AI導入でベテラン職員並の選定能力も?税理士が語る今どきの税務調査事情

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飲食店を営む経営者から、「みんなの税務相談(※)」に税務調査についての相談が寄せられた。

投稿によると、税務署の職員が「税務調査をさせてほしい」と突然来店。税理士立ち合いのもと調査は進み、過去3期分の書類一式を持ち帰ったという。それから1か月半音沙汰がない状況とのことだ。

相談者は「売上をごまかしたり、脱税など一切致しておりませんし年商も1500万程度です。経費も私的なモノは一切入れていないし、黒字決算で税金もちゃんと納めています。なのにどうしてウチに来たかと尋ねると、『AIが判断したから』と言われました」という。

AIが調査対象の選定をしているというのはどういうことなのだろうか。

●AIが申告漏れの可能性の高い納税者を判定

国税庁では現在、業務効率化を実現するためDXを推進している。税務調査においてはすでに全国の税務署にAI・データ分析を導入し、申告漏れの可能性が高い納税者等の判定を行っている。つまり税務調査の対象者になるかはAIが選定しているのだ。

AIが導入されたことで、税務調査はどのように変わっていくのだろうか。昨今の税務調査について、リアルな実態を佐原三枝子税理士に聞いた。

●ベテラン職員の選定ルールをAIが学習し、精度が向上

ーー先生自身、税務調査にAIが導入されたことで、何か変化を感じられていますか?

「昨年秋から税務調査が異常に多く、税務署へ営業妨害だと文句を言いました(笑)。

あまりに調査が多い理由を聞くと、『コロナ禍で実地調査ができず若い職員のトレーニングができていない。研修所へ数か月送るのだが、その前に実地調査を受けさせる段取りになっていて、そのために協力してもらいたい』という回答でした。

実際にAIで選定されたかどうかは明言されませんでしたが、調査対象を選定するのにAIを使うのは理にかなっていると思います。

急に売り上げが伸びた、利益率や利益構造が大きく変わった、業界的にあるべき収益が上がっていないなど、これまでベテラン職員が嗅覚を働かせて選定していたルールをAIに学習させ、申告データをソートして対象を選定し、実地調査を行い、その結果をフィードバックすることで、さらに精度を上げていくことになるのでしょう。

ただ、昨年秋からの調査は、私から見てちょっと的外れ?な感じがするところが選定されているように思われました。そのためさほど成果がでないので、かえって細かいことを指摘されてうんざりするという傾向になりがちでした。もしAIが選んでいたのだとするとそういった意味ではまだAI が未熟なのかもしれません」

●税務調査は終了までに半年以上かかるケースも

ーー税務調査の終了までの期間が長くなるというのは、どういった状況が考えられるでしょうか?

「このように若手育成のため調査が立て込んでいるので、調査終了後のお知らせは本当に遅かったですね。まず、事案が立て込んでいて、署内での決済に時間がかかるというのが昨年からの調査の傾向です。

そのほかに考えられるのが、『税務署が疑いを持ったことで会社のみならず、役員や親族の個人口座、関連取引先へ反面調査を展開した場合』です。

何も悪いことなどしていなくても、痛くもない腹を探られているかもしれないと思うと、いい気はしません。あまりに連絡が遅い場合は、税理士を通じて税務署へ連絡を入れてもらい、進捗の確認をしましょう。

私の経験で終了までの期間が長かったのは、昨年夏に始まり、先日決着したという事案です。税務署の方は様々に想像力を働かせて疑念を持たれたようで、いろいろ調べておられました。

国家権力の前にはプライバシーなど無く、何でも開示されるのだと驚くばかりでしたが、丁寧に説明をし、ご理解いただいて何事もなく終結しました。ですが、その間、経営者は落ち着かない日を過ごされたとのこと、申し訳なく思いました」

●電帳法の浸透でAIによる税務調査がさらに進歩する?

ーーそのほか昨今の税務調査事情について、感じられていることがあればお教えください。

「以前は『職人』を感じる税務署員の方がいたように思います。何気なく元帳をめくりながら、こちらが『嫌だな』と思うページのところでピタッ!と指が止まり、わきの下がじわ〜っとするというような経験もしました。ですが、最近はマニュアルに沿って粛々と調査が行われる感じですね。

この頃思うのは、電子帳簿保存法が浸透しクラウド会計が主流になると、調査はどのようになるのだろうかということです。クラウド会計のデータを直接見せることになるのでしょうか?

クラウド会計なら元データである請求書や領収書と仕訳が紐づいているので、元帳を出力したり元資料を用意したりする手間が省けて効率的だという意見もありますが、仕訳に添付したコメントのやり取りやデータの訂正履歴なども丸見えになる可能性もあり、それはそれでどうなんだろう?という気がします。

データは様々にソートして検証できるので、紙よりデータの方が調査の精度は確実に上がりますし、データなら個別の調査にAIを導入することも将来的に可能になるでしょう。職人のような職員さんがいた時代がちょっと懐かしくなるかもしれません」

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【取材協力税理士】
佐原三枝子(さはらみえこ)税理士
Beautiful Business Beautiful Life 中小企業の利益構造と経営者の思考を美しくし、関わる人すべての人生を豊かにすることを理念に掲げ、税務、人事、DXを柱として税理士を超えた経営コンサルティングを提供している
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:https://www.office-sahara1.jp/

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