早まると思わぬ損をすることも…「経済圏」の移行で注意すべきこと

日々利用しているさまざまなサービスを同じ系列で揃えることでポイント還元や割引などが受けられる「経済圏」。楽天経済圏、PayPay経済圏、イオン経済圏、ドコモ経済圏、au経済圏などの経済圏を意識して利用している方もいるでしょう。

2024年4月には新たに三井住友グループのVポイントとCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)のTポイントが統合して「青と黄色のVポイント」になりました。新たな経済圏として規模が拡大することが予想されます。

参考記事:生活費を【Vポイント経済圏】にするといくら還元される? どんな人がお得に使えるか調べてみた

各経済圏がサービスを競って顧客獲得をめざすなかで、「別の経済圏を使ったほうがお得かも」と、経済圏の移行を考える人も出てくるでしょう。しかし、経済圏の移行はよく考えてから行うようにしましょう。今回は、経済圏の移行で注意すべきことを紹介します。


よりお得な経済圏が出てきたら移行を検討した方がいい?

現状、まったく経済圏を利用しておらず、「これから経済圏を利用する」というのであれば、自分が一番お得に使えそうな経済圏を選んで使えばいいでしょう。経済圏への「新規参入」はある意味、簡単です。

どの経済圏が自分にとって良いのかの選び方は、過去記事「楽天、PayPay、ドコモ…ポイント経済圏はどう選ぶべき? 自分に合うところを見つける方法」 でも紹介していますのでそちらもぜひチェックください。

一方で、経済圏の「移行」はどうでしょうか。「すでにある経済圏を使っている」「このサービスはA経済圏、あのサービスはB経済圏と複数の経済圏を使っている」という方が移行を検討する際には、移行にかかる手間や時間を考える必要があります。

経済圏を移行するときには、これまで利用してきたサービスを解約し、新たに利用するサービスを契約する手続きが多くあります。

たとえば、自宅のネット回線を別の回線に乗り換える場合には、元の回線を取り除いてもらい、新たな回線をセットしてもらう必要があります。このとき、工事の立ち合いが必要になったり、違約金(更新月以外の月に解約する際などにかかる手数料)が発生したりする場合があります。工事のタイミングによっては一時的にネットが利用できなくなることもあります。

また、クレジットカードや銀行口座を変更する場合には、変更前のクレジットカードや銀行口座で支払っている料金の支払い先変更が必要です。たとえば、

・公共料金(電気・ガス・水道など)
・スマホ代
・自宅のネット回線代
・家賃や住宅ローン
・その他定期的に利用しているサービス、サブスクなど

の費用などが考えられます。変更しないでいると、当然変更前のクレジットカードや銀行口座に請求・引き落としがかかりますし、残高がないとなれば延滞してしまうことになります。

これらの手間や時間(場合によってはお金も)をかけても経済圏を移行したいのかをまず考えてみましょう。

もっとも、経済圏を移行するといっても、今利用中のすべてのサービスを移行「全移行」の必要はありません。後述しますが、たとえば「キャッシュレス決済」や「電気代・ガス代」「スマホ代・ネット代」など、一部のサービスだけ部分的に移行する「部分移行」によってメリットがあるのであれば、全移行するより少ない労力でお得にできます。

経済圏の移行で注意すべき3つのポイント

経済圏を移行しても「思ったより得にならなかった」「むしろ損だった」となるのは嫌ですよね。経済圏を移行するときには、次の3つのことに注意しましょう。

●経済圏の移行の注意点1:ポイント還元率やルールの変更は頻繁にあるものと割り切る

各経済圏のキャッシュレス決済やサービスを利用したときのポイント還元率や、ポイント還元や割引を得るためのルール(条件)の変更は頻繁にあります。

たとえば、楽天グループの系列サービスを利用することで楽天市場利用時のポイント還元率がアップする「SPU」(スーパーポイントアッププログラム)の達成条件や達成時のポイント還元率は、本稿執筆時点(2024年4月22日)で2024年に1回、2023年に4回、2022年に3回、2021年に5回などという具合に、年数回変更されています。

この中には、新たにポイント還元の対象になったり還元率が上がったりしたものもありますが、対象から外れたり還元率が下がったりしたものもあります。

楽天グループに限らず、こうした還元率やルールの変更はよくあります。後から「改悪」になるかもしれない点は押さえておきましょう。

●経済圏の移行の注意点2:キャンペーンに飛びつかない

各経済圏が実施するキャンペーンのなかには、普段は得られないような高還元や割引が得られるものもあるので、うまく使えばお得です。しかし、あくまでも期間限定です。期間が過ぎればキャンペーンは終わりますし、同種のキャンペーンがまた行われる確証もありません。

たとえば、スマホ決済の黎明期に大きく話題になったPayPayの全額還元キャンペーンは、以後もたびたび開催されています。2024年2月16日〜4月15日に開催されていた「PayPayスクラッチくじ」は、買い物の際にもらえるくじによって最大で決済金額の100%(上限10万ポイント)が当たるキャンペーンでした。

たしかに当たればすごいですが、そもそも当たるかどうかはわかりません。PayPayスクラッチくじの当選確率は、所定の条件を満たすとアップさせることができました。ただ「ソフトバンクユーザーなら必ず当たる」といっても1等が必ず当たるわけではない(多くは3等(決済金額の0.5%))ですし、「ペイトクユーザーなら1等・2等の当選確率が20倍」であっても1等や2等が必ず当たるわけではありません。当選確率を上げたいからとソフトバンク・ペイトクを使って、かえって通信費が割高になってしまっては本末転倒です。

キャンペーンはお楽しみ程度にとらえておき、経済圏移行の決め手にしないようにしましょう。

●経済圏の移行の注意点3:新NISAの資産は「移管」ができない

銀行や証券会社を移行したい場合、まず移行する金融機関に口座を開設する必要があります。口座開設が終わったら、あとは銀行預金を移動するように保有している資産も移せればよいのですが、そう簡単にはいきません。

株や投資信託、債券といった資産を売却せずに他の金融機関に移す場合には、「移管」という手続きが必要です。ただし、移管にはどんなに早くても1週間程度の時間がかかりますし、移管先の金融機関で扱っていない商品は移管できません。金融機関によっては移管に際して手数料がかかる場合もあります。

さらに、新NISA口座にある資産は移管ができません。たとえば、2024年にA証券で新NISAを利用して資産を保有している人が、2025年はB証券で新NISAを利用する場合、2024年のA証券の新NISAの資産はB証券に移管できません。新NISAでは、1年ごとに金融機関を変えられるルール(金融機関の変更にも手続きが必要)になってはいますが、毎年変えてしまうと、新NISAの資産が複数の金融機関に分散してしまい、資産管理の手間が大きくなってしまいます。新NISAを利用する金融機関は、なるべく変更せずに済むようにしたほうがよいでしょう。

どの経済圏を利用するかで還元率に多少の違いはありますが、「経済圏を移行したらポイントがこれまでの10倍貯まるようになった」というような劇的な違いはありません。それに、どの経済圏のサービスも似通っているので、生活の質が大幅に変わることもないはずです。

多少の還元率の違いをメリットと感じて、手間と時間をかけて経済圏を移行しても、後からルールが変わってしまうこともありえます。もしも、上で述べたような違いで経済圏の移行を考えているのであれば、焦って経済圏を移行する必要はないと考えます。

経済圏を移行したほうがいい人もいることは事実

一方、経済圏の移行を積極的に考えたほうがいい人もいます。

●複数の経済圏を利用している人

経済圏は、系列のサービスを使えば使うほどお得になっていきます。ですから、あれもこれもとさまざまな経済圏を利用していると、それぞれのお得度が少なくなってしまいます。また、いろいろなポイントが少しずつ貯まっている状態になり、ポイントを上手に使えなくなってしまいます。利用する経済圏はできるだけ集約して、そのなかでサービスを使う(使い分ける)ようにするのがおすすめです。

たとえば、複数のキャッシュレス決済を利用しているなら、

・対象のコンビニや飲食店では「三井住友カード」のスマホタッチ決済で7%還元
・その他の店舗では「PayPay」で最大1.5%還元

などと2つに絞って使うようにすれば、VポイントとPayPayポイントがたくさん貯められるようになります。Vポイントの高い還元率とPayPayの多くの店舗で利用できる利点を活用できます。

●「セット割」でお得になるサービスを利用している人

たとえば通信費はスマホ代と自宅のネット回線代、光熱費は電気とガスといったように、「セット割引」が利用できる場合があります。もしもスマホとネット回線が別の会社、電気とガスが別の会社、などとなっているならば、それを1つにまとめるだけで、年間の利用料を抑えることができ、ポイントも効率よく貯められます。

また、経済圏によってはゴールドカードを利用してこれらの料金を支払うことでお得になる場合もあります。具体的には、次のような具合です(いずれも、各社の定める条件を満たした場合の最大還元率です)。

【PayPayカードゴールド】(PayPayポイント)

・ソフトバンクスマホ 10%還元

・ソフトバンク光/Air 10%還元

・ソフトバンクでんき 3%還元

【dカードゴールド】(dポイント)

・ドコモのケータイ 10%還元

・ドコモ光 10%還元

・ドコモでんきGreen 6%還元

【au PAYゴールドカード】(Pontaポイント)

・au携帯電話 10%還元

・auひかり 10%還元

・auでんき・都市ガスfor au 3%還元

これらのゴールドカードの年会費はいずれも1万1000円(税込)ですが、年会費を支払ってもポイント還元の方が多くなるのであれば、利用の余地はあるでしょう。

●貯めたポイントを有効活用できない人

ポイントはお金と同様に利用できますが、いくら貯めても使わなければ意味がありません。生活圏の店舗やネットショッピングなどで利用できない(しにくい)ポイントを貯めても、有効活用できなければせっかくの割引が台無しです。また、せっかく貯まったポイントの有効期限が切れてしまうからと、それほど必要でもないものを無理に購入するのでは本末転倒。割引どころか、むしろ無駄遣いになりかねません。

生活圏で有効活用できるポイントが貯まっていないようであれば、有効活用できるポイントがもらえる経済圏に移行したほうがよいでしょう。

経済圏を使ってたくさんのポイント還元・割引が受けられたらうれしいですが、早まって経済圏を移行すると思わぬ損をする可能性があります。経済圏を移行する際は、本当にお得になるのかをよく吟味した上で取り組むようにしましょう。

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