ自体の地盤沈下の予兆かと危惧したが、1月クールに限って考えると、その傾向は続いていると言わざるを得ない。

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視聴環境の変化により、録画機によるタイムシフト視聴の比重が減っているという要素は確かにあるが、ソフトとしてのドラマの力が弱まっている可能性が全くないとはいえないだろう。個々の作品を見れば優れた作品は決して少なくない。「不適切にもほどがある!」にしても、その独自性やクオリティーは相当に高いし、時代への目くばせや問題意識、表現スタイルの多様さなど特筆すべき点は多い。ただ、ドラマシーン全体としてのパワーを考えると、少々物足りないのも確かなのだ。

ここで「最終回継続率ランキング」も見ていただこう。「最終回継続率」とは最終回のポイントを初回ポイントで割った数値。最終回継続率が高い(=初回に比べて最終回のポイントが高い)ということは作品内容に対する満足度が高い傾向があるのでは、という仮説に基づいた検証である。

最終回継続率が100%を超えている(=最終回の録画視聴ポイントが初回より高い)ドラマは全部で6本。「不適切にもほどがある!」を抑えて「消せない『私』-復讐の連鎖-」がトップに立ったのには驚いた。日本テレビの「金曜ドラマDEEP」枠で放送された志田彩良主演の復讐(ふくしゅう)劇で、確かに強烈かつ後を引くドラマであった。この枠は、昨年の年間継続率ランキングでも年間1位(「癒やしのお隣さんには秘密がある」)と4位(「夫婦が壊れるとき」)を輩出した「最終回継続率」に強い枠なのだが、この「最終回継続率」というのはなかなか狙ってキープできる数字ではないので、このノウハウは大事に育てていった方がいいだろう。

そして、2位「不適切にもほどがある!」をはさんだ3~6位には、NHKが2本とフジテレビ、テレビ朝日が各1本。NHKの2本はともに漫画原作。「正直不動産」はパート2だし、「お別れホスピタル」「透明なゆりかご」と同じ原作者、同じ脚本家、同じ演出家によるもの。フジテレビの「大奥」もリバイバル企画と言えるし、「相棒」は言わずもがなの人気シリーズである。7位の「おっさんずラブ-リターンズ-」も含めて、安定感のある企画が上位に並んでいる。

この結果から見えるのは、中途半端な既視感のあるものよりも、より強い安定感のあるドラマが見られ続けたという事実だろう。ドラマの制作本数が増えている昨今、バックヤードがドタバタしているのは致し方ないが、だからといって話題性優先や付け焼き刃の企画ではやはり通用しないのだろう。事務所の問題、原作の問題、予算も、ライバルも、コンプライアンスも、乗り越えた先に面白いことがあるのは、おそらく間違いないのだから。

ということで、「不適切にもほどがある!」が圧勝した1月クールの検証からはドラマがいろいろな意味で過渡期にあることが読み取れる。停滞の理由を数え上げるよりも、チャンスと可能性に目を向けるべきだろう。今までの方法論が使えなかったり、うまく作用しなかったりすることを逆手に取って何ができるか。特に「最終回継続率」のランキングにはいくつかのヒントがあるように思う。朝ドラや大河ドラマなども含めて、4月以降のドラマにもワクワクする作品が数多くある。今後も楽しみにして見守っていきたい。

文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社

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