迷ったらコレ! 映画のプロ・批評家3人がオススメする新作映画【2024年4・5月版】

作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。頻発する地震で体調悪し。いつ何時災難が 降りかかってくるやら…。鴨長明の「方丈記」が妙に生々しい。

斉藤博昭
映画ライター。アカデミー映画博物館訪問。歴代のスピーチ名場面集に涙し、『ゴッドファーザー』の馬の頭の展示に驚愕。

まつかわゆま
シネマアナリスト。神保町で古本市に出くわし思わず爆買い。だってアマゾンの半額。でも、重いのなんのって。へたる(笑)

土屋好生 オススメ作品

『プリシラ』

単にセレブの夫婦物語というだけでなく女性の生きる姿勢への問題提起になっている

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽3

あらすじ・概要
夫は一世を風靡したエルヴィス・プレスリー。妻は夢のような恋に落ちたティーンのプリシラ。2人の出会いから別れまでの波乱の日々をソフィア・コッポラ監督が時代と人間への深い洞察を込めて描いていく。

プリシラについてはおろか、エルヴィスについても常識的な知識しか持ち合わせていない筆者にとって、興味津々の恋愛物語である。

それにしても2人が出会ったのはプリシラが14歳の時というからびっくり。その時エルヴィスは20代、プリシラも若い母親としてやがて離婚を経験するのだから人生経験も豊富といっていい。がそこで明らかになるのは自分自身を見つけだそうとやっきになり、もだえ苦しむ夫婦のあり方であり、若妻の生き方である。

もっと言えば極端な年齢差をかかえた若妻の底知れぬ孤独と不安である。その意味でこれは若妻の物語というより紆余曲折の人生にかかわる重要な問題をはらんでおり、単にエルヴィスとプリシラという夫婦の関係を越えた女性の生きる姿勢そのものへの問題提起になっている。

その若妻プリシラを演じたケイリー・スピーニーの実にチャーミングなこと! ベネチア国際映画祭最優秀女優賞もむべなるかな。ただそれを字義通り受け取らず、半ば若さを持て余し気味なところにこの夫婦の限界が見えてくる。離婚も必然というべきか。

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公開中/ギャガ配給

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斉藤博昭 オススメ作品

『異人たち』

設定をゲイの世界に変更したことで原作が時代や国を超える喜びを満喫でき、心揺さぶられる

評価点:演出4/演技5/脚本5/映像4/音楽4

あらすじ・概要
ロンドンで暮らすアダムは、同じマンションの住人ハリーの突然の訪問に戸惑うも、彼のことが気になっていく。アダムが子供時代に暮らした街へ向かうと、30年前に死別した両親が当時のままの姿で現れた。

大林宣彦監督の映画版は、山田太一の原作にかなり忠実だったが、今回はアンドリュー・ヘイ監督のアイデンティティ、家族との関係を濃厚に投影。それがストーリーにも説得力を与えることになった。

主人公アダムが、ふと気になった男性について行くのも、父の面影を感じるというより、ゲイとしての自然な行為に見える。ロンドンから、かつて住んだ町に戻る電車も、どこかタイムマシンに乗ったような感覚がもたらされる。

作品のジャンルはホラーで、大林版のクライマックスはそのムードが強調されていたが、本作はあくまでエモーショナルさが優先され、ラストは解釈が分かれつつも後味は美しいと感じた。

時代とともに変わってきたセクシュアリティへの向き合い方、ゲイとクィアの使い分け。そしてフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの曲などカルチャーとのリンクなど、原作が時代や国を超える喜びを満喫。作品全体の評価は人それぞれかもしれないが、アダムと母親のベッドでの会話を長回しで撮ったシーン、もう会えなくなる相手への慈しみに、心揺さぶられない人はいないだろう。

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公開中/ウォルト・ディズニー・ジャパン配給

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

まつかわゆま オススメ作品

『オッペンハイマー』

各賞総なめ、早くも今年一番の話題作決定過ちを繰り返させぬためにノーラン立つ

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽5

あらすじ・概要
第二次大戦中、原子爆弾の開発を成功させたオッペンハイマー。科学者の栄光を求めながら原爆のもたらした結果に苦悩し、水爆開発に反対。政治に裏切られ”民衆の敵”にされた男の生涯を描く。

私はノーラン信者ではないが彼のこだわりが何層にも詰め込まれた本作には圧倒された。原爆被害を具象的に描いていないとの非難をおそれたか日本公開は遅れたが、1945年広島の女学生だった母を持つ私は本作を支持する。本作で大事なのは科学者の暴走を戒め“技術進化信仰”に疑問を呈し、核爆弾を二度と許さないことなのだ。

オッペンハイマーは教養もある科学者だから原爆が生物にどんな影響を与えるかはイメージできたはず。投下の一報が届き研究所が興奮に包まれる中、所員たちに演説するシーンで、ノーランはオッペンハイマーの抱いた“原爆投下をされた世界”のイメージを描く。観衆の熱狂を無音に、閃光で消える人々、紙のように燃え上がる若い女性、かぶさる音声にうっすらと阿鼻叫喚の悲鳴、足元には炭化した遺体、降り注ぐ灰。

燃える女性を実の娘に演じさせることでノーランは核の恐怖を自分事として映画に刻み込んだ。科学も核も権力の駒として使わせてはならない。大統領選挙の年のアメリカと世界へ、ノーランの警告なのである。

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公開中/ビターズ・エンド配給

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